《泪》っていうモノ
『……』
そう言えば、……と、僕はふと思い出す。
子ギツネたちが話しているところを、僕は見たことがない。
もしかしたら、言葉が分からないのかな?
……………………?
『……じゃあ、僕は何で話せるの?』
ぽつりとそう呟いてみる。
でも、……答えは分からない。誰も答えてくれない。だって誰もいないから……。
僕は、耳を伏せて鼻を鳴らす。
……誰もいない。
……違う。誰もいないわけじゃない。
僕の傍にだけ誰もいない。
『……うっ』
目頭が熱くなって、ひどく悲しくなった。
本当なら今、《泪》って言うものが溢れてくるはずなんだろなって思った。
だけど《泪》すら出てこない。
自分の感情にすら、見放されたような、そんな気持ちになった。
胸いっぱいのこの気持ちを、泪で外に吐き出すことが出来たのなら、僕は少しは楽になるかも知れないのに。
『……』
だけどそれは、到底無理な話。
そどうやったら泣けるのか? なんて、そんなの知らないんだから……。
『うぅ……っ』
苦しい。
苦しくて悲しくて、仕方がない。
せめて声だけでもと、僕はむせび泣く。
一度泣き出すと、堰を切ったかのように、あとから後から嗚咽が漏れてきた。
けれどそれでも、泪はどうしたって出てこない。
《嗚咽》だけが漏れた……。
《泪》というものを、僕は知っている。
なんで知っているんだろう?
僕の出すことの出来ない《泪》。
生まれたばかりで、見たことも聞いたこともないはずなのに、何故だか知っている《泪》。
『……変なの』
けれど悲しくて寂しくて、どうしようもない時に、その泪を出せば、楽になるのだということも知っていて、だから僕は、その《泪》を出してみたくって仕方がない。
けれどどんなに頑張っても、その泪は出てこない。
出てこないから、僕のこの寂しさも悲しさも、全部心の中に押し留まっていて、心の中から流れ出て行ってくれないんだ。
《寂しさ》は、ずっと心の奥深くに居座って、僕を支配する。
『あぁ……うぐ、うぐ……』
声だけが、虚しく響く。
寂しさを心の中に押し込めながら、僕は思う。
誰かを探そう。
きっと見つけよう。
僕を怖がらない誰かを……。
きっとどこかに、いるはずだから──。
『……』
僕は一人、ひとしきり泣くと、炎を吐いた。
青いその炎は、悲しげに光る。
ピョン……と、その炎に乗ると、僕は跳ねるように駆け出した。
──この森の中には、もういない……!
ゴシゴシと、顔を前足で拭いた。
けれどやっぱり泪は、出ていない。
虚しくなって、ぺろりとその前足を舐める。
きっといつか、泣くことの出来る日が来るだろうか?
それともずっと、泪を流すことは出来ないのだろうか?
出来ることなら、泣いてみたい。
泣くことが出来た時、僕にも仲間が出来るような、そんな気がした。
僕は決心する!
よしっ! 僕は、僕を怖がらないヤツを探すぞ! 絶対探してみせる! いつまでも、泣いてなんかいられない!
そう心に強く思って、僕は空を思いっきり蹴りあげた。
──ビュン……!
青い炎が火花を撒き散らし、辺りが淡く光った。
僕の耳元で、風がびゅうびゅう音を立てて、通り過ぎて行く。
白くて太いふわふわのしっぽが、僕の動きに合わせて、たなびいた。
いつの間にか、僕が生まれたときに降っていた雪は、
降らなくなっていた。
雪は、少しずつ少しずつ溶けていき、
あたたかい春の風が、吹き始めている。
× × × つづく× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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