何かが、おかしい転入生。
弟がヤンデレなの好きなんです…
『お姉ちゃんっ、
お母さんがお姉ちゃん置いてくって…』
大人は勝手だ。
親の離婚に子供の意思はない。
「そうか。じゃあな。」
可愛げ無い私は置いてかれる。
想定できることだろう?なぜ泣く。
『…っ?!やだっ!お姉ちゃんと離れたくないっ!
お母さんもお父さんもいらないっ!!
僕は、お姉ちゃんと一緒がいいっ!』
確かな愛情をくれる両親より
こんな無表情で可愛げのない姉がいいと
ほざく馬鹿な弟に私は都合のいい嘘をついた。
「いい子にしてたら、いつか会えるよ、多分。」
『…ほんと、?』
「ああ。お前が私より大きくなって
強くてかっこいいお兄ちゃんになったらな。」
『約束だよ!おっきくなったら…そしたら、』
(ずっと一緒にいてね)
雨の音が煩くて聞こえなかった最後の言葉…
ビニール傘を弾く水滴の音が遠ざかる。
エンジン音は幼い私を置いて遠くへ消えた。
***
アラームの音と共に現の世界から現実へと戻る。
「浅葱~そろそろ起きろー。遅刻すんぞー!」
優しい風貌に温和な性格の同い年の義兄の
萌葱がフライパンにお玉と
ドラマなどでよく見る定番の起こし方をする。
本人はドラマでそんなシーンを見て以来、
「他のお宅ではお玉でフライパンを
叩いて起こすのが普通」…という考えに至る天然…
私としてはかなり煩いのでやめて頂きたい。
だが寝起きの悪い私を嬉々揚々と起こす
義兄を見ているとやめてとは言えず、
ずるずると騒がしい朝が続いていた。
「…んー、いま…おきた…、」
「おはよう浅葱。ご飯できてるよ。」
「…パン?ご飯?」
「時間ないしトーストにしといた。」
「ん、わかった」
萌葱の用意してくれた朝食をつつきながら
TVに表示された時刻を確認し
無意識に「げっ、」とボヤく。
「なんでもっと
はやく起こしてくれなかったの~!!」
「起こしても浅葱が起きなかったんだよ…
ほら…さっさと着替えちゃいなさい。」
「お兄ちゃんのバカー!」
「そういうこと言うと
次、寝坊しても起こさないよ?」
「ごめんなさい、起こしてくれてありがとう。
お兄ちゃん大好きー。」
「うん。よろしい。」
支度を終えて兄と二人で暮らす家を出る。
***
「よっ、遅刻ギリなんて珍しいなー」
教室について真っ先に声をかけてくるのは
男友達の京藤。下の名前は覚えてない。
「まぁーね。
なんか昔の夢、見ちゃって寝過ごしちゃった!」
「ふーん?」
「親が離婚した時の夢だった!あの時は、
弟が泣き喚いて、もう本当にうざかったな~…」
幼い頃、両親が離婚して
私は父親に親権が行き、父は再婚した。
だから萌葱とは再婚相手の
連れ子同士でお互い血は繋がってない。
「…お前、昔から平気で
”そーいうこと”明るく言う奴だったよな。」
「……?なんか変?変なら直すよ!」
「いや、変じゃねーよ。ふつうだ。ふつう。」
「そっか!ならいいや!」
「そーいや、今日、転校生来るらしいぞ!」
「ほんと!男の子?女の子?」
通りでクラスが騒がしいわけだ。
「いや、そこまでは…」
「なんだ~京藤、使えないな~」
「お前な…」
「そんなことよりさ!みんな”転校生”って言うけど
この学校に転入するんだから”転入生”だよね??
なんでみんな”転校生”って言うんだろ??
そっちの方が馴染みやすいとか?」
「さぁ?みんながそう言うからじゃね?」
「なるほど!つまりバンドワゴン効果ということか!」
「”バンドワゴン”?ナニソレ??」
京藤とバンドワゴンの心理について駄弁っていると
朝のHRの時間となり、担任が教室に入ってきた。
「はい、静粛にー。
この様子だと皆、知ってんだろう。
今日は転校生がいる。櫻葉、入ってこい。」
クラス全員の視線が教室の前扉に集中する。
入ってきた転入生は、爽やかな雰囲気の男だった。
「ほれ、挨拶。」
「…転入生の櫻葉 藍斗です。
前の学校ではサッカーをやっていました。
皆さん、仲良くしてくれると嬉しいです。」
「キャー!!」という女子の黄色い声に
眉間に皺をよせ、転入生を見やる。瞬間、目が合う。
そして、ズカズカと教卓から私の隣まで来た。
…一体、何なんだ。
「………。」
見てくるだけで何も言わない…本当に何?
「こらー、櫻葉ァ、勝手に動くな。」
「…あっ、すいません。」
「丁度いい。紺野の隣、
空いてるし櫻葉の席はそこな。」
女子の視線に殺されそう…
一番、後ろの窓際という
最高の席が一日にして最悪の席に変わった…
私の災難を笑ってる京藤は後で殺す。
隠れて笑いこらえてんの見えてんだよボケ。