SO-023「戦うお嬢様と外なる物」
第2回ツギクル小説大賞、一次審査通過いたしました。
これからもよろしくお願いします。
『最近そっちの出番が少ないと思ったら油断してtアバババババ!』
「ほらトライ、そんなにトゲを出したら洗い物が痛んでしまいますわよ!」
今日はいつものドレス風ではなく、教会で借りた中古のシスター用な服を着こんでいるお嬢様。使い古されたそれは本来ならばアレストお嬢様は触ることもないような一般庶民かそれ以下の物。だというのにお嬢様が着ることであたかも世を忍び隠れ住んでいるかのような印象を受ける。何かというと、まあ……似合ってるけど似合ってないってやつだな。言ってて自分でも意味がよくわからないが……よじれる、よじれるぅ!
大の大人も吹っ飛んでいくようなお嬢様の力で、ぐるんぐるんと視界が回る俺。どこに視点を持って行っても、回転してるから視界が安定しない。例え……水桶の中につっこまれていても溺れることが無いのが救いだろうか。
前かがみでぐるんぐるんと俺を使ってかき回すお嬢様のふくらみが良い感じに揺れて……ああ……水中からだといつもと違ってこれはこれでいい感じ……あ、ちょっと楽しくなってきたああ!
「このぐらいでいいかしら?」
「は、はい! 十分だと思います!」
『あれ? 終わり? せっかく覚悟が決まったのに? そんなぁ……』
いっそのこと楽しんでやれ、そう思った時には動きが止まってしまった。視界には泥や砂で濁った水と……芋。庶民が食べる一般的な芋らしいけど名前は知らない。でもどこかで見たような気がするな?
視界が急にクリアになったと思ったら、お嬢様が俺を持ち上げているところだった。そう、俺は今回イモ洗いのためにかき混ぜ棒の役目を果たしていたのだ。普段それに使っている棒は、今日は量の多い洗濯物の干ざおに使ってるんだとか。
「ではクロエ、シスターと一緒に運んでちょうだい」
「「わかりました!」」
ついてきたクロエと、教会のシスターはなんだか似ていた。お嬢様を全面的に信頼していて、仕事……やることを言われると見えない尻尾が揺れるかのようになるという点で。
まあ、たまのお嬢様が持ち込んでくる仕事があるおかげで他の場所より多少は子供たちが良い思いを出来ているという話もロイアが言っていたことを考えるとさもありなんってやつだ。
比較的豊かなこの国でさえ、どうしても孤児が出るし……きっと田舎に行けばまた別の話が出てくるだろうな。
『だけどお嬢様は手が届く場所を助けるしかないって知ってるもんな』
「ふふ。トライにはまだ仕事はありますわよ。そうせかさなくても……ええ、大丈夫ですわ」
そういうことではないんだけど……と一緒に芋の入った桶を運ぶお嬢様の手の中で軽く震える。っていうか……お嬢様……右手1本なんだけど? なのに他2人より余裕そうなんだけど? だというのに細腕とは言わないけど女性としては魅力的な細さを保ったまま。恐るべしは肉体強化の魔法と体作り、である。
汚水を捨てる場所に中身に気を付けながら流していく間、俺は地面に突き刺さっていた。そのまま空や町並みを遠く眺めるが、いつ見ても良いなと思う。平和とかそういうのじゃなく……なんというか、人の営みを感じるのだ。
(俺は元はどんな人間だったんだろうか? 善人か? 悪人か?)
どうしてこういった言葉を覚えているのか、それすらもわからない。時々不安にもかられそうになるが、今はやることがあり、ついていきたい人もいる。だったらまあ……いいかな?なんて思うのだ。
「どうですか、シスター。最近の様子は……少し抽象的すぎたかしら?」
「いえ。そうですね……おおむね、私たちは平和ですけど……」
少し落ち込んだ様子のシスターの姿は幼い。まだ大人とは言えない年恰好だ。この教会にはちゃんと上の人がいるけれど、他の場所も兼任してるようで1日中いるというわけにもいかない。それでも出会った時にはお嬢様と仲良く話しているから悪い人ではなさそうだ。
とにもかくにも、金と平和が大事である。金は幸いにも、お嬢様以外にも不定期にだが寄付金が入ってくるらしい。寄付の理由にお嬢様の仕事を受けなくても生活できるように、なんていう物が混じってるのは面白くはない。彼女の良くない噂を信じた本人たち的には良いことをしたつもりなんだろうなあ。
「ま、目論見通りと言えばその通りですからちょうどいいですわね」
何か言いたそうなシスターも、妙に晴れ晴れとしたお嬢様の顔を見ては何も言えないようだ。お嬢様は……ある意味喜んでいるのだ。自分の代わりに寄付をする人がいるということは、自分のすることがそれだけ注目を集めているということになるからだ。子供たちが喜ぶならば、そのお金の出所は自分でなくても構わない、そう考えている。
少しの間、微妙な空気が漂ったところで静かなままのクロエを連れて、お嬢様は教会から立ち去る。またねと声をかけてくる子供たちに、手を振り返すお嬢様は……とてもいい笑顔だったのは間違いない。
「今日もにぎわってますね、お嬢様」
「ええ、とてもいいことですわ。でもまだ外の……魔物は減らないようですわね」
ちらりと見るのは、市場の一角にある毛皮などを売る店。何店舗も連なっているそれは、元の大きさを考えると怖さしか残らない大きさの毛皮だったり、立派な牙だったりと様々だが……普通の獣のソレではなかった。外なる物、魔物。獣と呼ぶには厄介な相手だ。俺もお嬢様の手に来てからは数えるぐらいしか相手をしたことがない。記憶そのものには結構あるんだけどな。
町を歩く人間の中には、そういった相手を討伐することで生活する奴らも結構いる。冒険者って呼ぶんだが実際には冒険をしてたら命がいくつあっても足りないから皮肉のようなもんだな。お嬢様が卸しているポーションの一番の得意先だから無くなっちゃ困る相手ではある。
何か掘り出し物があるかと、市場の隅の方まで歩いていくとついには門が見えて来た。今も多くの人が出入りしている。
「今日はお店に寄られますか?」
「やめておきましょう。それに……今日はアレしか持ってきていないでしょう?」
確かに、とつぶやくクロエが撫でるのは自身の腰に下げた小さな袋。中身は試作品のポーションが数本だけだ。効能は間違いなく、ある。ただ……さすがに安くてもこれはと嫌がられそうなポーションなのだ。
「お嬢様のポーションはしっかり効きますからね。コレでも欲しい人はいると思いますよ」
「そうかしら? 自分で作っておいてこういうのもどうかと思うけれど……ねえ?」
クロエという同姓といるからか、いつもよりやや砕けた口調のお嬢様はとても可愛らしかった。そろそろ可愛いより綺麗だけじゃないとまずい年齢ではあるが可愛い物は可愛いのである。なんてことを考えていると、門の向こう側が騒がしくなる。
『この匂い……けが人か』
「討伐に失敗したんでしょうか?……かわいそう」
どこで匂いを感じているのか、自分でも謎だがわかる物はわかるのだから仕方がない。錆びのような匂いは……門までやってきた数名の男女から発せられていた。討伐が成功したにしても失敗したんだとしても、あの怪我では治療費が結構かかることだろう。
「見世物じゃねえ!」
一人では歩けなさそうなけが人は女だった。嚙まれたのか、ぼろぼろのズボンが赤黒く染まっている。装備全体を見る限りはあまり余裕はなさそうだ。余裕があれば、ポーションを買いそろえるなり、癒しの魔法を使う人間を雇ったりするからである。
と、まあここまで言えばこの後の展開は予想がつくという物だ。我らがお嬢様はクロエが止める間もなく、スタスタと俺を握ったまま彼らの元へと歩いていく。
周囲の見物客が若干のどよめきと共に道を開けると、相手もこちらに気が付いたようだ。
「あん? なんだよ……まだ死んでねえぞ、縁起でもない」
「? あら? 着替えてませんでしたわね。私はシスターではないですけれど、癒す手段には心当たりがありますわよ。少しばかり代償めいたものが必要ですけれども」
門のそばに座り込んだ男女は疑わし気な視線をお嬢様に向けている。いや、そりゃそうだよな。相当怪しいもん。見た目はシスターなのにシスターじゃないっていうし、代償の必要な癒しとか怖いよね。
「……何が必要なんだよ」
「少しばかり痛いのが難点……ですわね。お代は出したいと思った金額で結構ですわ。クロエ、アレを出してちょうだい」
「アレをですか!? わ、わかりました」
おずおずとクロエが出した物は、売れないと判断されたポーション。色というか見た目はいい感じなんだけどなあ……ちょっと赤いけど。そうしてる間にも、けが人本人からは了承が得られた。怪我の様子を確かめるべくナイフで残った服を切り裂き、足を露わにすると見物客からはうめき声があがり、ほとんどが立ち去っていく。とても直視できないようなひどい物だった。それでもお嬢様は動じない。
「では何か布でも使って嚙まないようにしておいてくださいな。後はしっかり押さえているように。たぶん暴れますわよ」
「あ、ああ……」
そして……ポーションが振りかけられ、水音を立ててすぐ……冒険者の女は悲鳴を上げた。このポーション、とにかく痛いのだ。恐らくは治るのが早すぎて、そのあたりの痛みが一気に襲い掛かるからだとお嬢様は見ている。結果は優秀なのだけど、さすがにねえ、という判断だった。
しばらく悲鳴は続いたが、そのうち痛みにというより刺激にという声に変わりそれもすぐに収まった。残ったのは暇人な見物客が少しと冒険者達。
結局、怪我は完全に治ったが……目撃者からお嬢様のまた変な噂が街を流れるのは……どうしようもなかった。ただ、件のけが人やその関係者は感謝してるらしいから差し引きしたら問題ないのかも……しれない。
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