第56話:行方
どもどもべべでございます!
さぁ、もうすぐ20万字という事で、いわゆる2巻のラスボスポジションとして敵を出してみます。
こういう風にプロット構成するのって、難しいっすねぇ……
というわけでご投稿! どうぞ、お楽しみあれ~!
ダンジョンから帰った俺達。
しかし、どうやら祝杯はお預けらしい。それよりも先に、厄介事が舞い込んできやがった。
それも、俺達を狙うだけならまだしも……罪のない市民を巻き込んでの騒動らしい。まったくもって、神ってのはままならん事態を用意してくれる。
「とりあえず……話を聞いてもいいかい」
冒険者ギルドにて。
スラムの少女、シルの頬を手拭いで押さえ、涙を止めつつフロキアが語る。
俺の背中はハノンが綺麗にしてくれたから……まぁ、この際気にしない。
「うぅ……うん……」
シルは、時折しゃくりを上げながらも状況を説明してくれた。
子どもならではの、ややわかりづらい話しなれど、つまりはこういう事だ。
シルの兄、カイルが攫われた。見たことも無い、大人の男からだという。
「えぇ! カイルくんが!?」
「この子の兄さんか……君は、警らの人達に言わなかったのかい?」
「っ……言ったら……いったら、お兄ちゃんが……しんじゃうってぇ……!」
また涙をこみ上げさせるシル。フロキアが慌ててそれを拭い、オリアンティが背中をさする。
ふむ……まぁ、そう言われちゃあシルが何も言えず、あそこで待ってたのはわかる……いや、待て、わからん。
何で、シルはハノンを待っていた?
何で、ハノンにカイル誘拐の情報を伝える?
可能性があるとするなら……?
「……ねぇ、シルちゃん。なんで、僕らを待ってたの?」
俺の疑問を察してくれたか、念話が漏れていたか。ハノンがシルに聞きたい事をつたえてくれた。
シルは、スカートを握りしめながら、言葉を紡ぐ。
「男の、ひとが……ワタシたちが知ってる、ウサギをつれた子に、おてがみわたせって……」
あにぃ?
シルは、ポケットから手紙を取り出し、ハノンに手渡してくる。植物紙が折りたたまれており、なんとも簡素な、手紙と言うよりメモって類のもんだ。
「え、誘拐犯からの、手紙……? 僕に対して?」
「どういう事だ?」
……ちょっと待て。
カイルを攫った男。そいつは、ハノンに手紙を出すためにわざわざカイルを攫ったってことか?
つまり、そりゃあ明らかにハノンに対する人質だ。必然的に、ハノンを狙っての犯行だと逆説で言える。
「ハノンさん……何と書いてありますの?」
「え、えぇと……」
てぇことは、この情報を他の誰かに漏らしたら……カイルがどうなるかは想像に難くねぇ。
これはヤバい。俺の中の警報がノンストップだ。
『ハノン、フロキア達に俺の後を付いてくるように言え!』
「っ」
手紙を受け取ったハノンは、ビクッと震えて手を止める。
俺は即座に、【広範囲知覚】を起動する。冒険者で賑わう場所だ。雑多な空間故に気配が多く、個人を特定するのは難しい。
しかし、窓などの外から監視ができそうな場所に辺りを付けて……その場から離れようとする奴がいるとしたら……
(いた!)
丁度、俺らの背後。食事処にの窓際の外!
クソッ、ていうか離れたんならもう追わねぇとダメじゃねぇか!
「あっ、ヴォルさん!」
俺は即座に駆け出し、外へ飛び出る。
気配を感じた通路へ走ると、丁度その場を静かに去ろうとする人影が見えた。
あいつがもしも見張りなら、ハノン以外に情報が漏れた事を伝えに行くはずだ。そうなるとカイルがやべぇだろ!
「フシッ!」
「っ!?」
俺が相手に急接近すると、その気配を感じたのか、男が振り返る。
わずかな視線で俺を視認した男は、即座に逃走を選択。明らかに堅気の動きじゃねぇ。どうやら当りだな。
『待てコラ!』
跳躍で一気に距離を詰める。
男は路地を出鱈目に曲がって撒こうとするが……角兎の知覚能力舐めんなよ!
むしろこちらの小回りが利く分、距離が詰まった。その逃走は悪手だな。
「ッ、フシッ!」
「がっ!?」
男の背後に詰め、後頭部に跳び蹴りを食らわせる。
もろにそれを食らった男は、前のめりに倒れて石畳に顔面を擦りつけた。
かなり痛いだろうが、まぁ逃げるのが悪い。これで誤解だったらごめんな!
「――――ぅわわ……! うぇ……何今の、気持ち悪い……」
ふと、俺の背後で声がする。これは、ハノンだな?
どうやら、従魔師と契約獣の規定距離に引っ掛かったらしい。互いの距離が離れ過ぎると、上位の存在がいる所に転移してしまうというものだ。
俺の方がハノンより強いから、ハノンが俺の所まで引っ張られたって事だな。ブッ倒した後で良かった。
「あ、ヴォルさん……って、何この状況!?」
『ハノン、お前【アースクリエイト】使えたよな。それでこいつに手枷と足枷作れ。逃がしたら多分カイル死ぬぞ』
「え、え……は、はいい!」
うん、倒したはいいが拘束手段が無かったな。ハノンが来てくれたのは僥倖だった。
こうして、つつがなく拘束は完了。痛みに悶える男を壁に押し付け、角を突きつける。
そうこうしている内に、フロキア達も追いついてきたようだ。
「ハノンくん、これは一体……」
「というか、やはり貴方が契約獣に引っ張られるんですのね……もっと精進しなさいな!」
「す、すみません……じゃなくて! あの、この人……ヴォルさん、この人なんなんです?」
はぁ……まぁ、そうなるよな。
とりあえずこの男はギルドに連行し、再度話をする流れになった。この件は、いろいろと込み合いそうだ。
◆ ◆ ◆
「……なるほどな」
というわけで、再度冒険者ギルド。
今度はギルドの中でも、職員のスペースに案内してもらった。ゴブリンの報告の際に、俺らとフロキアが通されたあの部屋だな。
面子は俺とハノン、そして、フロキアとオリアンティ。ハノンの横にはシルがおり、精神安定のためにハノンが一緒にいてあげる事になっていた。
そして、手紙に目を通すのはハノン……ではない。
こまっしゃくれた眼鏡の長耳。アルバートだ。
「どうやら、この手紙の持ち主は、この前ハノン少年が撃退した暗殺者に関係があるようだ」
「え……!?」
『あ~、やっぱか……』
手紙の内容は、簡素なもんだった。
今日の夜、町はずれの資材置き場に、俺とハノンだけで来るように。そう書かれているらしい。
秘密を漏らせばカイルが死ぬとは書かれているが、魔力なんかは感じねぇから、これを他者に読まれた事が遠くからわかるなんて事はない。
やっぱ、あの男はそういう情報漏えいを見張る役だったようだな。
『この町でハノンを狙うような奴なんざ、今んとこ俺の知る限りではそいつらだけだからな……』
「あう……」
「ふむ……しかし、そうなると僥倖だ」
「どういう事ですの?」
オリアンティの問いかけに、アルバートは口元をわずかに緩ませる。
その笑みは、爽やかスマイルでは断じてない。顔半分を陰影で埋めた、犯罪者のそれだ。
「なに、今度こそ明確な証拠が動いてくれたと思ってね。この一件は、セゴー・テム・カムセが暗躍しているのは間違いない」
「その名前は、この町の貴族ではないですか?」
「あぁ、フロキア青年も巻き込まれたゴブリンの大発生は、そいつの手引きによるものだ」
「っ」
フロキアが反応する。オリアンティも、同じ貴族として感じるところがあったのだろう。顔をしかめて明らかに不機嫌そうだ。
「奴は証人の始末のために、暗殺者を用いた。その暗殺者を、ハノン少年とヴォルが撃退した経緯がある。……奴を糾弾するつもりだったが、保身に優れていてね。朝一に領主に進言するも、邸宅に押し入る手続きを済ませる内に証拠を隠されてしまっていたんだ」
「それで、その貴族は今ものうのうと暮らしておりますの?」
「いや、私を含め領主様にも目を光らせてもらっているから、大層肩身が狭いようでね。……余程ストレスが溜まったらしい。その原因となったハノン少年に、矛先が向いたようだな」
……いや、まぁ、暗殺者の頭目を逃がした俺も悪いよ。
しかし、しかしだなアルバート。その言い方だと、そのセコクテカマセの首根っこ掴むために、あえてハノンを泳がせて釣ったように聞こえるんだが。
というか、これ確実にハノンを餌にしてるだろう。
「ハノン少年を狙っているという暗殺者。こいつを捕らえれば、セゴーの悪事を裏付ける証拠になりえるやもしれん。……ここは、相手の策に乗って欲しい所だな」
『お前は、またそういう……!』
「このまま暗殺者に狙われ続けるよりは、いいだろう?」
こんの……!
「ヴォルさん、落ち着いて……! シルちゃんが怯えちゃいますっ」
「……フスッ」
あ~もう、子どもがいなけりゃ思い切り蹴ってやるのに!
「つまり、罠と分かっていて、庶民を一人突っ込ませろと? はんっ、お断りですわ!」
だが、俺の気持ちを代弁してくれるかのように、オリアンティが胸を張る。
パァンっと扇子を開き、口元を隠す。一々絵になる見た目故に、その動作1つ1つもまた、貴族たるべしという典型のようであった。
「庶民を守るのは貴族の務め! 危険とわかって肉食獣のエサ皿に、誰が放るものですか!」
「だが、彼には心強い護衛がいるだろう? それに、敵の策が割れてる今、君たちも手を貸せばいい」
「形上の安全を使って、本題を棚に上げない事ね、エルフ! 無辜の民を危険に晒すという行為には変わりないですわ!」
「それを言うのなら、既にカイル少年という何の罪もない少年が被害にあっている。ハノン少年と知り合いだった、それだけの理由でだ。その事実に心中穏やかでいられるハノン少年ではあるまい」
「っ……!」
「貴方、とんだペテン師ですわね……」
「今は誉め言葉として受け取っておこう」
くっそ、こいつに舌戦で勝てたら苦労しねぇんだよな。
しかし、情報が向こうに漏れる心配がなくなったとはいえ、危険である事に変わりはない。
たとえフロキアやオリアンティが、ハノンを陰から護衛したとしても、地の利は向こうにあり、手数もおそらく揃えてる。
そして、人気のない暗がりで暗殺者を相手にするってのは、愚策も良いとこだ。
「……僕……行きます」
だが、ハノンは決めてしまう。
そうだよな。カイルを担保にされ、アルバートにあんな発破かけられちゃ、ハノンはそう決めちまうよな。
体の震えを、必死にシルから隠しつつ。しかし、しっかりと前を向いて。
「ハノンくん、今回は……危険すぎる」
『……俺もそう思うぜ』
「で、でも……カイルくんは、恩人なんです……僕のせいで、狙われたのなら……た、助けない、と……!」
チッ、どうする?
ハノンをしばいて、向かわせず、カイルを見捨てる選択肢もある。
しかし、それは確実に、2人の心を壊す行為になるだろう。
だからって、わざわざ死地にハノンを送り出す事も……
「そ、それに……ようは、カイルくんを助け出せれば、逃げて良いんです、よね?」
『あ?』
「……そうだな」
「えぇ、そうですわね」
「いや、暗殺者を捕らえて貰えればそれに越したことは」
「『「うるさい(ですわ)」』」
「むぅ……」
俺らの視線が、ハノンに集まる。
ハノンは、真っすぐ俺を見る。
その瞳には、恐怖と、決意があった。
「だったら……その、1つだけ、考え付いたのが……あります……」




