第55話:帰還、そして
どもどもべべでございます!
設定集もぼちぼち書きつつ、こちらも投稿ですよ!
どうぞ、お楽しみあれ~
その後。
ハノンの残り魔力残量を考えて、あと一体はオークを仕留めて帰ろうということになった。
休憩も取ったし、クリアリングもできた。つうわけで、今回は3階層を重点的に調べてオークを探していく。
4階層に行きゃあ、オークは割と頻繁に居てくれるんだが……いかんせん、3階層で最初の布陣が大蝙蝠との混合だったしなぁ。あまり今回のダンジョンは深入りしない方が良いだろう。
(それに、3階層ならまだ俺の攻撃も通用するしな……)
今回ダンジョンに来てみて、改めて痛感した。何がって、この体の非力さだ。
たしかに、角兎は弱くない。生態と能力が一致しないだけで、ポテンシャルはそこそこなモンスターだというのは確かだ。
しかし、この非力さだけはいただけない。力が無くては、ろくすっぽ敵にダメージを与えられないからな。
人間やゴブリン、肥蜥蜴のように、脆い場所を狙えば倒せるような相手ならばいい。しかし、オークみたいに全身これ筋肉っつうような相手や、ゴーレムなんかにはろくな打撃を与えられない。
ここんとこは、今後の課題だなぁ。
「ヴォルさん、まだ……大丈夫そう、ですか?」
『ん? あぁ』
ダンジョン内を歩きながら、定期的に【広範囲知覚】を使っていく。
うん、気配はまだ感じない……が、これはあれだな、便利なようでそうでもないな。
広範囲知覚を使えば、確かに周囲に潜んでいる敵などがわかる。不意打ちを対策するに当たっては、かなり有効な能力だと言えるが、ぶっちゃけあれだ。
角兎の知覚能力で事足りる!
ダンジョン内で油断をしないのは当たり前として、こちとらうん十年前って冒険者やってきてんだ。ダンジョン歩きのノウハウは多少の心得もある。
そこに角兎の知覚能力だ。わざわざ止まって力を使うより、慎重に進んだ方がなんつうか、しっくりくる。
この力を使うのは、四方を固められた防衛戦や、密談などの隠密が必要な時に使うべきだな。こちらから向かうより、待ち構える時に使うと有効な感じだ。
もしくは、隠密が必要な潜入戦とかかね?
『問題ない。ここからはちとペース上げてくぞ』
「は、はい」
フロキア達にもペースアップを伝えてもらい、探索を再開する。
3階層くらいから宝箱も出てくるはずだが、今回は全然出てこねぇな。
「今回のダンジョンはハズレですわね……オークを3匹で終わりですと、一人頭銀貨10枚。キリの良い所ではありますけど、少々拘束時間の割には合いませんわね」
「あぁ、ポーションの一本でも拾えれば、まだ気が楽になるんだがな……」
「そういうもの、なんですねぇ」
「当たり前ですわ! 命を賭けて実入りがしょっぱいんじゃ、何のためにダンジョンに来たかわかりませんもの!」
「まぁ、ハノンくんの経験を積むのが今回の主だがね」
まぁな、分からんでもない。というか切実にわかる。
ダンジョンは危険と隣り合わせだ。それこそ、いつ死んでもおかしくない空間である。
そんなダンジョンに何刻も入り浸り、精神的に疲労して報酬がしょぼいんじゃあ、本末転倒だ。
しかし、これ以上降りる気はない。ハノンを4階層に連れて行くにはまだ早い。
俺が何かしらの攻撃手段を新しく身につけてからだな、うん。
「っ、フシッ」
「ん……いたか」
ダンジョンが空気を読んでくれたのか、歩いている内に気配を見つけ、合図を送る。
少々緩み始めていた空間が引き締まる。二人も何だかんだで油断してはいないようだな。良いことだ。
しかし、これは……
『ハノン、オークが3匹だ。2人に伝えろ』
「オ、オーク3匹……!?」
そう、通路の奥にある拓けた空間に、3匹のオークがたむろっていた。
念のために、広範囲知覚を使ってみたが、他に隠れてる様子はねぇ。
「へぇ」
「ほう、当たりだな」
明らかに2人のやる気が上がった。
この3匹を仕留め、睾丸を手に入れれば、銀貨合計で50枚だ。こりゃあそこそこの実入りになる。
一人頭16枚。余りは飲みのツマミに消えろってな。
「で、でも、一気に3匹ですよ……?」
「ハノンくん、ヴォルはオークしか見つけてないのかな?」
「え? えと……」
『あぁ、オークだけだ』
少なくとも、あの空間の中はな。
「……だけだ、そうです」
「ならば、先ほどよりも危険ではない。後ろに突っ込んでいく敵がいないからね。私とヴォルが奴らを通さなければ、対処はできる」
「ワタクシが2匹、フロキアさんが1匹落とせばいいのですわ。貴方達はワタクシの援護をすれば良いのです! 不完全燃焼でもやもやしてましたし、丁度よくってよっ」
ま、その通りだな。
大蝙蝠がいない時点で、こちらの負けは無いと言っていい。もちろん、油断はしないがな。
不慮の事態にも対処できるよう、心構えはしておこう。
「ダンジョン騙しの薬も、自前で3本用意している。支給品も後一本余ってるから、合計4本だ。ハノンくんには、倒した敵にこれを振りかける役目も担当してほしい」
「ええと……オークはタフだから、他のを倒してる間に消えちゃう……ですね?」
「その通りですわ! 庶民にしては頭が回るではありませんのっ」
「あわわ……!」
オリアンティにグイっと抱き寄せられ、顔を赤くしてるハノンはまぁ、置いておこう。
欲しい獲物には薬を振りかけておく。これもまた、ダンジョンならではの必要行動だな。
さっきみたいに同じタイミングでやれるんなら、別なんだがな。
「先ほどと同じく、私とヴォルが前線を構築する。オリアンティは、魔法を打って仕留めてくれ」
「せいぜいワタクシの為に頑張ることですわね!」
「テンション上げすぎだ……」
さて、準備は出来た。
心構えも、OK。
ハノンは……大丈夫だな。
『うしっ、行くぞ』
「は、はい……!」
俺とフロキアが、地を蹴る。
オークからは距離があるため、接近はできても不意打ちはできない。
しかし、こちらは後衛の火力と支援が万全な状態である。
後ろに通さなければ、対処できる。
フロキアが言った言葉は……その通りに、なった。
◆ ◆ ◆
「ふふふん、ふふふん! 完勝完勝ですわ~!」
「あぁ、赤字にはならないな。良い儲けだ」
「な、なんか、帰ってきた途端にドキドキしてきた……!」
『まぁ、さっきまで腹ん中にいた訳だしなぁ。緊張感が違うだろうな』
太陽が傾き、沈もうと周囲を朱に染める黄昏時。
俺達は、グランアインの町に帰ってきた。
結局あの後、最期に仕留めた3匹以外にオークが現れる事はなかった。故に今回の収益は、オークの睾丸5匹分で、銀貨50枚である。
結局宝箱は見つからなかったが、まあいい。帰りにも解除ツールを使うような罠は無かったしな。
しょっぱい代わりに、楽なダンジョンだったって結果だ。
「ギルドに報告に行くが……その後はどうする?」
「そうですわねぇ、とりあえず体を綺麗に、と言いたいところですわ」
「あぁ、良いですね……!」
そうなると風呂なんだが、風呂は宿屋に帰んねぇとな。
やはりハノンには、風呂無しで数日堪える類の依頼を持って行くか。汚いのに慣れたのは良いが、風呂に依存しては本末転倒だ。
「ふむ、では打ち上げは止めておくかい?」
「あ……そ、それは、したい、です」
「ふふ、仕方ありませんわねぇ。今回は分け合っても、銀貨一枚は余りが出るのでしょう? ならばその分は飲んで食べましょう!」
「は、はいっ」
うんうん、冒険の醍醐味はやはりこれだな。
最後に、今日も生きててよかったとグラスをぶつけ合う! これが冒険者ってもんだ。
「じゃあ、ひとまず皆でギルドに行こう。私が受付を済ませておくから、二人はロビーで休んで……む?」
あん?
俺の耳が跳ね、フロキアの眉が上がる。
違和感を感じたからだ。
「……ぇぇぇん……!」
泣き声だな。
「なんだ……?」
子どもの泣き声……それも、こいつぁ……。
「フスッ」
「あっ、ヴォルさん!」
フロキアとオリアンティが反応するよりも早く、俺はそちらに駆けだした。
答えは単純。泣き声を聞いたからである。
とはいえ誤解はしないで欲しい。俺は迷子の捜索に手を貸すようなお人好しではない。金にならんし、親に借りを作った所で、子持ちには手ぇ出さんしな。
じゃあ、何故か?
「うぇぇん……! ヒグ、うぁぁぁ……!」
「お嬢ちゃん、泣いてちゃわかんねぇよ」
「おい、どうすんだ?」
「どうっつってもなぁ……」
見回りをしていた警らだろう。数人の男が困り果てている。
子どものあやし方より、女の鳴かせ方に俄然興味がありそうな連中だ。泣いてる子供の対処なんてわかんねぇのだろう。
「フシッ、フシッ」
「うぉ!?」
「ホ、角兎?」
そんな男たちの股の間を通って、泣き声の前に立つ。
うん、やっぱりな。
「ふぐ、ゥ……んっ、ふぅぅ……!」
「フスッ」
「うぁ……? ぼ、ぼるちゃぁん……!」
泣いてる子供が、俺を抱きしめる。
同時に、ハノン達も俺においついたようだ。
「す、すみません、その角兎、僕の従者で……って、シルちゃん……?」
「ふぅ、んっ……ズビィ! は、ハノンくんん……!」
え? 今俺の背中で鼻拭いた?
い、いや、きっと気のせいだろう……その少女……スラムのシルは、俺達を見てようやく大泣きを止めたようであった。
ここは、スラムじゃない。一体、なんだってこんな所で泣いてんだ?
「ハノンくん、ハノンくんん!」
「わ、わ、どうしたのシルちゃん……!」
「お兄ちゃんを……」
シルは、俺を抱いたままハノンに急接近する。
目に涙を一杯に溜め、大きな瞳を腫らしながら、叫んだ。
「お兄ちゃんを……助けて!」
その言葉の悲痛さに、俺達は息を飲む事しかできなかった。




