最終章「午後2時」
場所:日本
午後2時。
寺田伸一郎にとって、その日はいつもと変わることのない一日のはずであった。
太陽が午後の空を進むなか、友人との街中の待ち合わせ場所にて、腰を下ろして休んでいた。
しばし、何とはなしに周囲を眺めていると
「おまたせ」
路上で立ち話をして賑わう人々の少し先の方で、若い女の子が待ち合わせらしき男に声をかけていた。
「遅いよ」
男は軽い笑みを浮かべながら、女にそう返す。
「ごめん、これお詫び」
そう言って、女は小さな紙袋を渡す。
「何これ?」
「実はね、最近すごく趣味の良いアンティークショップを見つけたの。穴場のお店で、私よくソコに通っていたの。だから、今日コレ買ってきたの!ほら、以前からこういうのお家に欲しがっていたじゃない」
男はガサガサと紙袋から中身を取り出し、それを仔細に眺める。
「へぇ…良いね」
「でしょう?そこのオーナーの人がわざわざ海外まで直接出向いて、特別に仕入れてきたものなんだって。ハンドメイドなんだって」
女は続ける。
「でね、そこのオーナーって人が、外国人で、背も高くて、すごく声が印象的な人なの。まるでオペラを歌っていた人のような、すごく洗練された声なの。今度連れてってあげるね」
羨ましいねぇ…
寺田は思わず溜息をついた。
その時であった。
「―ひとつ食べたい」
風に乗って、可愛らしい女の子の声がふわりと耳に届いたような気がした。
「熱っ!」
突然、男が声を上げた。
寺田は見た。
男の手からマグカップが落ちていく。
見るも驚くべきことに、マグカップというのは、パリンと割れるのではなく、ドロリと割れるものなのか。
これでラストとなります。
ありがとうございました。




