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19、ラ・ムーの神はマッチョだった件

三度目の畜生道へ開門すると、待っていたのは畜生道の現王アスタロトだった。全身毒の男、そして稲妻の龍使い。後方には一万の人造巨人兵。これ勝てんのか?

 煉獄で休息し、バルバトス達3人は霊力を回復させる。

 上位鬼の実力を知るため、俺はエリゴールとの模擬戦をやる事になった。全身鎧の男と向かい合う。武器は中世時代の騎兵のような長い槍を装備している。


「神具の霊力は使わない。霊力は自身の身体能力と攻撃補助のみ。よろしいか?」


 エリゴールが念を押す。俺の装備している、バルカンの三節棍を恐れてだと思う。


「大丈夫だ。戦闘訓練だからな」


 俺も、リラックスして模擬戦に挑む。審判役はジェシカだ。


「では、模擬戦開始!」


 ジェシカの掛け声と共に、エリゴールが一気に攻めて来る。槍の先端がいくつにも分かれて見える。相当のスピードだ。俺は移動スピードを上げて、連続で突かれる槍を左右後方に避ける。

 本気で刺す気じゃないよな?


「さすがはジン、やるではないか。では、これならどうだ!」


 エリゴールの攻撃がスピードを増す。霊力を使っていなければ、肉眼で捉えきれない。俺は三節棍で槍を払いながら、反撃の機会を待つ。


「どうした、どうした!ウルカヌス神バルカンの名が泣くぞ!」


「エリゴール。地獄界の実力見せてやれ!」


 バルバトスやサブナックが煽る。これからパーティに加わってもらうが、地獄界の上位鬼に舐めれるのも困る。


 相手のオーラが高まるのを感じる。防戦一方だった俺は反撃に出た。

 槍の間合いから一気に後方へ下がると、相手がつられて前に出てくる。すかさず猛スピードで前に出て、三節棍をエリゴールの武器に絡ませる。武器の動きを止めると、俺はエリゴールの懐に入り込む。

 右腕に霊力を込めて、掌底打ちで兜の顎部分へ衝撃波を放つ。


「何!神具を使わずに衝撃波を放つだと!」


 エリゴールの兜が吹っ飛んで、素顔があらわになった。ジェシカが模擬戦終了を告げる。


「それまで。この勝負は引き分けだ」


「そうだな。神具から手を離した時点で俺に勝ち目はない。ただ、エリゴールの神具がランスではなく、その鎧だとは気がついていた」


 神具の霊力をお互いが使っていたら、正直勝てるかわからない。


「よくぞ見破ったなジン。なぜ我が神具がメイルだと気づいた?」


 素顔のエリゴールは、中々の男前だ。


「ランスに殺気を感じなかった。武器を持つ手がほとんど左だったしな。利き腕は、いざと言う時に防御や攻撃用に開けていた。違うか?」


「正解だ。お互いが神具を使えない状態なら、この勝負は拙者の負けだ。さすがは、全ての神具の原型を作ったウルカヌス神の生まれ変わり。我がメイルも、バルカンのオリジナルだ」


 この鎧の神具は利き腕で攻撃する。ただし、術者が全身にメイルを装着している必要があるようだ。ジェシカ達が俺の方へ歩いて来た。


「ジン無茶だぞ。霊力を衝撃波に変えて撃つなんて、正気の沙汰じゃない。右手を見せてみろ」


「そうよ。一歩間違えば、右腕が吹っ飛んでいたわよ」


「こんな戦い方、アーシャ初めて見たの」


 天女達3人は、自分達の方へ俺の右手を引き寄せて見ている。手のひらを指先でツンツンしたり、這わせたりしている。くすぐったい。


「神具に頼らず。自分の霊力で攻撃出来ないかとは考えていたんだ。でも手のひらから衝撃波が出せるとは思わなかった」


「普通の戦士なら無理じゃろな」


 変成王も驚いた様だ。俺がバルカンの神具の力を使わずに、上位鬼のエリゴールと対等に戦えるとは、思っていなかった様だ。


「王クラスの霊力か。修羅界の味方について正解だな」


 初江王が、鎧戦士の兜を拾いあげている。神具が少し変形してしまった様だ。エリゴールが嘆く。


「ああ、大切な兜がぁ」


「情けない声を出すでない。今、修復してやる」


 変成王は兜を受け取ると、修復作業に入った。それを聞いたラングスとエバは、信じられないと言う顔だ。


「バルカンの神具を、肉体の霊力で変形させるって!何よそれ?」


「王クラスどころか、大天使並みの力でもないと無理だぞ。ほとんどの神具はオリハルコン製だ。わかるかジン?」


「スゲーな。ジンは本物だ」


 サブナックやバルバトスもしきりに凄いと言うのだが、俺にはピンとこない。


「ジェシカ。そんなに凄い事を俺はしたのか?」


 まだ俺の右手をさすっていた、赤髪アマゾネスが顔を上げた。


「オリハルコンはな、ジンの世界で言えばダイヤモンドの硬度がある」


「それを身体の霊力で俺が変形させたと」


「そうだな。アタイも驚いてはいるが、ジンの潜在能力がバルカンと同等なら、まだまだこれから進歩する」


「ジェシカ、ウルカヌス神バルカンはそんなに強かったのか?」


 俺を見つめるフィアンセが、楽しげに言う。


「それはそうさ。天界の3巨頭を相手に、一歩も引かなかった。何しろ大天使の神具もバルカンが作ったんだ。手の内はお見通しだ」


「それほどの使い手が、なぜ倒されたんだ?」


「天界で噂になった話だが、バルカンには28武将が束になっても敵わず、人界に降りた時に、気を許した女に毒を盛られたって話だ」


「天界も汚い手を使うな。大天使ガブリエルならやりかねない」


「ジンも色仕掛けには気をつけろよな。色ボケ、欲ボケ、暇ボケで男はダメになるんだぞ」


 我がフィアンセは、男のしつけに厳しい様だな。


 アスラはガブリエルとの会談の時に、大天使は自身の霊力だけで、相当の攻撃力を持つと言っていた。古代人に出来て、俺に出来ない筈はない。天女達に内緒で、今度の戦闘で試してみようと思う。


 休息後に畜生道に戻ると、やはり待ち伏せに合った。


「私が畜生道を治めるアスタロトだ。バルカンの生まれ変わりとやらと、一騎打ちを所望したい」


 青白い顔が赤い目を俺に向けた。バルバトス達の緊張感が俺にも伝わって来た。どうやら、本物の王クラスのお出ましの様だ。

 後方には、3メートルはありそうな長身の黒ノッポが、長いランスを装備し隊列をなして立っている。戦闘用に改造された人造の兵隊だ。

 その数は、、、


「1万はいるよ。少しまずいかも」


 アーシャが千里眼を飛ばし、少々震えた声で言う。流石の天女達も王クラスと1万の軍勢には及び腰だ。ラングスやジェシカは戦闘離脱を口にする。


「ジン。包囲させる前に逃げた方がいいんじゃない?蓮華王も危険なら逃げろと言っていたし」


「敵に背を向けるのもシャクだが、アタイもそう思う」


「地獄の王が一騎打ちと言ってるんだ。嘘はないだろう」


 俺は覚悟を決めてた。地獄王の実力は聞いているが、魂が戦えと命じる。いざとなれば、仲間をエバのクリスタルで保護して、必殺技のアルティメットエクスプロージョンがある。俺はともかく、みんなは助かると思う。銀狼のマルコシアスが寄ってきた。


「あんさん。勝算がおありかえ?」


「序盤戦で負けるわけにもいかない。マルコシアス、みんなを連れて、煉獄で待機していてくれ」


 俺は金色の三節棍を取り出す。相手は毒と龍の使い手と言うのだが、龍はどこにいるんだ?エバが俺の耳元でアドバイスをくれた。


「龍使いのアスタロトとは、霊力を龍の型に変化させ、稲妻で攻撃する所からついた字名だ。神具の力かどうかもわからない。ジン気をつけろ」


「ありがとうエバ。バルカンのオリジナル神具を使っているなら、俺にも勝ち目はある。それぞれの神具には欠点もあるからな」


 天女達が勝利を祈ってキスしてくれる。

 エバはキスは無理だと言って、俺の手を胸に寄せる。相変わらず、ええ乳でんなぁ〜。マルコシアスは、俺の顔を舐めた。最後にジェシカと長い接吻を交わすと、仲間たちは後方へ下がっていった。俺とアスタロトの闘いを、どうしても見届ける気らしい。


「もう別れの挨拶は良いのか?」


 アスタロトも兵隊を下がらせる。青白い顔というより真っ青な肌色だ。


「お前こそ、蛇使いは卒業したのかアスタロトよ?邪神に与して身体の血は毒だらけ。これぞ地獄の王でございますか?」


 いきなり俺の中のバルカンが敵をあおる。怒らせてどうすんだ?


「ほう。ウルカヌスの生まれ変わりとは、まんざら嘘ではなさそうだな。この私を蛇使いとは。その口を永遠に封じてくれるわ!」


「そう上手く行くかな!」


 アスタロトは偃月刀で攻めてきた。三国志で、関羽が使ってた大刀の形をしている。さすが王クラスかジェシカの剣より早い。

 神具で俺も応戦するが、思ったより相手の剣に重さがない。神具ではなさそうだ。


「どうした、自慢の龍を出さんのか?」


 まだ、俺の中のバルカンは煽るのをやめない。三節棍で攻撃をはじき返して、すかさず偃月刀の側面に衝撃波を加える。ガラスのように、剣が砕け散った。


「おのれバルカン!また私の邪魔をする気か!」


 何の事か、俺にはわからない。バルカンに恨みでもあるのか?アスタロトの周囲が、紫色の煙で覆われる。毒霧のようだ。


「お前のハラワタを、閻魔大王への供物にしてくれるわ!」


 顔まで紫色になったアスタロトが、円月輪を飛ばして来る。かすっただけで毒で御陀仏だな。

俺は神具の力を、身体の霊力に吸収する。周囲に重力変換をかけて、高速で飛んでくる刃物を落とす。三節棍を繋げると先端を敵に向ける。重力変換アスクだ。


「婀梳躯(アスク)!」


 俺の掛け声と共に、アスタロトの身体が吹っ飛ぶ。だが、流石に王のクラス。瞬時に霊力で防御したようだ。空中を回転して地に降り立つ。それでも、肋骨数本は折ってやったはずだ。


「人間ごときに!」


 口から血を流したアスタロトが、凄い形相で睨む。どこかで聞いたセリフだ。人界なめんなよ!


「我が神具を使うまでもないと思っていたが、敵ながらあっぱれだジン!」


 アスタロトの身体から、紫色の毒煙が湧き出た。煙は実体化して稲妻を纏った龍の形になり、巨大化すると俺を大きな龍が睨みつけている。


「これが龍の使い手か?大層なお出ましだな。だが、所詮は紛い物の神具。我らが力には敵わぬわ!」


 俺の中のバルカンが豪語するが、我らって俺とバルカンの事か?

突然、少し目眩を感じると、俺は身体から何かが分離するのを感じた。

左にはたくましい大男。右には神具を両手に携えた男。2人は実体化すると、俺の左右で武器を構える。


「ジンよ。お前はアスタロトを倒せ」

 と大男。まさかとは思ったが、俺は思いついた名を言ってみた。


「ひょっとして、貴方はラムーでは?」


 俺の三節棍は、元はムー大陸の王ラムーの神具。


「龍神は、俺たちが引き受けた」


 もう1人の法衣を着た神具持ちが言う。


「貴方がウルカヌス神バルカン」


 俺から分離した魂が、異界から元素を自ら集めて実体化した。そうとしか考えられない。


「行くぞジン!遅れを取るな!」


 2人の戦士は巨大な龍へ向かって行く。俺は紫色の地獄戦士へ突進して行く。毒は大丈夫かな?

 三節棍の繋ぎチェーンが外れると、それぞれ独立した武器となった。俺は二刀流でアスタロトに攻め込む。


「馬鹿め!我が猛毒の餌食だわ!」


 龍使いが不敵に笑っている。俺の援護に降臨したラムーとバルカンを、幻影くらいにしか思っていないようだ。まぁ普通はそう考えるよな。

 俺は三節棍の一本を、ランスに変化させて相手に投げる。すると一本のランスは、数百に分離した。


「なんだと!」


 俺も驚いたが、アスタロトは追尾してくる数百のランスを、死に物狂いで避けている。地獄の王クラスは伊達じゃないな。

 もう一本が鎖鎌の形に変化する。なるほど、これなら距離を保っていても攻撃出来る。アスタロトがランスを避けながらも、俺へ向かってくる。鎌を投げると円を描きながら攻撃を加える。


「き、貴様は何者なんだ!」


 地獄の王が泣きそうな顔をしている。アスタロトの神具で作られた巨大な龍が、空から落ちてくるのが遠目に見える。

 ラムー神とウルカヌス神バルカンには、神具で作った霊力の神獣では敵わないよなぁ。


「ただの、元フリーターだ」


 俺は後方へ移動スピードを上げると、敵が追って来るのを待つ。


「もう1発!婀梳躯!」


「なっ!」


 アスタロトが頭上を見上げる間も無く、神具が強力なGを放つ。

 三節棍の3本目を、空中に固定していた位置まで誘い込んだのだ。直径10メートル近い大穴が出来る。少しだけ紫色の煙が穴から出てきた。

 畜生道の王、アスタロト討ち取ったり!


 ちっとも一騎打ちではなかったが、相手も龍神を出してきたし、ここはお互い様と言う事で。


 ラムーとバルカンは俺の前に立つと「また呼ぶがよいぞ」とだけ言って、実体化を解いた。俺の身体に一体幾つの魂がいるのか、すごく不思議だ。


 遠くにダイキチの巨体が見える。アーシャの千里眼と、ラングスの式神で戦闘シーンは全て見ていたはずだ。これは質問責めに合いそうだな。俺にも理解出来ないが。


ラ・ムー神=古代ムー大陸の王様であり神様です。

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