これは噂の異世界転生?
言葉も分からなければ目も近くの物しか見えない。気が付くとそんな状態に陥っていた。
『真白』というペンネームで活動する同人作家の私。もしかして活動に夢中になりすぎて栄養失調で倒れたのかしら?ここは病院?
ナースコールを押そうと思ったが体が動かない。すみません、と声をあげようとしても上手く喋れない。「あうぁ……」と弱々しい甲高い声が喉から出てくる。え、これ絶対に私の声じゃない!
「お母様!タルジュが起きましたわ、抱っこしてもいいかしら?」
「ふふ、アイーシャ嬉しそうね。気を付けて抱っこするのよ?」
かろうじで聞き取れた『アイーシャ』という名前らしき単語。恐らくその名前の持ち主である少女に抱き上げられ、濃い褐色の肌で頬擦りされる。金色のシャラシャラした髪飾りが黒髪と一緒に降ってきて、少し怖い。
「タルジュ、タルジュっ!あぁなんて可愛い妹なんでしょう!こんな真っ白で神々の遣いに違いないわ……お母様見て?こんな小さな手の先まで白いのよ!」
興奮気味のアイーシャという少女が、抱っこしたまま私の指先を摘み上げる。感覚的に恐らく私の手だと思われる手は……赤ちゃんだった。しかも白人並みに白い。
夢かなと思ったけれど、感覚があるという事は夢では無いのだろう。
訳がわからないけど、これはもしかして流行っていた『生まれ変わって異世界転生』というやつ……?
――ということは、同人作家だった日本人の真白は……きっと死んだのだろう。
せめて再来週にあるはずだった推しキャラのオンリーイベントに参加してから死にたかったな、途中になっている小説を仕上げたかったな、なんて考えていたら眠くなってきた。さすが赤ちゃんの体。
よしよしと頭を撫でてくれる柔らかい手の体温が気持ち良くて、勝手に瞼が閉じていく。
「タルジュ寝ちゃうの?お姉ちゃんがずーっと守ってあげますからね。」