33
「悪魔祓いを完成させるには……その悪魔の名前を口にする必要がある……っ!」
神父は息も絶え絶えに言った。
「バカめ、名前なんか教えるものか!」
桔音くんが更に風を強めると加枝留くんの「風速九十メートル!」という声が聞こえたような気がしたけど僕はもう現実逃避で聞かなかったことにした。
「名前なら……貴様の正体なら、目星は付いている! 悪魔『アイム』よ!」
その名を口にした瞬間、桔音くんは初めて挙動不審な様子を見せた。
眉を下げ不安そうに視線を右へ左へと彷徨わせている。
明らかにパニックになってるようだ。
逃げようとするように手首の鎖をガチャガチャ鳴らしてる。
そんな桔音くんの様子を見て、神父のオッサンは己の推測が確信へと変わっていくのを感じたようだった。
「やはりそうなのだな、悪魔『アイム』よ! イエスの名のもとに命ずる! その者の体から出て行くのだ!」
神父のオッサンは再び十字架を掲げながら悪魔の名前と共に再び長々と聖書のようなものを詠唱し始めた。
神に救いを求め、忠誠を示しつつ、要所要所に悪魔の名を口にする。
悪魔の名前を呼んだことによって木箱の吸い込む力が強まり、桔音くんはいよいよ追い詰められた。
桔音くんは負けじと最大限の魔力を引き出して更なる暴風を起こした。
神父のオッサンを吹き飛ばす為か、木箱に魂を吸い込まれないようにする為かは分からないけど、凄い力だ。
こんな風、見たことない。
加枝留くんが「風速百メートル!」って言ってるっ!
でも結界が張ってあるみたいに、この一帯だけが暴風の中にいるみたいで、宵々町には影響はないみたい。
どちらが吹き飛ばされるか、時間の問題かも知れない。
「ぐぉああああああああああああ! 主よ! 貴方様の忠実なる僕をどうか御守り下さい! そして悪魔を追い払う力を! 我に力をぉおおおおおおおおおーッ!」
叫びながら吹き飛ばされないように前のめりに体を傾けて、悪魔の力に立ち向かうかのように十字架を掲げる神父さんのオッサン。
逆風が強すぎて前後に開くように踏み止まってる足が段々爪先立ちになってる!
薄い髪が抜けて禿げそうなほど強い風で後ろに引っ張られてるニャ!
そして元々痩せ型で削げてた頬の肉が強風でビロビロに波打ってる!
けどそれより服が何かヤバいんだけど!
なんか、なんか、布が体に引っ掛かってるだけに見えるくらい今にも破れそうなんだけど!
とにかく風がヤバい! 段々強さが増していくし! 息苦しいし鼓膜が破れそう!
もう限界ニャーーーー!
「風速百十メートルーーーっ!」
ビリビリビリビリビリビリーーーッ!
加枝留くんの叫びと同時に、ついに恐れていた事態が!
風に耐えきれなくなった神父のオッサンの服が裂けて一瞬で飛んでいったのだ!
そう、一瞬で!
まるで瞬きしたくらいの一瞬で神父が全裸に変わっていたのだ。
しかも靴だけ履いてる!
「うわあああああああああああああああああああああーーーーーッ!」
悪夢の光景に僕は思わず叫んでしまった。
しかし、全てを曝け出す格好になっても、それでも神父のオッサンは怯むことなく十字架を握りしめ、詠唱を続けていた。
なんて言う強い集中力とメンタル! エクソシストって凄いニャ!