第19話:チームを動かす力:サーバントリーダーシップの実践
経理室の魔法帳簿は、複雑な計算式と膨大な数字で埋め尽くされていた。
人間族のセリアは、眉間に深い皺を寄せ、新しい経理システムの導入に苦戦していた。
書類の山と魔力計算機が彼女を囲むように置かれ、その顔には深い疲労の色が濃く、時折、小さな溜息が漏れる。
「この新しいシステム、どうしても上手くいきません。入力規則が複雑すぎて、既存の帳簿との連携も上手くいかない…。私がもっと優秀なら、こんなところでつまずかないのに…。」
セリアは独り言のように呟いた。
彼女の真面目な性格ゆえに、完璧にこなせない現状が、彼女自身を深く責めているようだった。
耕太が部屋に入ってきた。
セリアの苦悩に満ちた表情を見て、すぐに異変に気づいた。
「セリア、新しい経理システムの導入、大変そうだね。何か困っていることでもあるのかい?一人で抱え込まずに、僕に話してくれ。」
「耕太様!はい、このシステム、複雑で…。どうすればいいか、もうお手上げです。このままでは、ダンジョンの正確な収支管理に支障が出てしまいます…。」
セリアは、救いを求めるように耕太を見上げた。
耕太はセリアの様子をじっと見つめた。
彼女が抱える問題は、システムの技術的な側面だけでなく、彼女自身の自信の喪失にもあると直感した。彼は、セリアに直接解決策を与えるのではなく、彼女自身が乗り越える力をつけさせたいと考えた。
「セリア、僕が直接解決するんじゃなくて、君自身が乗り越える力をつけたいんだ。君ならできると信じている。メティス、どうすればいいんですか?部下を真に成長させるリーダーシップとは…?」
光の粒子が、耕太の視界の隅に集まり、メティスが姿を現した。
彼女の声は、耕太の問いに答えるかのように、静かに響き渡った。
「耕太よ、古き世界の智者は『真のリーダーは、仕える者なり』と語った。
お主が学ぶべきは、『サーバントリーダーシップ』だ 。」
「サーバントリーダーシップ?」
耕太は聞き返した。
リーダーとは、指示を出し、部下を率いる存在だと認識していたため、「仕える」という言葉に違和感を覚えた。
「うむ。部下を導くのではなく、彼らが能力を最大限に発揮できるよう、環境を整え、支援することだ 。
彼らの声に耳を傾け、彼らの成長を最優先に考え、彼らが自ら道を切り拓けるよう、背中を押してやるのだ。
お主は『仕える』ことで、彼らの真の力を引き出すことができる。それは、彼らの『自律性』と『自信』を育むことにも繋がる。」
メティスは魔力投影で、リーダーが背後から部下を支え、彼らが自らの力で大きな岩を動かすイメージを示した。
「なるほど、僕がサポート役になることで、みんながもっと強くなるんだ!
単に仕事を『任せる』のではなく、彼らの成長を『支援する』…それが真のリーダーシップか。」
耕太は、自身のリーダーシップのあり方を改めて考え直した。
「その通り。セリアが自力で答えを見つけられるよう、質問や環境整備を通じてサポートに徹するのだ。彼女が、自らの手で問題を解決したという『成功体験』こそが、彼女の成長を加速させる。」
経理室で、耕太はセリアの隣に座り、優しく語りかけた。魔力計算機が静かに稼働する音だけが、部屋に響いている。
「セリア、この新しいシステムで、一番難しいと感じているのはどの部分かな?どこで一番手が止まってしまう?」
セリアは少し考えて答えた。
「…データの入力規則が複雑なのと、既存の帳簿との連携が、どうしても上手くいきません。エラーばかり出てしまって…。」
「なるほど。では、その部分を解決するために、君が今できることは何だろう?
例えば、過去に似たようなシステムを導入した記録を探してみるとか、ギアさんに魔力計算機のカスタマイズについて相談してみるとか、関連する資料をもう一度読み込んでみるとか…。
君自身で、解決の糸口を探してみてほしいんだ。」
耕太の問いかけは、セリアに考える時間と、問題解決の選択肢を与えた。
彼は、セリアが集中できるよう、静かに見守り、必要なシステムマニュアルや過去の経理資料をさりげなく手渡した。
彼はただセリアの傍らに座り、彼女が自ら答えを見つけるための「空間」と「時間」を提供したのだ。
数時間後、セリアは、突然顔を上げて、明るい声で言った。
その顔には、疲労の影は消え失せ、達成感と自信が満ちていた。
「耕太様!分かりました!この連携部分、ギア様に相談して、魔力計算機をカスタマイズしてもらえば、もっとスムーズになるかもしれません!システムと帳簿の間に、ギア様の魔力技術で変換層を設けるんです!」
彼女の瞳は、希望に満ちて輝いていた。
「素晴らしいアイデアだ、セリア!君ならできると信じていたよ!すぐにギアさんに相談してみよう!」
耕太は心からの笑顔でセリアを褒めた。
彼の言葉は、セリアの自信をさらに確固たるものにした。
耕太は、部下の成長を支援する「サーバントリーダーシップ」を実践した。
それは、単に問題解決を手伝うのではなく、部下自身の能力と自律性を引き出し、彼らが「自分でできた」という達成感を味わうことで、真の成長を促すリーダーシップだった。
セリアは、自力で問題解決の糸口を見つけ、自信を深めることで、デッドエンド・ダンジョンの経理システムを飛躍的に向上させ、彼女自身もリーダーとしての自覚を育んでいったのだった。
ようこそ、新たなビジネスの舞台へ!
デッドエンド・ダンジョン経営者の山田耕太です。 僕が突然転移してきたこの異世界で、戸惑いながらも学んできた「世界の仕組み」や「常識」「ビジネススキル」について、みなさんに共有できれば幸いです!




