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うつりぎ  作者: 西季幽司
新作~明治維新編
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池田屋③

「よろしくお願いいたします」と沖田は手寧に頭を下げた。

 面白い若者だ。これから相手を抱こうというのに、他に言い方はないものか。

 荒唐無稽とも言える時尾の話にうさん臭さを感じ、もう二度とやって来ないと思っていた。だが、三日後、沖田総司は時尾の町屋にやって来た。

「遠慮は無用ですよ」

 時尾は立ったまま、するすると着物を脱いだ。沖田も時尾に相対したまま着物を脱ぎ捨てた。小柄だが、鍛え上げた良い体だ。

「失礼いたします」と沖田は時尾の豊かな乳房に手を触れると、一気に押し倒した。

 半時後、沖田となった平九郎の隣で、時尾となった沖田が寝息を立てていた。

 平九郎は着物を身に着けると、外に出た。

 体を動かしてみる。入れ替わった時の習慣だ。どう体が動くのか確かめなければならない。林まで歩いて訓練場で剣を振ってみた。

 動く、動く。思い通りに体が動く。駿馬に乗っているような感覚だった。

「時尾殿」

 気がつくと、背後に時尾がいた。「自分の姿を見るのは妙な感じです」

「その内、慣れ申す」

「なるほど。体を動かしてみるのですね」

「ええ。新しい体に慣れるのには時間がかかります。こうして体を動かして、どの程度、動くことが出来るのか確かめておかねばなりません」

「確かに、勝手が違いますな」と時尾が体を動かす。動作が男だ。「一手、お手合わせ、願えますか?」と時尾が木刀を手に取った。

「暫し時をおいた方がよろしかろう」と平九郎は言ったが、構わず時尾が討ち込んで来た。

 平九郎は木刀を一振りすると、時尾が討ち込んで来た木刀を弾き飛ばした。時尾が呆気に取られた顔をする。

「男と女では力が違います。今までのように討ち込んでいては、簡単に弾き返されてしまいます」

「ふうむ。体の使い方が違う訳ですね」

 時尾は木刀を拾い直すと、ひゅっ、ひゅっと素振りを始めた。


 沖田を訪ねて新選組の隊士がやって来た。

 沖田となった平九郎が相手をする。


――戦が近うございます。至急、屯所にお戻りくだされ。


 と隊士は言った。

「戦?」

 昨年、攘夷を声高に唱える過激公卿と長州勢は、会津と組んだ薩摩の排斥に遭い、京より追われた。これに激怒した長州藩の志士たちが大挙して京に迫っていると言うのだ。

 戦になるだろう。

 新選組も当然、会津藩の下知のもと、長州勢と戦うことになる。

「分かり申した。明日、戻ると近藤さんにお伝えください」

 平九郎はそう答えた。

 その夜、平九郎は時尾に言った。「久しぶりに戦に出てみとうござる。このまま、沖田総司として参戦する訳には参らぬであろうか? 決して、お主の名を汚すような卑怯な振舞はしないと約束しよう」

「あなたが戦に及んで尻込みするとは思えませぬが、私も戦に出てみとうございます。体をお返しくだされ」

「左様か――」

 平九郎は名残惜しそうな顔をした。

「お陰様で、剣の腕が上がったような気がいたします」

 二人が入れ替わり、稽古を始めてひと月が過ぎようとしていた。

「お主に剣で勝てるものなど、先ず、いないでしょう」

「あなたなら?」

「私? そうですね。この体であれば、負けはしないでしょう」

「はは」と時尾が笑った。

「ひとつ、忠告がござる」と平九郎。

「何でしょう?」

「この体、あなたの体は時に胸が苦しくなる時があります。私は町医であったことがあります。早々に診てもらった方がよろしい」

「分かりました」と時尾が頷く。

「さて」と二人は顔を見合わせると、「名残惜しゅうございます」と抱き合った。


 翌日、沖田総司は新選組の屯所へ戻って行った。

 京に押し寄せた長州勢は会津と薩摩の兵と激突、激戦を繰り広げたが、行く手を阻まれ、敗北し、朝敵となった。

 沖田たち新選組も戦に参戦したが、目だった働きをすることは出来なかった。

 剣で無敵となった沖田であったが、この頃には病魔に犯されていたようだ。程なく喀血し、病床に伏せることになる。

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