第五十二話 帰らずの谷へと
長い船旅を終えて、レンたちはついにノリカ大陸へと上陸した。
「地球で一度アメリカ来たことあるけど、ここはそのまんまカリフォルニアみたいな国だな」
「んー、涼しくて過ごしやすいわね。海も綺麗だし。ノリカはいいところだわ」
「このアイスクリームがのった激甘ケーキは素晴らしい。イクスに帰ったら作る」
「アプシャンとかトギル島のほうが暖かくて好きですけど町はあまりファルバと変わらないですね」
「フェルリアの町はノリカ西部で最も発展しておる町の一つじゃからの。他のノリカの町も魔法科学や建築技術、生活水準はエウレアの町と対して変わらんよ」
観光気分でアイスがトッピングされたノリカ特有の激甘ケーキを食べながらフェルリアの町を散策する五人。
「さて、一応対談所に寄ってカレンにベヒーモスの情報聞くか」
「父上、そのようなこと、あの阿呆に聞かずとも妾が知っておりますぞ?必要ないと思うのじゃが……?」
「念のためだよキリア。カレンはキリアや俺達と違ってニエフ中を見渡せるからな。キリアの知らないことも知ってるかも知れないだろ。キリアを疑っているわけじゃないよ」
いつものようにキリアをなでつつ説明するレン。クロもシロも微笑ましく見守っている。
「はふ~そうですな~父上の言うとおりかもしれませぬ~」
とろけきったキリアはあっさりとレンの説明を受け入れる。ファザコンが相当ひどいようだ。200歳超えているはずなのだがレンに甘えている様子は本当に外見通りの少女である。
「しかしどのあたりに対談所があるのかね?」
「レン、あれじゃない?結構立派な建物に人が出入りしてるわ」
「ふむ、カリフと一緒でベヒーモスはそれほど狂信的に崇められていないのかもしれない。教会もいくつかあった」
「そうですね。ゼクルスみたいな嫌な感じはしません。でもイクスのほうがずっと落ち着きます」
「ノリカはの~エウレアと比べてクリスチャンの人数があまり大差ないのじゃ~」
「その辺のもアメリカそっくりだな。みんな行くぞ」
レンに会話中なでられ続けふらふらしたキリアをニュートがお姫様抱っこして対談所へ向かう5人。
「よ、カレン、久しぶりだな。ノリカはいい所みたいじゃないか」
「久しぶり5人とも。キリアは相変わらずニュートくんにべた惚れだねぇ。とても姉さん女房とは思えないよ」
「阿呆のカレンよ、妾の年齢に言及したら粉微塵にすると言ったはずじゃぞ?そんなに殺されたいのか?」
「いや、姉さん女房なのは事実じゃない。ごめんごめん、もうそういうこと言わないから。どうせ死なないしいいんだけど」
「キリアも落ち着けよ。シロにも昔言ったけどカレンにも優しくしてくれ。ニエフの想像主だからキリアの父親みたいな存在でもあるしな」
「阿呆のカレンが妾の父親……父上、その事実は理解できるが受け入れられぬ……怖気が体中を這い回るのじゃ……」
「ニュート、キスでもしてやれ。ばっちりしっかりな」
「え!!カレンさんの前でですか……?」
「あのー、対談所でのそういう行為は控えていただけませんか?」
「しょうがないな。ちゅっ、キリア、落ち着いたか?カレン、このぐらいなら問題ないだろ?」
レンに軽くおでこキスされただけなのだが、怖気が吹っ飛ぶどころかまた多幸感で動けなくなるキリア。赤ん坊のようにふにゃふにゃだ。
「キ、キリア!!しっかりしてください!!」
「大丈夫じゃ~ニュート~しっかり抱きしめてたもれ~」
「ニュート、しっかり夫として支えてやれ。キリアの要望に応えつつ適度にな」
「あのー、家族のラブラブオーラを僕に浴びせに対談所来たんでしょうか?もうどうでもいいからそういうの他所でやってもらえませんかね?」
「すまんすまん、ベヒーモスの情報聞きに来たんだ。どこに生息しているか知ってるか?」
「はぁ……さっさとその本題に入ってほしかったよ……今ベヒーモスはここからだいぶ南東のサンライズキャニオンてところにいるよ」
「なに~妾が戦った時は~もっとノリカ北東の~グランドレイクにおったはずじゃが~」
「キリア本当に命知らずだね……グランドレイクはベヒーモスの繁殖地なんだよ……?繁殖期で気性が荒くあらゆるものを襲って喰らうベヒーモスとソロで戦って生き延びるとは……吸血鬼とはいえありえないよ……」
「キリア、今後そんな危険なことさせませんからね。愛する妻が死んだら僕も死んでしまいそうです」
きつくキリアを抱きしめ口を寄せるニュート。
「あのー、キスはだめですよ?」
「ちっ、独身男のやかましいことじゃ。夫婦のキスぐらい主だって許してくれるじゃろ」
ニュートの抱擁とキスを注意された怒りで復活するキリア。
「いや、対談所停止したらニエフの人も困るかもしれないし」
「ふん、阿呆なお主のアドバイスなぞ聞かんでもニエフの住人は生きていけるわい」
「はいはい、キリアちゃん落ち着きましょうね。今度からは俺とクロとシロでカレンに会いに来るか。その間ニュートとキリアはゆっくりしてるといい。長い付き合いがある分キリアはシロよりもカレンに厳しいみたいだからな」
「レンレン、サンライズキャニオンは別名帰らずの谷とも呼ばれていてかなりの危険地帯で周囲に対談所はおろか町もないからベヒーモス討伐に向かえばしばらくは会えないよ」
「なら今のうちに聞いておくか。ニュート、キリアと先に宿に戻っててくれ」
「はい、キリア、帰りますよ」
「うむ、ニュート、このままお姫様抱っこで宿まで帰ってたも?」
「え!!は、はい……わかりました……」
ちょっと恥ずかしがりつつキリアをお姫様抱っこして出て行くニュート。
「すまんなカレン、息子娘夫婦が迷惑かけて」
「別にキスとかしなければいいんだけど……でもレンレン、僕がベヒーモスについて教えられることは少ないよ?」
「フェニックスの時みたくサンライズキャニオンのどこに生息してて何頭いるのか教えてくれればいいよ。後はキリアの実体験から作戦練る」
「ベヒーモスもフェニックスと同じ家族で生息してるよ。個体数も同じ5,6体。ただベヒーモスはドラゴンよりも大きい。長は150メートルぐらい。他の個体は100メートルぐらいかな。僕の力不足ですまないけど、サンライズキャニオンのどこに生息しているか今は分からない。ベヒーモスは繁殖期でなくても食欲が強いから獲物を求めてすぐ移動するんだ。属性はキリアの言っていたように土属性だけなんだけど、攻撃力と防御力はやっぱりドラゴン並みだよ」
「ドラゴン並みね。ゼクルスより耐久力はあるのか?」
「さすがにオリハルコン製で完全聖書を持っていたゼクルスほどじゃないと思う。それでもすごい防御力が毛皮にあるね」
「なるほど、タイミングとしては繁殖期でない今は多少ましなんだろうが動き回っている以上フェニックスの時みたいな奇襲は難しそうだな」
「そうだね。でもベヒーモスも巣で休む時はあるから、見つけたらしばらく注意しながら追跡して休んでいる時を見計らえば奇襲できると思う」
「ふむ、巣はどんな感じなんだ?」
「ドラゴンやフェニックスみたいに特定の場所に長く生息する巣は作らないみたいだね。休む度に土魔力で土地をならしてその周囲を高い土手で囲んだ一時的な巣を作るぐらいかな」
「そこまでわかれば巣を簡単に見つけられるだろうから充分だよカレン。ありがとうな。またなるべく早く完全聖書届けて封印するから。クロ、シロ、行こう」
「ベヒーモス……プロミネンスで焼いたらどんな味かしら……じゅるり」
「ふむ、プロミネンスやプラズマで毛皮を焼けば効果的かも」
ベヒーモスの味を楽しみにするクロ。攻略方法を冷静に考えるシロ。二人を連れて対談所を去るレン。
「なるべく知ってることは教えたけど……ちょっと不安にはなるよね。でも5人なら大丈夫かな……神様、どうか五人とも無事で帰ってきますように」
ドラゴンよりも巨大なベヒーモス。
5人はどうやって戦うのだろうか?




