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お説教タイムからの

「タルジュが喜んでくれたのは本当に嬉しい。しかし……寝食を疎かにしてまで熱中しても良いとは言っていない!」


 ウリクセス様の屋敷に連れてこられてからおおよそ1ヶ月が経った。紙に興奮しすぎた私は寝る時間も惜しみながら創作活動に励んだ結果、その様子を心配した侍女達によってウリクセス様に告げ口されてしまい......怒られています。

 前世の真白だった時の癖でついついベッドの上で正座をし、項垂れてお説教を聞く。もう月が昇っているような時間なのだがお説教が終わる気配は無い。

 公務に勉学にと忙しいウリクセス様が私の部屋を訪れるのは大抵夜寝る前くらいなのだが、今日は珍しく夕食後すぐに現れお説教タイムとなった。


「申し訳ございません……」


「だから、謝罪ではなくて改善するんだ!……まったく、何度も同じ事を繰り返すなら、いくら好きな物でも取り上げざるを得ないな」


「え、嫌です!ごめんなさい、改善しますから紙だけは!これだけは取り上げないでーっ!!」


 羊皮紙のプレゼントの一件から私達はかなり打ち解けて仲良くなり、お互い少し砕けた口調混じりで話せるまでになった。というのも、このウリクセス様はかなりの読書家 &勉強熱心な方で、羊皮紙の他にも「私の趣味で用意した物で申し訳ないのだけど」と、沢山の本を部屋に用意してくれていた。学術書や実用的な内容の物が多いが、読書好きにとっては有難い。そもそも本に囲まれた空間があるというだけで心が躍る。

 他にも、私が趣味で物語や絵を書くと言うと、古代語で申し訳ないがと類語辞典を持ってきてくれたり、絵の参考になればと花をプレゼントしてくれたり。……そのかわり物語の書き方を教えてくれと何故か講義を求めてきたり。かと思ったら私の書いた小説を読んで「ここの展開はもっとすっきりさせた方がくどくないと思う」「この言葉は誤用だね」と意見してきたり。アイーシャお姉様は、私の作った物語を「面白い」と楽しげに聞いてくれたが、校正まではしてくれなかった。的確なアドバイスをくれる人が身近にいるというのは、物書きにとっては本当にありがたい。

 アズィーム王国の今後の扱いも悪いようにはしないと約束してくれたし、正直かなり話の合う良い人だった。

 この世界では一般的な歌や踊りを嗜む姫からかけ離れた趣味嗜好をした私が、お姉様以外にここまで素を出せるなんて……それを姫らしくないと否定しない男性がいるなんて。

 そう思うと同時に、侵略されたという過去さえ無ければ……何のしがらみもなくもっと仲良く出来ただろうなと思った。嫁がせる予定は無いと言われていたし異性に興味なんて無かったが、彼になら……こんな形ではなく普通に嫁いで来たかった。身分的にも可能な選択肢の1つだったとも思う。

 先日書面にて、私は正式にウリクセス様の婚約者として定められ、公式発表されたらしい。

『らしい』というのは、当人である私は伝え聞いただけで……一応、私の体が元々強く無い事を気遣ってお披露目は無しとなったらしいけど、自分の事なのにどこか他人事のようだ。


「……ふふっ、昔から紙の事になると必死になるのは変わらない」


「昔から?」


 聞き逃さなかったおかしなフレーズ。ウリクセス様がしまったという表情をする。真面目そうで、どこか余裕のある大人びた表情がデフォルトのウリクセス様にしては、珍しい表情だ。


「昔からってどういうことですか?もしかして私、ウリクセス様にお会いした事がありますか?」


 ずっと気になっていた事を訊いてみる。私が紙が好きと知らなかったら羊皮紙なんてプレゼントしなかっただろうし、食事メニューも私が好きな物や味付けが多い。ウリクセス様の元で暮らせば暮らす程『何故知っているのか』と感じる事が増えていった。友好国として侵略の下準備をする時期に情報として仕入れたのだろうと無理矢理納得していたが……。


「……今宵は月が綺麗ですね」


「ウリクセス様、窓の外見て誤魔化さないでください」


「誤魔化した訳ではないし、昨日タルジュに教えてもらった比喩表現を使ってみただけなのだけど。……まあいいや、案内したい場所があるので一緒に来てもらっても?」


 ウリクセス様はベッドの上に正座した私の手を取り、靴を履いて立つよう誘導してくれる。子供にするように跪き靴まで履かせてくれようとするので、さすがにそれはお断りした。


「私、部屋出てもいいの?」


 絶対の安全が確保出来ないからと、ウリクセス様の屋敷内なのに部屋から出ないように言いつけられており、連れて来られてから一度も部屋から出ていない。出なければいけないような用もなかったし、部屋も広く本棚も沢山ある快適空間なので気にもならなかったが……これは悪く言えば軟禁ではないだろうか?守ると軟禁の違いって難しい……創作のネタにしよう。


「流石に第二皇子が婚約を発表したのに狙う馬鹿は少ないからね」


「狙う!?そんなに私の事殺したい人が多かったなんて……」


「いや……まぁそれも無くはないけど。タルジュは自分の希少性と評判をもう少し意識した方が良いよ」


 ウリクセス様の屋敷に来て以来、私は初めて部屋の外へ足を踏み出した。

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