第1話:スキルと神童
こんにちは!初めましての方は初めまして!この度自分が前に書いていた【捕食】シリーズを再度編集し、再開する運びとなりました!ぜひ最後までお付き合いいただけると幸いです!
あぁ、僕はここで死ぬのか。
力なく冷たい岩の天井を見つめながら、ぼんやりと考える。
視界の端は黒く霞み、指先ひとつ動かすことすら叶わない。全身を苛む激痛すら、すでに遠い出来事のように感じられていた。
なぜ、こんな仕打ちを受けなければならないのだろう。
ここはダンジョンの深層部。いや……人が踏み入ることすら許されない最深層かもしれない。
どれほど声の限りに叫ぼうと、助けが来るはずもなかった。
(なんで……僕は一人でこんな場所にいるんだっけ……)
死を目前にした脳が、自衛するように現実感を失っていく。
やがて、頭の中に走馬灯のようにこれまでの人生が流れ出し始めた。
◇
遥か広がるアステリア大陸。
この世界では十五歳を迎えると同時に、神から【スキル】と呼ばれる固有の能力が与えられる。
スキルの優劣は最低の『Fランク』から最高の『SSランク』まで、分かりやすい評価システムで分類されていた。……噂ではランクの枠に収まらない”天害級”なんて大層な代物もあるらしいが、当時の僕には関係のない話だった。
僕――山城健也は、そんな異世界に転生した元・日本人だ。
社畜として冷たく死んだ前世とは違う、最高の人生にしてやる。
そう息巻いた僕は、前世の知識と大人の思考力をフル活用した。魔法の理論を学び、血の滲むようなトレーニングを毎日欠かさず重ねた。その結果、周りからは「神童」と持て描かれ、順調すぎるほど順調に成長していった。
そして――ついに迎えた、十五歳の『神授の儀』。
「やっと来たか……この時が!!」
「もう、いくらなんでもはしゃぎすぎよ、リンド!」
呆れたように笑うのは、幼馴染のナスターシャ。隣の家に住む同い年の女の子で、幼い頃から一緒に剣の稽古をしてきた間柄だ。
ちなみに、今の僕の名前はリンド・アルターヤという。
「まあ、神童さんは良いスキルを得て、この世界に名を残すのが夢だったもんな!」
そうやってニシシと嫌味っぽく笑うのは、もう一人の幼馴染であるガルガン。村一番の巨漢で、僕の次に腕が立つ男だ。口は悪いが、根はいい奴だった。
「僕にとってはこの日のために十五年頑張ってきたんだ! 絶対に最強のユニークスキルを手に入れてやる!」
口だけじゃない。僕は準備できる全てをしてきた。
脳内で自身のステータスを展開する。
【リンド・アルターヤ】
Lv:30
HP:147 / MP:102
筋力:52 / 魔力:44 / 防御:47 / 魔防:40 / 俊敏:68 / 運:50
冒険者ギルドの基準で言えば、この数値はすでに『Dランク中位』の現役冒険者に匹敵する。
さらに、通常のレベルアップでは上がらない『運』の数値すら、日々の善行を重ねることでコツコツと上げてきたのだ。
十五歳になったばかりの少年としては、間違いなく規格外。これこそが僕が「神童」と呼ばれる所以だった。
「……次! ナスターシャ・テンタクルター! 前へ!」
神官の声が響き、ナスターシャの番がやってくる。
「ナスタ、君もかなり強くなってるはずだ。あとは天に祈ろう!」
「ええ……わかったわ、行ってくる!」
緊張した面持ちで壇上に上がったナスタが、台座に置かれた神秘的な水晶へそっと手を触れた。
次の瞬間――ズン、と神殿全体が震え、水晶が圧倒的な輝きを放ち始める。
「……っ!? おおおぁぁぁ!!? こ、これは……!!」
神官が声を裏返らせた。水晶から溢れ出したのは、眩い黄金の光だ。
「おいおいマジかよ! 金色の光ってことは、Aランク以上は確定じゃねえか!?」
「……出たぞ! Sランクだ!!!」
光が収まると同時に、神官が叫んだ。
【ナスターシャ・テンタクルター:獲得スキル『剣王(Sランク)』】
「「「おおおおおぉぉぉぉぉ!!!」」」
大聖堂が割れんばかりの歓声に包まれる。Sランクなんて何万人に一人の確率だ。
「やった……! リンド、私やったわ!」
「すごい、すごいよナスタ!」
「やるじゃねえか。だが俺だって負けねえぞ!」
続いて壇上に上がったガルガンが水晶に手を触れた時、再び奇跡が起きた。
またしても、神殿が黄金の光に包まれたのだ。
「な……なんということだ……! Sランクが連続だと……!?」
【ガルガン・ブルダー:獲得スキル『金剛力(Sランク)』】
「っっしゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
咆哮するガルガン。村から一度に二人もSランクが出たのだ。お祭り騒ぎになるのも無理はない。
「二人ともすごすぎるよ……僕の自信がどんどん無くなっていくな」
「何弱気なこと言ってるのよ! あなたはこの村で一番強いのよ? もしかしたら伝説のSSランクかも……!」
ナスタが優しく背中を押してくれる。
そうだ。僕は誰よりも努力してきた。絶対にいいスキルが来るはずだ。
「最後! リンド・アルターヤ!」
息をのむ群衆の中、僕は神授の台座へと歩み寄った。
冷たい水晶に両手を重ねる。
直後――激しい輝きが弾けた。最初は二人と同じ、眩い黄金の光。
「おおおっ、神童も金だ!」
「やっぱり凄え――」
歓声が上がりかけた、その時だった。
――ズワッ。
黄金の光が、一瞬にして不気味な『漆黒の闇』へと変色した。
光を放つのではなく、周囲の明かりすら吸い込んでいくような禍々しい黒。
ミシッ……メリメリメリッ!
「ひっ……!? な、なんだこれは……!?」
神官が悲鳴をあげるのと同時に、黒いモヤを噴き出していた水晶に無数のヒビが入り――パンッ! と粉々に弾け飛んだ。
静まり返る神殿。
僕は動揺を抑えながら、すぐさま自分のステータスを確認した。
【リンド・アルターヤ:獲得スキル『???』】
(え……? 何だ……これ……?)
スキルの欄は、まるで墨で塗りつぶされたように真っ黒で何も読めなかった。
「リンド……これって……なんだかとてつもないものなんじゃないの!?」
「そうだぜ! 俺も色々調べたが、こんなのどこにも載ってなかった! マジでヤベーって!」
動揺する僕を気遣うように、ナスタとガルガンが必死に声をかけてくれる。
「う、うん……! そうだよね! 最低ランクってわけじゃないし、悲観することはないよね……!」
自分に言い聞かせるように呟く。
「ま、何はともあれ、これで俺たちは全員冒険者だ! 三人でパーティを組もうぜ! 名前はそうだな……『ランカーズ』だ!」
こうして僕たち三人の冒険者生活が始まった。
スキルが分からなくても、冒険の途中で目醒めるかもしれない。諦める必要なんてない。ここからまた頑張ればいいんだ。
……そう思っていた。
この時の僕はまだ知らなかったのだ。
これが、僕の人生における『最悪の幕開け』だったということを。
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