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そして私は、救済の聖女になった。  作者: 五乃ふゆ
第二章

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20/21

エドワードとの出会い

 確かに、この世界を救うのが来訪者の役目だと言うなら、間違われた亜里沙と翔が居ても世界は救われないのだろう。


 唯一、ふたつの世界を繋げられるニーズが、世界の穢れが減らないと回復しないと言うなら、諦めるしかないのかも知れない。


 だが──



「…………帰れるよ」


 今度は、亜里沙はひとつの決意を持ってその言葉を言った。


 翔が亜里沙を見た。

 亜里沙は翔を見つめ返す。


『まさか……お前はまた』


「もう止めないで、ニーズ。私の体があればニーズの力を使えるんでしょ?」


『死ぬかも知れないんだぞ』


「私がやるしかないの。茉利咲が選ばれる予定で、きっと茉利咲ならこの世界に来れば力に目覚めたんだよね……でも、それはもう叶わないんだから」


『……それは……』


「自分が死んでもいいなんて思わない。だから、死なないように加減する。そうしたら戦いには弱いかも知れないけど、でも時間がかかっても少しずつでも続けていけば……!」


 ニーズは答えなかった。ただ、迷っているような気配がするので、眠ってしまったわけではなさそうだ。


 遠慮がちな翔の視線を感じて、亜里沙は今しがたのニーズとの会話内容を伝えた。


「それ……きみの体を通してドラゴン……ニーズの力が使えるって言うなら」


 翔は一旦言葉を切って、躊躇いがちに続けた。


「……それで世界を繋げる事は出来ないのかな?

そして、別の相応しい人を連れてくる、っていうのは? そうしたら、俺たちは帰れるし……」


 目から鱗だった。


『駄目だ』


 しかしニーズがばっさり切った。


「どうして?」


『世界を繋ぐ行為は、イドルと戦う事とは比べ物にならない危険なものだ。我が魂だけでそれが出来るからと、お前も同じ事が出来ると思うのか?』


 亜里沙は翔にニーズの言葉を伝えた。

 今日だけでも知った事が多くて段々と亜里沙の頭が悲鳴を上げ始めている。


 ニーズの言葉を聞いた翔は眉を顰めた。


「……だったら、どうするんだよ……」


 翔の声に静かに怒気がこもる。


「そっちだって世界が救われなきゃ困るんじゃないのか。茉利咲ちゃんが選ばれる予定だったって……その辺りもちょっと理解し難いけど。この世界に来たら力が目覚めるとか、そんな仕組みも飲み込めないのに、こういう不測の事態になった時のプランが無いだなんて、信じられないよ。前々から選んでおくくらい用意周到なら他にも候補を考えておかなかったのか? まさか一度入り口を開いたら消耗してすぐには開けなくなるリスクがある事に気付かなかったなんて言わないよな?

そもそも何で異世界の人間が必要なんだ? 自分たちの世界だろ」


 我慢していたものが切れてしまったように捲し立てた翔に圧倒されながら、再びの目から鱗だった。

 亜里沙が考えもしなかった事ばかりだが、言われてみればそうだ。


『質問が多いなこの男』


 苛々した声が頭の中に響く。


「この男じゃない、秋原翔くんだよ。それに……聞きたくもなるでしょ、何も分からなかったら納得なんて出来ないないんだから……」


『……カケル、か……』


 しばらくニーズは何か考えているようだった。


 元々の性格が穏やかな翔は自分が言った事に罪悪感を感じているような表情を浮かべている。だが撤回せずニーズの返事を待っている辺り、これを解消しないと何も始まらない事は亜里沙にも分かった。



『……我も不本意なのだ。言い訳にしかならないが……だが、すまなかった』


 一息置いて、ニーズは続けた。


『これをカケルにも伝えてくれるか、アリサ』


 ニーズに名前を呼ばれたのは初めてだ。


『アリサがイドルに対抗する気があるなら、その事については我も協力しよう。ただし、いくら我らにその気があっても力をうまく使えるかはアリサ次第だし、アリサがいくら加減すると言っても危険な事には変わらない』


「うん……分かってる」


 亜里沙の決意を汲み取ったのか、ニーズは小さくため息を吐いた。


『それから、我が来訪者をどうやって選ぶのか、来訪者がどうやって力に目覚めるのか、何故この世界の民ではなく来訪者が必要なのか、それらは話せない』


「……どうして?」


『それを話すとこの世界の(ことわり)に触れてしまう。そしてそれは禁忌だからだ。答えられない。それは我も譲れない。

それから理に触れる事として、我の存在も絶対に他言してはならない。これも守ってもらう』


 断固とした言葉に、亜里沙は分かった、と呟いた。


 そして、自分に危険があるという所はわざわざ何度も言う事もないのでそれ以外を翔に伝える。

 ニーズは不服そうに唸っていたが、亜里沙は無視した。

 やはりニーズが話せない部分に関しては眉を顰めたが、最後まで黙って聞いていた翔は、申し訳なさそうに亜里沙を見る。


「ごめん……きみも俺と同じで関係なかったのに……俺にも何か出来ればいいんだけど……」


「じゃあ、なるべく一緒に行動してくれる? 私も付き合いが長い友達が側にいたら元気出るし、私が気付かない事とか、秋原くんなら気付いてくれそうだし」


 友達、と呟いて、翔はしっかりと頷いた。


「うん……そうだね」


 そして、少し照れくさそうに笑みを浮かべる。


「亜里沙ちゃん、って呼んでいい? 昔みたいに」


 亜里沙は、もしかしたら今日で一番嬉しい気分になって、大きく頷いた。


「うん! 私も翔くんって呼ぶよ、昔みたいに」


 亜里沙と翔はぎこちなく笑い合った。




 それから少しして、窓からオレンジ色の光が薄く差し込んで来た頃。

 部屋の外から先程の宰相が声をかけて来た。


「アリサ様、来訪者様」


 翔の承諾を得て、亜里沙はそっと扉を開けた。


「アリサ様、第二王子殿下がお越しになっています。お会いになられますか?」


「お、王子様が!?」


 そんな偉い人が来たのに、会うかどうか聞いてくれるなんて。

 でも断ったりしたらマズいのではないだろうか。


 翔に聞くと、翔は頷いた。


「会うしかないと思う。でも亜里沙ちゃん、さっき話した事……というか今日新たに知った事はまだ誰にも言わないで。とりあえず、今は。答えられない所は、まだ分からない、で通して欲しい」


「わ、分かった」


 宰相に会うと返答すると、宰相は王子に声をかけて下がった。



 現れたのは、王子、というよりファンタジーで見た騎士の格好に近い装束に身を包んだ、17歳くらいに見える美少年だった。

 上品な雰囲気に金髪に青い瞳で、甘いマスクという言葉が似合いそうな。

 キーランの美貌は父親からも受け継がれたのだと亜里沙は思った。


「ようこそお越しくださいました、来訪者様。

僕はエドワード・ソリス・カンドール」


 丁寧に会釈され、亜里沙も慌てて頭を下げる。


「鈴木亜里沙です。こちらは秋原翔です」


「ああ……確か同郷だとか? それにしてもそちらの来訪者様は話さないのではなく、話せないのか」


 亜里沙は訝しげにエドワードを見つめた。

 こんなに穏やかで上品に話す人なのに、言葉に棘があった。


「……王族を黙って見つめるのは不敬だぞ、来訪者様」


 優雅な笑みで言われ、慌てて視線を外したが、小さくフンと笑われたのは聞き逃さなかった。


「来訪者様が目を覚ましたと聞いて見舞いに来たのだが……歓談を楽しんでいた所を僕が邪魔したようで、失礼したね」


「あ……いえ……」


 何となく、この王子は、亜里沙や翔を嫌っている気がする。

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