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プリュドと千本ノック


「はあ、失敗した……」

「ホントにね。大体レティがほいほいアイテムボックスを使うからいけないのよ」

「うう。なんか色々あって隠すのを忘れちゃったんだよね。容量拡大のカバンを持ってるってことにできて助かったよ、ありがとうアイシャ」

「アンタ、混乱して役に立たなかったもんね」

「高ランク冒険者のお使いってことにしなけりゃどうなってたか……はあ」

「かなり疑われたけどね」


それもこれも、全てタンゲさんが悪いと思う。タンゲさんがタンゲさんに似てなければこんなことには……


「でも路銀も寂しくなってきてたから、買い取ってもらえて助かったわね」

「うん。しばらく働かなくて済みそうだよね」


買い取り代金は、恐ろしいほどの額になってアイシャは腰を抜かしそうになっていた。

具体的には金貨三百枚。

この世界の金貨は地球では大体一万円くらいの価値だから、三百万ほどのお金を手にしたことになる。

農村で過ごしてきた今世では手にしたことのない金額だ。


「さあ、すぐに帰るわよ!」

「アイシャったら。そんなに焦らなくても、プリュドは優しいから怒らないよ」


プリュドは有名人なので、冒険者ギルドに来たら騒ぎになってしまう。

あまり目立ちたくない私たちには都合が悪いので、プリュドは宿でお留守番を申し出てくれたのだ。でも結局目立っちゃったから、一緒に来ても大して変わらなかったかな?


「優しいのはレティにだけでしょ⁉ 魔法を教えてくれるのはありがたいけれど、あの厳しさはどうにかならないのかしら。何度も命の危険を感じたわ」

「プリュドがいるから滅多に死なないし大丈夫だよ」

「そういう問題じゃない!」


アイシャはぷんぷん怒っている。

ここに来るまでの道中で、アイシャはプリュドから魔法を教わっている。

確かにアイシャの言う通り、初心者にはなかなか厳しい授業かもしれない。


「でもプリュドの攻撃魔法はそんなに強くないでしょ? 治癒術が本職なんだし」

「はあ⁉ 治癒術師だとは思えない威力だわ! レティも受けてみたらわかるわよ!」


この言葉がフラグになっていたのか……

だいぶ待たされて怒ったプリュドの魔法を受ける羽目になった私だった。

なんでなの。



気持ちいい風が吹く草原で、私はバット……じゃない、剣に見立てた木の棒を構えていた。

五十メートルほど向こうには、愛用の杖を構えたプリュドが立っている。

アイシャはその隣で不敵に笑っていた。

プリュドの魔法を受けるために、わざわざベイテムの外の草っぱらまで連れてこられたのだ。

ちなみに、シュバルツは空のお散歩に出かけている。また美味しいお肉をとってくるそうだ。


「レティが死んでる間に、プリュドも強くなったんですの! 負けませんの!」

「もう勇者じゃないんだから、お手柔らかにね」

「なにを甘っちょろいことを! 私の苦労をしるがいいのよ!」


すっかりへそを曲げたアイシャまで怒鳴ってくるし。

私はやれやれと肩をすくめた。


「いつでもいいよー」

「いきますの!」


気分はバッターボックスに立つ野球選手だ。

ブンブンと素振りをしていると、プリュドが杖の先から炎弾を放ってきた。


うーん、確かに前世で見たときよりも勢いと威力が増してる気がする。

でも、本職の魔法使いブリジット比べれば……


「ちぇすとおーー!」


木の枝を思い切り振りぬくと、炎弾を打ち返す。

うむ、今のはなかなかいいフォームだったと思う。

つぎは一本足打法を試してみよう。

ていうかこれ、まるっきり千本ノックだよね。

プリュドの隣で、アイシャが顎が外れそうな位口を開けているのが見えた。

せっかくの可愛い顔が台無しだ。

次々と打ち出される炎弾を、どんどん打ち返していく。

打ち返すといっても、二人にあたると危ないのですべてホームラン狙いだ。


「あ、風弾と水弾も交じってきた。ホントに腕をあげたなあ」


もはや弾幕と化した炎弾に隠れるようにして、風と水の玉が飛んでくる。

しかし魔力を通した木の枝は、なんなくすべてをはじき返す。


「あっ魔物」


視界の端に魔物の姿が横切ったので、そちらに向けて弾いてみた。

炎弾は魔物に着弾し、鹿らしき魔物が吹っ飛んだ。


「ジャイアントディアーかな? これ楽でいいな、どんどんいこう」


魔物が見えるたび、プリュドの魔法弾を撃ち込んでいく。

調子よくヒットを連発していた時、空の上からちょっぴり焦げたシュバルツが落ちてきた。


「……レティ」


シュバルツに気付いたプリュドが炎弾をとめてこちらに走ってくるのが視界の端にうつるなか。

私はシュバルツの説教を涙目で聞いていたのだった。



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