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なぜ、こうなったのだろうか。


目の前には、信じられないような光景が映っていた。一部屋だけで何十人と入れそうなほど広い部屋に、触れるのも躊躇う、一目で分かる高級な家具、足首まで沈みそうなふかふかのカーペット、天井は見上げるほどに高く、てっぺんには立派なシャンデリアが下がっている。大きなテーブルには大量のティーセットをはじめ、タルトやケーキ、スタンドにのったスコーンやジャム、マカロンなどの甘いものは勿論、キッシュやサンドイッチ、スープなど、ちょっとした茶会が開けそうなメニューがぎっしりと並んでいた。これで緊張するなと言うほうが無理だろう。



横を見ると、リオも同じように目を大きく見開いて周りを見渡している。昨日までいた貧民街とは雲泥の差だ。

二人の目の前には、一人の男が座っていた。色素が薄い長い髪を後ろで一つに結び、年は二十代後半だろうか、貴族らしい上等な服がよく似合い、薄い紫色の切れ長の目が印象的な、繊細な美貌の男だ。長い脚を組み、穏やかな笑みを浮かべているが、目は鋭く光らせて二人を見つめている。



「悪かったね、急に来てもらって」



クラウドと名乗ったその男は、目の前の茶菓子を勧めながら謝罪をした。正確には来てもらったではなく、無理矢理連れて来させた、だが。


「さて、本題に入ろうか」



一口茶を音も無く口に含むと、クラウドはカチャンとカップを置いた。


「君たちは、自分たちの父親を知っているかい?」
















国の端にある、街と呼ぶのも躊躇うほどの小さな貧民街に、二人は住んでいた。

その街はスリや強盗は日常茶飯事、人殺しなども平気で起こり、取り締まる警備隊もいない。住んでいる皆が飢えており、少し路地裏に行けば老若男女問わず餓死死体がゴロゴロ転がっている。

店も少なく、唯一ある酒場にはいつ行ってもゴロツキたちが入り浸っている。

かといって領主が何かをするわけでもなく、住民たちに重税を課して贅沢三昧。

あまりの治安の悪さに国からも半ば見放されており、いくら待っても助けが来ることもない。

若い男たちは早々に見切りを付け、仕事を求めて街から出ていった。

出ていく勇気や金が無く、街にとどまるしかない女子供や老人は、唯一の仕事場である領主の館で働き、その仕事にすら就けない者は、靴磨きや、時に女は体を売ってその日の飯代を稼いでいた。


かといって領主館で働くことが良いのかと言えば、そうでもない。常に領主の体罰に怯え、運が悪ければ死ぬことも珍しくない。女たちは領主に襲われても文句は言えず、歯を食いしばって耐えるしかない。


子供はスリで暮らす者が大半で、その過程でゴロツキに殺される子供も多い。飢えと病気で二十歳まで生きられる者は、二割いるかどうか。


そんな最悪な環境の街で、二人は暮らしていた。





曲がり角を曲がり、家に向かってでリオは走っていた。手には籠がしっかりと握られている。

街の隅にある、小さな石造りの家。そこが二人の住み処だった。


「リア!」


勢いよく扉を開けたリオは、奥で縫い物をしている少女に声をかけた。

普段は冷静なリオに、リアは少し驚きながら声をかけた。


「どうしたの?何か手に入った?」



「旅人らしき人がいて、パンを安く売ってもらったんだ」


籠を覆っていた布を取ると、中には大きな硬いパンが二本入っていた。


「雨が降って水もあるし、これで数日間は過ごせるよ」


いくら硬くても、パンはパン。水で流し込めば、何とか食べられる。


「良かった。ちょうどもう食べ物が無くなってたんだ」


そう言って、銀色の長い髪をかきあげる。


二人を初めて見る者は、大抵の人間が貴族だと思うだろう。そう思わせるような、不思議な気品があった。


何より目を引くのが、深い海のような青い目が印象的な、中性的な美貌に、銀色の髪。そして何より、二人は瓜二つの顔だった。リアの女性にしては高い身長にリオの華奢な体型も相まって、よほど親しくならないと見分けがつかないほど、二人はよく似ていた。違うのは髪の長さくらいだろうか。リアは背中まであるのに対し、リオは肩につく位の長さだった。


双子として生まれ、人生を共に生きてきた二人に、親はいない。生まれてすぐにこの街に捨てられた。


かつてはこの街にも修道院があり、二人は七歳まで育てられた。

院長が自殺し、シスターたちが街から去る前日、ある修道女がどのようにして二人を拾い、育てたのかを教えた。


大雨の夜、突然一人の男が赤ん坊のリアとリオを抱いてこの修道院にやってきて、『この赤子を育ててくれ』と、多額の金を渡して去ったのだという。

名前はこれにしてくれと、文字が書かれた紙を渡して。

それが、今の二人の名前だ。


急なことにシスターたちは慌てふためきながらも、二人の目と髪の色を見て、どこかの貴族の私生児ではないかと思ったのだという。


金を渡された以上、育てないわけにはいかない。


もし見殺しにして、その事を知った貴族に睨まれたら?

腹を立てて、金ばかりでなく命まで取られたら?



そのような恐怖もありながら、衣食住を用意してくれただけでなく、文字の読み書きや簡単な計算など、教育まで施してくれたシスターたちに、修道院を閉鎖するから出ていけと言われても、感謝こそすれど恨んだことなど一度もない。

そこは、二人とも同じ意見だった。


かといって、その後の暮らしが楽だったかと聞かれたら、答えは否だ。

幼い子供だけで楽に暮らせるわけもなく、食べ物を店から盗もうとして見つかり、殺されかけたことも何度もあった。飢えに苦しみ、水と残飯だけで二週間ほど過ごしたこともあった。


そんな時を思えば、硬くても大きなパンで数日過ごすくらい、何てこともない。




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