38、恐妻家候補生。アタイがジェシカだ!
地獄界、無間地獄の城郭都市「ヨトゥンヘイム」へ修羅界戦士たちは攻め込む。
今回は、旦那のジンとは別行動だったので、アタイが攻略戦の凄まじい闘いをお伝えするよ。
何分、おしゃべりは苦手だが、最後までお付き合い頂けると嬉しいぞ!
ジェシカだ。いつも旦那のジンが世話になる。みんなには礼を言うよ。
囚われの巫女、乾闥婆王の救出作戦。
敵陣ヨトゥンヘイムへ、アタイらは攻め込んだ。
城内潜入チームも攻略には苦労したようだが、城郭都市の外では、これぞ地獄絵の様な凄惨な闘いが繰り広げられた。
アタイら遊撃部隊のG9は、巨人族を倒しながら城郭都市を目指していた。
「巨人兵は我らが食い止める。G9は、石化の術符師を倒せ!」
「華光の姉貴。頼みます!」
天界にいた頃のアタイの姉貴分、華光をリーダーとする部隊名「白夜」。姐さんは女だてらに、マッチョな野郎どもを率いている。
アスラの作戦は、城郭都市の八方向から三角型の陣営を組み、各部隊が侵攻する。隙間なく部隊を進ませ、敵に後ろを取らせない。アタイ達は遊撃隊として、方々を飛び回っていたんだ。
前線に上位鬼が出てこない内に、城内に開門した別働隊が敵を一掃する作戦だった。
「光明王の隊が苦戦している。G9戦力を裂けるか?」
修羅界の参謀クラス、三宝荒神が大きな王鳳に乗りやって来た。空を飛ぶ神獣は六界でも珍しい。
荒神は遊撃部隊「魔笛」を率いている。
「わかった!2班に別れる。石化の術者は、ジェシカ、ダイキチ、マルコ、アーシャ頼む!バルバトス、エリゴール、サブナックは自分と、光明王の援護に向かう。塀の中で落ち合おう」
この作戦でのリーダーは、疾風迅雷の女戦士グレモリーだ。
宝具を使った斬撃は、いっぺんに大木を何本も両断する。剣も斬れるが頭も切れる女だから、アタイらも安心して戦えるってわけだ。
「おいおい、グレモリー。アタイは指揮なんて出来ないぞ!」
「マルコ、ジェシカ達を先導して下さい。ダイキチは円盤を防御に集中!いいね!」
疾風迅雷だけあって、早口で指示を出すと、地獄組4人は仲間の援護に向かった。
「なんや、せっかちやな。まぁ、無理もありませんなぁ」
のんびりとした口調で、襲いかかる巨人兵の攻撃を、軽々と避ける魔獣マルコシアス。敵の身体を、バラバラに切断して行く超真空波は、グレモリーの宝具といい勝負だ。
「前線には、すでに上位鬼が出撃している。前に出すぎるとヤバイぞ」
アタイも、ジンやラングスのお陰で、少しは戦術がわかってきた。
「術者は、何人かいるみたい。浮遊術で飛んで来て、石化術を使うって!」
アーシャがダイキチの背で、巨大なアイスアローを量産している。こいつを飛ばせば、一度に複数の敵を倒すのに有効だ。
「石化を使える札使いは、それほど多くはいません。多分、3、4人の術者でチームを組んでいるのでしょう。1人は空中浮遊、1人は防御、石化術を使うのは他の術者が担当していると思います」
長年生きてるだけあって、神獣のダイキチが作戦のヒントをくれた。アタイは空飛ぶオリハルコンの円盤に乗り、地上を駆ける魔獣に声をかけた。
「マルコ。ダイキチの円盤、アーシャのアイスロット、アタイの火炎爆弾、あんたの真空波。組み合わせてなんか出来ないか?」
強敵を相手にするなら、行き当たりバッタリは自殺行為だ。
「そやなぁ。ほしたら、石化の術者を見極めんとなぁ。まずは、空中浮遊の術符師を狙ったらどうや?」
敵の移動手段を封じる。戦いにおいては定石だな。
「それじゃ。こういうのはどうだ?」
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アタイとマルコシアスは、襲いかかる巨人を倒しながら、術符師が出没しているエリアを目指す。後から巨大なヌエが追い付いて来る。
少し先に進むと、仲間の兵がバタバタと倒れていた。足を石化され、動けなくなった所を、巨人兵にやられたらしい。ほとんど礫死体状態だ。
「これは酷いな!術者はあれか?」
巨人兵軍団の上空に人影が見えた。アタイは宙に浮かぶ、術符師らしい3人を指差す。
特別視力の良い、アタイとマルコシアス以外は、肉眼では見えないと言う。
「こっちには気がついていない。やるなら今だ!」
だいぶ距離はあったが、アーシャとダイキチに敵の位置を教えると、攻撃準備に入る。
敵の位置へ、マルコの巨大真空波が放たれる。ラングスの札で作った、竜巻の様な大きさだ。
空中真ん中の敵は、下方にいる修羅界戦士を攻撃しながら、こっちの攻撃に気がついた。左手の術者が、札らしい木簡を取り出している。
「浮遊術を使っているのは、右手の術者だ!アタイがやる。援護を頼んだぞ!」
竜巻を札で中和しようとした術符師は、真空波とともに、円盤が飛んでくるのに気がついた。これも落すべく、風の木簡を使用した。
ところが、真空波と円盤攻撃を避けたら、円盤の影からアイスアローと火球が飛んで来たではないか。それを避けようと、浮遊術者へ移動を促すが、もう遅い。
「その首もらったぁ!」
円盤に乗り、術符師隊の右手に回りこんだアタイは、大剣で斬りかかる。ファランクスの火球付きだ。
防御の術者は、アーシャのアイスアローで串刺し。空中浮遊担当は、火球を浴びて火だるまの所を、アタイの大剣で真っ二つ。石化の術符師は、真っ逆さまに落ちて、進撃してくる巨人兵に踏みつけられた上に、敵と勘違いされて、大きな石斧で何度も叩き潰されていた。グチャグチャだな。
お食事中なら申し訳ない。
まずは一勝。札使いに対抗すべく、次のポイントへ向かう。
しかし、宝具の大鎌と札を両方使えるラングスは、無敵かも知れない。もし、敵の術符師が、神具の剣も使えていたら、こうは上手く行っていないな。
高速で移動していると、地上のマルコが突然停止する。目標を発見した様だ。
「次はどうします?術符師に、上位鬼の混在チームですがな」
上空に3人の術符師と、神具で弓矢を放つ鬼が2人。背中に剣を装備しているのが見える。アタイが作戦立案か。無事に切り抜けられれば、ジンに自慢出来そうだ。
「神具の2枚持ちは、王クラスでもないと無理だ。背中の装備は、普通の大剣だな。先ずは術符師を倒したい。敵を分断しよう」
「どうやって?」
ようやく追いついてきた、ダイキチの背に乗るアーシャ。
アタイは、ちょっと無茶な作戦を考えた。
「バルカンと共に行動している、赤毛の剣士だ!こいつを狩れば、ポイント高いぜ!」
上空から敵の叫び声がする。囮になったアタイは、敵の小隊の正面に立つ。味方の兵は遠巻きに矢を放つが、防御の術符師に妨害される。
敵の上位鬼2人は、急降下で向かって来る。
「今だアーシャ!」
術符師と鬼の距離が空いた所で、アーシャへ合図を送る。
「絶対零度!」
上空からアーシャのアイスロットが、広範囲で空中の大気を凍らせる。次の瞬間に、アタイのファランクスが、最大限の火球を地面に放つ。
「なんのつもりだ?!」
敵は少し困惑している様だ。空中で止まる。
「まずいぞ!上だ!」
遥か上空から、円盤で下降してくるマルコとダイキチ、アーシャが見える。
「いっけーマルコ!」
地面に放たれた火球は、急激な上昇気流を生み、さらにマルコの真空波が周りを取り囲む。
オリハルコンの円盤に乗り、気流の波を捉えたアタイは、空中で乱気流に身体を巻かれている上位鬼に襲いかかる。
「この風では、矢をつがえるのも難しいか?」
敵の上空背後を取ったアタイは、大剣で襲いかかり、十文字斬りを喰らわせた。まずは1人目。
敵の術符師は、強烈な上昇気流に為すすべもなく、マルコの真空波で身体を分断された。なんとか逃げ延びた術者が、空中浮遊の使い手だ。
上空を逃げようとする敵に、ダイキチの巨体が降って来る。振りかざしたヌエの前足が、巨大な爪で術者を切り裂く。
「なんて奴らだ!」
空中浮遊の術者を失い、もう1人の上位鬼は落下するが、なんとか無傷で着地しようともがく。
「ムダだ!」
アタイが狙いを定めて火球をお見舞する。更に、ダイキチの円盤が、四方八方から落下する敵を何度も襲う。地上に落ちる頃には、弓使いの上位鬼は、ただのレア肉塊になっていた。
再び、食事中ならゴメン。
「あまり美しくはないが、やるではないか赤毛の剣士」
弓矢と槍部隊「雷電」を率いる、地獄界出身のフールがアタイに言った。周りの巨人兵は駆逐した様だ。
円盤にキャッチされたダイキチとアーシャ、マルコシアスが地に降りる。
いつの間にか、部隊長代理になったアタイは、次の目標を見定める。
「雷電部隊と合流して、術符師を探そう。アーシャ行けるか?」
千里眼を上空に飛ばしたアーシャが、周囲を探索する。
「方角はこっち!グレモリーが見えた。術符師を追い詰めている」
「ヨトゥンヘイムの石化術者は、これが最後でっしゃろ。気張って行きましょか!」
作戦が上手く行ったので、マルコシアスもノリノリだ。
雷電隊と目標に接近する。
都市への包囲網は、徐々に狭くなって行った。「白夜」と「魔笛」の部隊も、霊力を感じるほどに近くにいる。
「城内の部隊が、上位鬼の数を減らしている筈だ。術符師を倒して、城塞の守りを崩そう」
こちら側の霊力を下げる、ヨトゥンヘイムの外壁。城内での攻撃もだいぶ楽になるだろう。
鬼の軍団と術符師部隊は、高い外壁の上にいた。
敵側にしてみれば、巫女の守護の結界に頼る事も出来ず、藩主がこちらに寝返った。更には、城外を守るための太古の巨人兵は、全て殲滅された。ヨトゥンヘイムは陥落寸前だ。
「敵軍は地下通路を使って、城郭都市から逃げているようです」
雷電部隊の兵が、フールに報告している。地下通路まであったとはね。
元、地獄界の上位鬼は、アタイにお伺いを立てる。そんなに偉くないんだがな。
「ジェシカ殿。城内潜入チームに、旦那のジンもいたな?連絡して敗走兵の殲滅を頼むか?」
「いや、ジンならこう言う。俺は戦意を失った敵は殺さない。それは、ただの虐殺だとね」
前にジンが言っていた、戦士なら誰もが戯言と思うようなセリフを、フールに伝える。
「バルカンの転生した者とは思えんな」
「アタイもそう思う。だが、それがうちの旦那なのさ」
「まだ、若いと言うことか。英雄バルカンに我々は従う。ジェシカ殿の部隊長の判断なら、それが正しいさ」
フールは、やれやれと両腕を上げる。
城塞都市の壁を守っていた、鬼の軍団と術符師は、忍び込んだ宝具のグレモリーが一掃した。
アタイ達は、一気に城塞都市内へなだれ込み、街を囲んだ城壁から術符の札を焼いて回る。敵の反撃もあったが、勢いに乗る修羅界部隊に全て倒された。
捕虜と寝返った敵兵は数百人、神具使いの上位クラスが十数人と聞いた。十王の恐怖政治の結束なんて、こんなものだろうな。
「ジェシカ殿、それでは、修羅界でまたお会いしましょう」
雷電部隊のフールが、先に戻ると挨拶して来た。
「フール隊長。ジェシカ殿はやめてくれないか。別にアタイもただの兵士だしな」
「そうか?ではジェシカ氏でどうだ?」
「ジェシカ氏って」
「地上では男女問わず、仲間内では氏をつけると阿修羅王からご教授いただいたぞ」
物凄い勘違いだ。指摘するのもなんだから、アタイは何も言わなかった。
特定の趣味を同じくする者同士に限られると思うが。
「では、この先の戦いでの武運を祈るぞジェシカ氏!」
アタイも手を降ると、フールは、にこやかに去って行った。




