SO-031「備えの薬とお嬢様」
タイトルの変更と、お話の並び順を調整しました。
抜けるような青空、雲1つ無いその晴天の元、きっと多くの人が騒がしく今日を生きている。もうすぐやってくる、建国祭への興奮を胸に……。
『だというのに何やってるんですか?』
「何って、トライには何度も説明したはずですわよ?」
大人が何人も木陰で休める様な大木の下で、俺は木に立てかけられたままだった。お嬢様派というと手元の草を一定量の束にまとめては袋に仕分けている。大体1本分のポーションになるようにという仕分けだからあとどれぐらい集めるべきかすぐにわかるわけだ。
俺は薬草集めには不要ということで、木陰でお留守番のまま。すぐそばに、筆談用のボードを用意されて、である。出来るからと言って、俺にボード自体書かせさせてその表面をトゲでなぞって筆談とは……お嬢様も俺というさすまた使いに随分と慣れたものである。
ちなみにクロエに作ってもらった、魔力を持った指先なんかでなぞると色が変わる石板を使っている。横のボタンを押すと色が元に戻るというどこかで見たような仕組みだ。本当は子供向けの勉強道具らしいけどこれなら砂を使った筆談と違って角度が急でも行けるから非常に便利である。
『そりゃあそうですけど……あ』
「お嬢様、集めて来たよ!」
街道から外れた草むらから飛び出してきたのは、恐らく薬草を採取して来たであろう布袋を掲げながら笑う、少年の面影を強く残す男だった。体つきは大きく変わっても、その顔と瞳の輝きは前に出会った時と変わらない。ボールを拾って来た犬のように輝いた瞳で……ボール? 犬? どこで見たんだろうな、そんなもの。まあ……いいか。
「ご苦労様ですわ。こちらに置いてくださる?」
「了解っ!」
てきぱきと、お嬢様に言われるままに仕分け前の場所に薬草を積み上げていく。それを確かめる間にも、続いて2人の男女がやってくる。誰もがやや使い古された感じの革鎧に分厚い布で出来たズボン、そのほかと、どこにでもいる若い冒険者の姿であった。
『よう、無事かお前ら』
「あはは、トライさんも見張りお疲れ!」
かりかりと、ねぎらい(?)の言葉を書いてやると3人のうちたった1人の女の子が笑いながら応えてくれる。うむ、お世辞も言えるとはシスターの教育のたまものだな。自分で言ってて見張りしかしてないことに少し落ち込んできた気がするぞ?
「お嬢様、今日はこのぐらいで大丈夫ですか? もっと採ってきますか?」
「いえ、これぐらいで大丈夫ですわ。それに、3人がけがをしたら孤児院の皆に合わせる顔がありませんもの」
真顔でお嬢様にそう言われ、最初はきょとんとした様子だった3人もすぐに見覚えのある笑顔になる。そう、彼らは3人とも孤児院の出身者なのだ。お嬢様と出会ったのは自立する少し前で、ほとんど付き合いもなかったというのにこうして進んで手伝いに来ているいい奴らだ。
(まあ、孤児院に残ってるみんなのためという打算はあるんだろうけどそれは普通の考えだよな)
お嬢様を手伝うのは下心、というにはそれは普通過ぎた。お嬢様もそれを知ってか知らずか、彼らにはお金ではなく現物支給としてポーションで支払いに充てている。市販されている奴を買うよりは結果的にお得なのだから互いに得がある。
「こんなにたくさん使うんだ」
「馬鹿ね、お嬢様が作るようなポーションのじゅようってやつがすごいのよ。でしょ?」
「僕達も見つからないように持って帰らないとね」
ころころと表情の変わる3人を見ていると、お嬢様も飽きずに見れてしまう上につい微笑んでしまうみたいだ。俺もトゲたちが陽気な気分に従って動いてるのがもしかしたらわかるかもしれない。
「貴方達から見ても最近は変化が大きいですか?」
「うん、やっぱり魔物が多くなってるみたい。さっきも角ウサギだけどおととしの倍はいたよ」
「この前もいないはずの相手がどこそこにいた!って酒場で飲んだくれてる人がいたよねー」
「お嬢様も、外に出る時はお一人じゃない方が……あ、トライがいましたね」
今回、お嬢様がわざわざ外で薬草を回収することにした理由は自分の目で外の様子を確かめておきたかったということがある。幸いというべきか、今回俺たちが来た場所はそんなに変わりはないようだけど……他はそれなりに変化が出てきているらしい。
『おう、任せておけ! お嬢様、そろそろ戻りましょう』
「そうね。必要分は集まりましたし……では3人とも、帰りも護衛、よろしく頼みますわよ」
「「「はい!!」」」
息の合った返事に満足げに頷くお嬢様を挟み込むようにして、4人と1さすまたは王都へと戻り始める。お嬢様が援助をしている孤児院出身者がお嬢様の用事の護衛を務める。これを美談と見るか、こき使ってると見るかは人次第。わかっていても……もどかしいものだ。
王都へと戻り、3人と別れてからはそのまま調合のためにイブンの店に向かうことにしている。一応宿舎にも専用に部屋を作ってあるが、匂いがひどくなる場合には宿舎は使えない。仮に使ってしまうと、苦情が舞い込んでくるからである。以前はお屋敷で専用の離れで作っていたのもそのせいだ。
(いつもの回復用に痛み止め、興奮を抑える薬に……いくら騒動が予想されるからって作りすぎじゃないのか)
これから作る予定のポーション類を思い浮かべ、一人つぶやく。痛み止めなんかは兵士の希望者に配られるらしいけど、建国祭ってそんなに派手だったかな? いや、派手は派手か……暴れる奴が多くなると思ってるのかな?
「お待ちしておりましたよ」
「あら、お出迎えとは……話は中で聞きますわ」
お嬢様がやってくるのが窓から見えたのだろう、外に出迎えに出て来たイブン。明らかに何か頼み事でもあるんだろうという空気だけどお嬢様はその意味では非常にマイペースだ。動じることなく、まずは予定通りの場所に移動し始める。
薬草の詰まった袋を置き、準備を始めるお嬢様。その隙の無い姿にイブンは話しかけるタイミングをなくしてしまったようだ。ちょっとかわいそうになった俺は立てかけられた先にある砂板にトゲを伸ばし、さらさらと書いて適当な場所をトントンとつついて見せた。
「あら? ああ、ごめんなさいね。数が多いのですっかり先に作業を始めてしまいましたの」
「いえいえ、助かってるのはこちらですから……1つ、お聞きしておきたいことがありまして」
買取条件を決める時のような真面目な声色に、お嬢様もイブンにやや冷たさを感じる真面目な顔で振り返る。あまり、面倒なことでないといいのだが……。
「次の建国祭に、フリーニア王女が参加されるというのは本当ですか?」
「どうして私が知っていると思ったのかは聞かないでおきますわ。王家の方ですから、参加されても何ら問題はないのではなくて?」
結局、お嬢様からはその言葉以上の返事は語られなかった。けれどもイブンにとってはそれで十分だったらしい。その後、お嬢様は立ち去ったイブンのことを少し気にしながらも調合に専念するのだった。
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