第53話:残響の果てに
山頂に吹き荒れる極寒の暴風の中、リンドたちは三日間に及ぶ孤立無援の『山ごもり修行』の渦中にいた。
「ハァ……ハァ……ッ! 【極寒の結晶槍】ッ!」
「【剛天・砕岩斬】ぃぃっ!!」
氷結の槍が空間を歪めながら飛び、ダイダラの巨斧が山肌ごと空間を断ち切る。
カガヤから授かった【禁忌の魔術】の理論と、空間干渉の感覚。それを身に染み込ませるため、一行は命懸けで互いの技を打ち合い、限界を超えた高みへと達しようとしていた。
「よし……! 全員、空間干渉の術式を身体に馴染ませられてるぞ」
満足げに頷くリンド。しかしその時――。
ガタガタガタッ……ッ!!
遠く麓のオアシスの方角から、空を割るような不吉な衝撃波と、不自然な魔力の衰退が伝わってきた。
「な……ッ!? この気配……カガヤの魔術結界が破られた……!?」
「まさか……カガヤおじいちゃん……!?」
顔色を変えた四人は、弾かれたように山を駆け下りた。
時を少し遡り――緑豊かな一軒家。
「……フン、ついに来たか。アダムスの忠犬どもが」
薪ストーブの前で静かに茶を飲んでいたカガヤが、ぽつりと呟いた。
次の瞬間、ドカァァンッ!!と爆音を立てて屋敷の天井と壁が吹き飛び、暖かなオアシスの緑が一瞬で枯れ果てて黒い灰へと変わる。
「「見ーつけた……忌々しい老いぼれ」」
晴れ渡った空から降り立ったのは、寸分違わぬ不気味な笑みを浮かべた双子――【五角】の「ワビー・カマエル」と「サビー・カマエル」。
「カカッ! 【完全風化】のワビー!」
「キキッ! 【完全腐敗】のサビー!」
「「王の命により、貴様の息の根を止めに来たよ!」」
「フォフォ……若い者が束になっても勝てん相手を、こんな死に損ないの老人に差し向けるとは……アダムスめ、相当怯えておるな」
カガヤは静かに杖を突き、残された寿命の全てを燃やし尽くすように莫大な魔力を解き放った。
「来い、若造ども! 【禁忌の魔術】の深淵……見せてやろうぞッ!!」
空間を折り畳み、天変地異のような魔力流で立ち向かうカガヤ。だが、襲いかかるのは【五角】が誇る二身一体の絶望。触れたものを一瞬で朽ち果てさせる【完全風化】と【完全腐敗】の凶悪な連携が、カガヤの弱り切った肉体を刻一刻と侵食していった――。
「カガヤーーーッ!!」
リンドたちが猛スピードでオアシス跡地へと駆け戻った時、視界に飛び込んできたのは絶望的な光景だった。
かつての温かな家は見る影もなく崩壊し、黒焦げた灰の地表。
その中央で、ボロボロになり血を吐くカガヤの胸元を、ワビーとサビーの二本の漆黒の短剣がズブリ……と深く穿つ瞬間だった。
「カカッ! 終わりだ老いぼれ!」
「キキッ! 王の脅威は消えた!」
「ガハッ……ッ!!」
カガヤの口から鮮血が噴き出す。
「カガヤぁぁぁぁぁぁッ!!」
怒りで目を血走らせ、殺気を爆発させるリンド。その背後で、アイリスとダイダラ、エルニャが怒号を上げる。
止どめを刺した双子が、ゆっくりと振り向き、狂気的な笑みを浮かべた。
「「おや……? 『害虫』どもが帰ってきたね」」
「テメェら....骨も残さず食い尽くす!!!!」
命の灯火が消えかける師の姿と、迫り来る【五角】の双子。北の最果てで、血と激怒の決闘が今、幕を開ける――。




