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SO-069「力は使うべき時に使う物」


 人は感情で動く生き物である。俺はその晩、久しぶりにそんな言葉を思い出していた。いつ聞いた言葉だったかは思い出せないが、ぴったりな状況であった。


 王子と王女が捕らわれているかもしれない場所に潜入した俺たち。顔を出すのはまずそうな場所には俺がとげだけを出して様子を伺ったりと、暗部顔負けの行動だったと思う。実際にここまで誰にも見つからずに進んできたのだ。


 そしてついに見つけたフェリテ様とフリーニア様。2人とも無事だった。そのうち犠牲になりそうという状況を除けば、だが……。


「先ほど見つけた施設は嫌な感じでしたわね」


『馬車の数が多いと思ったら、どこからか獣や魔物を運んできたんですね。あるいは使い捨てても惜しくないような人も、か……』


 そう、ここに来るまでに見つけた温泉施設はとても入浴したいとは思えない場所に変化していた。普段はただの温泉だと思うのだが、そこには何とも言えない配管のようなものが差し込まれていた。その行きつく先には、檻と大きな籠を合わせたような物。周囲には色々な魔石を使ったであろう装飾が施されている。


 ゴミ捨て場のように積み重なっているのは瓦礫と、何かだったモノ。獣だったら命を奪われていい、人は駄目、そんなことを言うつもりもないが尊厳も何もあったものではない。かつての時代、これの倍どころではない命が奪われたかもしれないということを考えると出来ない歯ぎしりをしてしまいそうなほどだ。


「北が侵攻してきた理由の1つはこれとしても……決断の背景がわかりませんわ。この温泉の力を得ないといけないような状況が生じた……」


『例えば、蘇らせたい何かがあるとかどうでしょうか。昔の噂では初代の王をよみがえらせた、なんて話も聞きます』


 ただの噂、と確か昔聞いた時にも思ったが嘘だというのなら国が動く説明がつかないところだ。だが、北の王が没したとかそういった話は今のところ聞かない。表に出てくる話ではないとしても……ん?


 屋根裏でささやきながら観察していると、どこかが騒がしくなってくる。そちらに視線を向けた俺たちが見た物は……見覚えのある2人組。確かアダムとノーラだったか。北からドラゴンの墓守の一族としてやってきていた……まさか、まさかなのか?


「お前たち、なんということを!」


「そんなことは聞いていない。この二人は竜に使えそうかと聞いている。とんだ偶然だが、血の続く王族となれば素材としては上物のはずだ」


「アダム様、いけません! グッ」


 状況はひどくわかりやすかった。兵士に連れてこられた2人は王子たちの値踏みをさせられているのだ。命を溶かし込む温泉への犠牲候補として……ロイヤルエキス配合ですってか? 冗談じゃない。


 元は上等な客室なのだろう場所に拘束されている2人。それ以外は体調を崩されては困ると思っているのか特に拷問を受けているといった様子はない。そんな2人を見るアダムとノーラの顔には申し訳なさと悔しさが混ざった表情が浮かんでいる。少なくとも彼らの一族か、彼ら人は協力的ではないことがうかがえる。


(さすがにこちらがいることを見越しての演技ではなさそうだしな)


 主従の関係なのか、アダムへと呼びかけたノーラは殴られ、ここからでもわかるほどの怪我を負っている。さっきので歯が飛んでいったしな……見てしまったフリーニア様は小さく悲鳴を上げている。フェリテ様は……気丈な様子だ。自分が男として守らなければ、そう思っているだろう。


「……噂通りなら何でもありだ。それ以上はわからん。当たり前だろう? これまで竜をよみがえらせようとした奴は1人とていないんだ。何故だかわかるか? 制御できないからだ」


「それをどうにかするのが貴様らの家系だったと思ったのだがな……まあいい。こちらで暴れなければそれでいいのだ」


 徐々に話が見えて来た。とはいえ、さすがにこれ頼みで戦争を始めるとは思えない。あくまで札の1つと考えるべきだろう。そうなると、正面からぶつかる予定の王軍側が気になる。出来るだけ早く……確実に対処すべきだ。


 こうなってはアダムたちを見捨ててというのもなんとも微妙。当然ながら救出対象が増えることは行動の難易度が上がることを示す。でも、それがどうだというのだ。お嬢様が決めたのであれば、その通りにする。そのために俺がいる。


「トライ」


 返事の代わりに短く震えて見せると、ベッドの上にいる王子たちへと視線が向いたのを見計らって舞い降りた。偶然にもアダムたちを連れて来た兵士と、部屋の見張りがほぼ同じ場所にいたことが幸いした。


 声が上がる間もなく、まずは手近な兵士を手加減抜きで叩き伏せた。伝わる衝撃はドラゴンと戦った時並みに力が入っていた。骨折程度は確実にあるだろうなという一撃だ。


「何っ!?」


 戸惑いながらも武器を構えたのは褒めておこう。だけど、この場合はすぐに人質になりうる2人に駆け寄るべきだった。その場で抜剣するのは愚策だ。正面の相手に俺を突き出し、壁際に吹き飛した。そして俺はそのまま石突側を長く伸ばし、アダムらのそばにいる兵士の腹へと沈み込ませる。


 嫌なうめき声をあげて倒れ込む兵士に気が付き、すぐにアダムはノーラにぶつかるようにしながら2人して王子たちの方へと転がった。仕掛けてきたのは王子たちの関係者だと瞬時に察したようだ。こう動けば、まとめて守ってもらえるかもと考えたのかもしれない。


「せいっ!」


「女!? ぐふっ」


 地味な服装とはいえ、お嬢様自身は美人の令嬢だ。隠しきれない魅力ってやつがあるためか、目撃した兵士にも戸惑いの色が浮かんでいた。それは大きな隙となり、沈黙の結果を産む。


 すぐそばに他にも兵士がいるならばと思ったがひとまず大丈夫なようだ。見回りや、こいつらが戻ってこないことに気がついての増援が来ることを考えるとあまり時間はない。


「ご無事ですか」


「アレスト……か? まさかと思ったが……」


「お姉様……」


 別にアダムらを無視しているわけでもないが、優先順位というのがどうしてもあるのだ。それがわかっているのか2人は入り口を見張るような位置に向き直っている。お嬢様はと言えば縛られているフェリテ様たちへと駆け寄り、怪我が無いかを確認している。


『お嬢様、拘束は解きましょう。そのほうが早いです』


「? ああ、確かに……鍵がありませんわね。トライ」


(はいはい、出番ですよっと)


 実のところ、さすまたである俺は形を変えられることは戦いだけに有利なのではない。とげの形は細さも変えられるし向きも変わる。何より、視点をどこにでもやれるのだ。そう、例えば細くしたとげの先にも。


 となえば鍵の穴に入るぐらい細くなったとげの先に視点を持っていき、構造を見ながら向きも変えて……よいしょっと。


「こんな特技もあったんですね、お姉様」


「破ることを知ることが守ることを知ること、か」


 純粋に驚いて感心しているフリーニア様と違い、フェリテ様は何やら勝手に納得していた。そういうわけじゃあ……ないんだがまあいいか。


 アダムらの鍵も同様に解除し、自由になった俺たち。と言っても事実上戦力はお嬢様1人だ。フェリテ様は多少いけるだろうが自衛に留めてもらった方が都合がいい。


「それで、どう脱出する。いや、お前たちは好きに逃げると良いと思うが……」


 自分の立場を考え、半ばあきらめている様子のアダムに心配そうな視線を向ける王族2人。とても優しい事だ。その後すがるように見られてはお嬢様にもダメ出しをする気持ちは産まれない。


 それに、お嬢様はただの令嬢ではないのだ。


「少しばかり重いですけど、なんとかなりますわ。後は……足元が崩れないように祈るしかないですわね」


「え?」


 まずはとフリーニア様を抱き寄せ、次にフェリテ様を。続けてアダムとノーラには首に手を回して抱き付くように言った。戸惑いながらも都合4人がお嬢様とくっついたことになる。


 と、廊下側に気配。どうやら気が疲れたようだった。


「行きますわよ」


 言うが早いか、まずは俺が思いっきり長く大きくなって真上に伸びる。そのまま全身を強化したお嬢様が床を蹴り……破壊された屋根を飛び越えて上に飛び出したのだ。


「このままいきますわ」


「とんでもない守り手だな……」


 そのつぶやきがフェリテ様の物か、アダムの物だったかはわからない。すぐに周囲は喧騒に包まれたからだ。


 団子状になっての脱出劇が始まった。


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