39、単騎戦の大将に選ばれました!
地獄界から、休戦協定が届いた。その内容に、修羅界幹部達は激怒する。
地獄界には、こちらを煽って戦争を継続させ、六界の支配構造を変えようという魂胆が見える。
ヨトゥンヘイム城内潜入組みの俺達は、バベルでG9メンバーに合流した。
乾闥婆王以外の守り手の巫女は、残念ながら身体の再生は不可能だった。人造の身体に入魂しても、ホムンクルスの身体ではゲートを潜れない。無間地獄の中でしか生きられないのだ。
彼女達の数千、数百年の苦悩は誰にも理解出来ない。出来れば生きて欲しかったと思うが、永遠の安息を信じて、彼女達は解脱を選んだ。
バベルからヨトゥンヘイムへ開門し、門の中へ、アルテメットエクスプロージョンを放つ。守る者が居なくなった、巨人の街は消滅した。
乾闥婆王の魂は救出したが、何百もある地獄界の拠点地を、1つ潰したに過ぎない。
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数日後。修羅界で待機中の、部隊長と参謀役に収集がかかる。
王の間の会議室で、六芒星とエジプトや日本、ヨーロッパ地域の神々が描かれた円卓に腰掛ける。レンゲに、神々の絵は何かと聞いたら、雰囲気を出すためと言う返答だった。そんなもんかね?
「地獄界から休戦の提案がありました」
修羅界王であるアスラが、バイオレットの瞳を皆に向ける。
「都市を潰されて、いよいよ焦って来たのでしょうか?」
突撃部隊「白夜」を率いる華光が、膝までブーツで太もも丸出しの足を組む。革製の短パンもセクシーさを倍増させる。人界なら40代前半のお色気ムンムンといったところか。思わず横目で白肌モモをチラ見する。すいません、節操が無くて。
「今更ですな。我が隊は多くの犠牲を払いました。ここは一気に敵の本丸へと攻め込み、閻魔の首を獲るべきかと進言したします」
ヨトゥンヘイムの戦いで、半分以上の部隊員を失った光明王はご立腹だ。
「十王の力を侮ってはいけません。大陸を沈めた宝具も持っています。ここは、当初の計画通り、徐々に敵戦力を削いで行くのが定石かと存じます」
十王をよく知る「雷電」部隊長のフールが言った。
どちらの意見も一理ある。
戦士の犠牲を最小限に抑えるなら、十王達のいる審判の間へ開門して、一気に落とす事も攻略への早道だ。但し、大王達がそこに居ればの話だが。誘い込まれて全滅だって有り得る。
「いずれにしても、休戦協定の内容次第ですね。阿修羅王、十王の条件はどの様なものでしょうか?」
「魔笛」部隊長、三宝荒神。修羅界での実質ナンバー3だ。
ガタイのいい猛者だが、威圧的でも無いし、普段は物静かで親切だ。G9のメンバーも、修羅界やバベルで、色々世話になっている。
自分に自信がある人物は違うな。自尊心の低い人間は、すぐに威張ったり、人の貴重な時間を奪う事に一生を費やす。俺も、そう言う不毛な人間にだけはなりたく無いと、日頃から精進している、、、つもりだ。
「閻魔大王からの条件は、1つ、バベルを地獄界へ返還する事。2つ、蓮華王とジンを人質として差し出す事。3つ、こちらの所持している宝具を全て差し出す事」
アスラが、静かな声で地獄界からの休戦提案書を読み上げると、その場の部隊長クラス何人かは、憤慨して立ち上がった。
「馬鹿な!そんな条件は休戦協定とは呼べません!」
「そうです!ジン殿はともかく、我が修羅界の王妃を人質とするとは、破廉恥にも程がある!」
ジン殿はともかくってのが、気にはなる。
「我々を舐めています。バベル撤退や宝具に関する事、ウルカヌス神の宿るジン殿。こちらの戦力を削ぐ事に終始しています。到底受け入れられません!」
「阿修羅御前です。皆さま謹んで下さい」
口を閉ざしていたラングスが、興奮する戦士達へ、響きの良い声で言った。
立ち上がった部隊長達は、罰が悪そうに席へ戻る。
人前だと、よそ行きのすまし顔で、修羅界プリンセスが、一同を見回して言う。
「皆の気持ちもわかります。到底受け入れられる条件ではありません。そこで、バベル返還を条件として、こちらから単騎戦を提案します」
なるほど。こっちが勝てば、敵の王クラスを1人でも減らせる。
「あくまで戦争ではなく、私闘。果し合いの形を取ります。戦争を終結させる為という大義名分で、天界で対戦します」
「良い案だと思いますが、こちらのメリットはありますか?」
修羅界藩主の1人、フォーラスが手を上げる。先鋭部隊「アルファ」を率いるスカーフェイスだ。顔に、レンゲに挑んだ時にやられたという刀傷がある。
レンゲが作戦内容を続ける。
「こちらが勝てば、煉獄を明渡せと条件を付けます。閻魔王がその様な条件を実行する事はありません。地獄界との戦争は継続されます。今回の単騎戦の目的は、敵の王クラスの実力を知る事。もう一つは、閻魔の本当の狙いを天界にも知ってもらう事です」
「地獄界の本当の目的とは、何でしょうか?」
部隊長クラスの1人が、修羅界王達に聞いた。アスラは、なぜか俺に質問を投げかける。
「閻魔の本当の目的。ジンならどう考えますか?」
俺は地獄側に、本来十王の管轄領土である、修羅界をとりもどす事。それ以外に、別の意図がないかと考えた。
「俺なら修羅界との戦争に、天界やその庇護を受けている人界を巻き込む」
「戦時協定を無視してかジン氏?」
フールが俺の危惧に質問する。ところでジン氏ってなんだ?
俺は幹部クラスに話を続ける。
「この戦争は、大将の首を取っても終わらない。例え、閻魔を倒しても他の十王が意思を受け継ぐ。こっちも同じく、アスラが倒れても、レンゲやここに集まった俺たちがいる。今回の戦争に乗じて、閻魔が考えそうな本当の目的は何か?って話だな」
地獄界出身の幹部達は、閻魔を含む十王のやり方を、よくわかっている。
三宝荒神が、なるほどという顔をする。
「確かに、今現在では地獄界側が一番恐れているのは、天界の動向だろう。修羅界と天界が手を組めば、困るのは閻魔達だ。ただ、いつまでもガブリエルの顔色を伺っている閻魔じゃない」
「前の戦争と同じく、地上人を巻き込んでの異界戦争を、十王達は考えているって事ですね。自分達が不利にならない様に、天界を巻き込み、混乱に乗じて人界から霊力使いを補充する」
ラングスも、俺の話に乗ってきた。勝つために、あらゆる障害を排除しておいた方が良い。
「流石はバルカンの転生したお方。考えが深い」
華光は俺の意見に賛成してくれた。良い子良い子と、頭をなでなでして欲しい。膝枕状態がいいかなぁ〜。すいません節操なしで。
「前の大戦での、三つ巴の戦いの再現。閻魔なら考えますね。六界を再び混乱に導き、最終的には自分達がエデンと地上を支配する」
アスラの静かな声が、六界暗雲時代の到来を予見する。
煉獄で見てきた状況を、ラングスが皆に伝える。
「地獄側は、再び地上が滅んでも痛くない。わたくしとジン隊長は、煉獄エリアで多くの魂が貯蔵されているのを見ました。エリア全体に保蔵されているとすれば、その数は十数億でしょう」
マンナを得るために、地獄側は人の魂だけがあればいい。ホムンクルスに移植して、六界内で争わせたり拷問して生産すれば事足りる。
「日の当たるワールドを手に入れたいか。地獄界に生きれば、そう思うのも当然か」
若くして地獄界の兵となった、フールが言った。地獄の沙汰を散々見てきた俺も、異界の環境差別はわかる気がする。
「多分、天界が介入せざるを得ないような事件を起こす。こちらが、天界での単騎戦を申し込んで来るのも、予想の範囲だろう」
アスラが代表選の選考は、任せてほしいと告げた。多分、結構無茶な内容だとは思うが、いつもの事だ。少数精鋭とは言え、味方の数百の戦力で、数万の敵を相手にするのだ。正攻法は通用しない。
むしろ、こちらの力を知らしめるチャンスかも知れない。
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またまた数日後に、地獄側から単騎戦承諾の通知が来たと知らされた。前と同じく、人界の某国へ書簡が届いた様だ。
王の執務室へ入ると、いつもの部隊長クラスがいた。
全員が起立して、アスラとレンゲに挨拶すると、早速出場メンバーが知らされる。
「代表戦は5人。場所は天界アースガード郊外、30キロ内のエリア。天界への承諾は取ってあります。参加する5人以外は天界への移動禁止。こちらの先鋒は三宝荒神殿、お願い出来ますか?」
修羅界王に、嫌だとは言えないだろうと思うが、戦闘能力の高い武将が先鋒である事に、会議席でどよめきが起こる。
「オウ!お任せ下さい。地獄界の5人共、我が神具で喰らってやりますわ」
オッさんが白い歯を見せる。人界なら、ちょいワル親父とか言われてモテそうな笑顔だ。ちょいワルってのも古いかな?
「次鋒、G9よりジェシカ」
これには、俺が驚いた。確かにジェシカは強いが、個人戦で戦うには不利な気がする。
「アスラ、決まった事だとは思うが、敵にジェシカの能力は知れ渡っている。こちらに不利ではないかな?」
俺はジェシカの身を案じるの気持ちもあり、少しでも有利な戦士投入を提案した。単騎戦ではフォローも出来ない。
「ジン。心配には及びません。ジェシカの戦闘力は、修羅界剣士でも5本の指に入ります。神具ファランクスには、無間地獄で手に入れた勾玉を装備させます。今までの数段強い霊力が使用可能です」
勾玉とは神具に装着して、霊力を強化したり、属性を多様化する神具の補助装備品だ。
これ以上、カミさん候補が力を付けると、俺の立場が無くなる気もするが、ここはアスラに従っておこう。何か策があっての事だろう。
ちなみに、大剣神具ファランクスの命名はジェシカで、ファイヤーとランスを掛け合わせた造語だそうだ。爆発のオマケも付いてくるが。
「中堅、同じくG9よりグレモリー。副将、ラングス=テルモア。大将はジンです」
宝具持ちの3人が、後半戦を引き受ける。向こうは、王クラスを出して来るだろうから、当然と言えば当然だな。
「異論のある者はいませんか?」
その場にいた、修羅界幹部クラス一人一人に、レンゲが目を向ける。
「異論はないと判断して、領地バベルと煉獄エリアを賭けた単騎戦。明後日執り行います」
万が一にも敗北すれば、犠牲を払って手に入れたバベルを失い、宝具を全て奪われ、戦争継続が危うくなる。危険な賭けである事に変わりはない。
部隊長達と城を出る。
ジェシカ達に個人戦の話をしようと、いつもの中庭に向かう。すると、幹部クラスが何人かで集まっていた。グレモリーとラングス、ジェシカも一緒だ。
「ご苦労ジン。勝ち抜き戦の話は聞いたよ。まさかアタイが選ばれるとはね」
修羅界の剣豪女子が俺を出迎える。
「ジェシカは強くなった。ヨトゥンヘイム攻略戦での勇姿も聞いている。神具を強化して、敵の宝具にも負けない装備で挑めば、問題無かろう」
華光は胸当て鎧を外して、ジェシカに負けないサイズの、革製ブラを巻き直している。混浴が普通の修羅界戦士は気にも止めないが、俺はもの凄く気になる。ビッグバスト!ナイスですね!
「姐さんには、まだまだ敵いません。アタイに剣技を教えてくれたのは、華光の姉貴ですから」
とっても珍しい事に、ジェシカが敬語で相手に話をしている。明日は雨の降らない修羅界で、雷雨かも知れない。
「ところでフール殿。地獄側の5人に見当は付きませんか?」
異界戦争前は、地獄界の藩主の1人だったフールに、三宝荒神が聞いた。
「私が所属していたのは、餓鬼道の一角ですから、この500年の地獄界中央組織の動きもわかりません。出場の方々にはお役に立てず申し訳ない。地獄界出身の他の戦士からも情報を集めてみます」
フールは、恐縮して俺たちに言った。中々、生真面目な男だ。
「天界には霊波も届かない。地獄界も、同じ条件だが、アドバイスも出来ないとなるとやはり不利か」
フォーラスは、自分が選ばれなかったので、なんとか仲間の役に立ちたいと知恵を絞る。狂傷だとか豪将と噂される戦士だが、中々、仲間思いだな。
5人選抜の単騎戦。
俺は、小学生時代から何かの代表だとか、なんとか長に選ばれた事はなかった。今は単騎戦の大将で、修羅界遊撃部隊G9の部隊長だ。自分の判断ミスで自分や仲間が死ぬ。
どんな国も組織も同じだなと思う。
組織や部隊は、その長の器以上にはならないのだ。心してかからねば!
単騎、、、ただひとり馬に乗ってゆくこと。また、一人の騎士。一騎。




