兎人族の男
ハッスルダンスを披露すると、ウサ耳男は完全に回復した。
本当に良かった。いきなり殺人犯になるとこだった。
「すげえ、全然痛くないぞ! むしろさっきより元気になったくらいだ! お嬢ちゃんなにやったんだ?」
「ハッスルダンスだよ!」
「そうか。いきなり変な動きしだしたから何事かと思ったぜ……ハッスルダンスってなんだ?」
「元気になってよかったわ」
「友達が戻ってきたら家まで送るよ。シュバルツならどこへでもあっという間だから」
「馬車でもあるのか? わりいなあ、すっかり元気だっていうのに」
「家は遠いの?」
「この草原の端っこに、兎人族の集落があるんだ」
「そうなのね」
「そんなに遠くないし、元気になったからひとりで帰れるぞ」
「ううん、送ってくよ! 兎人族の村に行ってみたいし! ね、アイシャ!」
「ええ! 興味あるわ!」
「そ、そうか」
兎人ばかりの村か~。
前世ではいったことがないから、きっとあまり大きくないか最近できたのかな。
皆ウサ耳なんて、ファンタジーっぽくていいなあ。
主食は人参かな。
ピー○ーラビットの家みたいな感じかな。
シル○ニアファミリーみたいな?
シュバルツが帰ってくるまで休んでいようと、私たちは適当な岩に腰掛けた。
体力は回復したものの、気疲れまでは取れないのだろう。
男性もやれやれと大儀そうに腰をおろした。
ウサ耳男が回復したことでほっと安堵した私とアイシャは、そのふさふさとしたウサ耳にくぎ付けである。
兎人族は戦闘力があまり高くない。戦闘ばかりだった前世ではあまりお近づきにならなかったのだ。
それに、マルク村から出たことのないアイシャも兎人族を見るのは初めてだろう。
「頭から髪の毛みたいに耳が生えてるのね」
「頭ははげるのに、ウサ耳ははげないんだね」
「やめてよ。禿げ上がったウサ耳なんてみたくないわ」
「つるぴかのウサ耳……新しいね。斬新」
「根元の構造が気になるわね」
ツルピカのおかげで、ウサ耳との接合点が非常に良く見えるため興味が尽きない。
ウサ耳の男性は、あまりにあけすけに話していたためか苦笑して口を開いた。
「助けてくれてありがとうな。俺は兎人族のハクトってモンだ。お嬢ちゃんたちの名前も教えてくれるか?」
「私はアイシャ。こっちはレティ。冒険者よ」
「そうか……兎人族を見るのは初めてか?」
「あ、ごめんなさい。じろじろ見ちゃって失礼だったわね」
「いいさ。お嬢ちゃんたちは珍しいだけで悪気はねえだろ」
「うん。ベイテムでは虎人族や犬人族は見かけたけど、兎人族はいなかったよ」
「まあ俺たちの種族は臆病だから、あんま集落の外にはでねえからな」
人間に様々な国や人種がいるように、獣人にも多くの種族がある。
ただ人間と違うのは、獣人は種族ごとの特性がより顕著だということだ。
すなわち、虎や狼などの強い動物の獣人は気性が荒く戦闘力も高いことが多く、兎やネズミのような種族は臆病で戦闘力が低いのだ。
もちろん例外はある。
ムキムキ筋肉うさぎのハクトさんはどう見ても弱そうには見えないしね。
「貴方は別なの?」
アイシャはハクトさんのマッスルボディを見ながら首を傾げた。
兎と言ったら白くてかわいいイメージがあるもんね。
「ああ。俺は兎人族の中でも異端でな。昔っからでかくて兎人族の中じゃあ強い方だ」
ハクトさんはそういうけれど、恐らく冒険者の中でも強いほうなんだろうな。
戦っているところは見ていないけれど、身のこなしとかでなんとなくだけど。
「お嬢ちゃんたちは大丈夫だったか? いきなりなんか飛んできて背中にぶち当たってよ。魔物かなんかの仕業だろうが、強力な一撃だったぜ」
「そ、そうなの?」
「ああ。この草原はそんなに強い魔物はいないはずなんだがな。えらくやばい奴がいるみたいだ」
「「ソーナンダー」」
アイシャと私はひくひくと口の端をひきつらせた。