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第65話 文芸部の有坂先輩

「問題はそこにお前が呼ばれた理由だ。どうもその時に宍倉さんだっけ、が排除されたんだろう?」


「いや、確かにその場にあやねる…、宍倉さんはいなかったが。」


「ああ、もう、言い直さなくていいぞ、西村もいないからな。その可愛い系宍倉さんを光人はあやねるって呼んでるなら、それでいい。」


「ああ、ま、うん、じゃあそうさせてもらう。」


「で?」


「いやあ、まあ、排除って訳ではないんだけどさ。」


「西村はそう言ってたぞ。廊下で、他の男子、たぶんその須藤君とやらだろうが、とその背の高い女子?とで、宍倉さんを連れて来ない様にって言われてたって。」


 確かに智ちゃんの席は廊下側だったと思うが…。

 バッチリ聞かれてたか、はア~。


「宍倉さんを遠ざけてるれていくって最初に聞いたときには、その日向さんかな、その背の高い女子。その子がお前に惚れてるって思ったけど、どうも西村の話し方からはそうは取れなかったんだよな。だから、本当に何があったか、興味あんだよ。」


「日向さんにはそんな気がないと思うよ。どうも誰かに頼まれた感じがしたけど。ただ日向さんの作品に興味あったからついていったみたいな…。」


「ふむ。で、その文芸部に先輩が二人いた、っと。」


 ちょっと考え込むようにする慎吾。


「その二人の先輩、大塚さんと有坂さんだよね。」


 静海も何か考えている感じだ。


 で、何か思いついた顔で俺を見た。


「その二人、高校の文芸部だよね、確か。」


「うん、文芸部、だけど…。」


「去年、高校の文化祭で騒動あったよね?その時ギャルっぽい人が先輩たちをたたき出したって噂があったんだけど…。お兄ちゃん知ってる?」


「ああ。それこそさっきから出てきてる文芸部の須藤から聞いた。マジでビビったよ、あのギャル先輩。」


「ギャル先輩?」


「ああ、ごめん。まるっきりギャルって訳じゃないけど、そんな感じだったからつい、そう呼んじゃってるんだけど。今の副部長の有坂さんがその人だ。」


「やっぱり本当だったんだ。なんかぶちぎれた鬼のような1年生ギャルが、2年生の大人しい女子を袋叩きして、追い出したって。お兄ちゃん、もしかしたらそんな怖い人に何かしたの?その話聞いてたら、甘い話が吹き飛んだんですけど。」


 さすがに噂は凄い。

 ものの見事に尾ひれがついてる。


「追い出したのは事実らしいけど、さすがにそこまでの暴行はしてないと思うよ。本当ならもうこの高校にはいないと思うし。ただ、殴ったのは事実らしい。そのことでいろいろ事情を話したって言ってた。」


 残っていた麦茶を飲み干す。


 外部受験者の自分が聞くことはなかったけど、付属の中学まで噂が広がるほどではあるわけだ。

 内部進学組にしてみれば、逆に文芸部の悪評はあるのかもしれない。


 と、考えて、部活動紹介の時の有坂先輩のアクティブな活動を思い出した。これはおそらく、あのギャル先輩の真面目さ、一途さを他の部も理解してるってことだよな、きっと。


 なんかよく俺を目の敵にしてきてたような気がしてたけど、あれは「女泣かせのクズ野郎」っていう噂の所為だな、きっと。

 そうだと思いたい。

 個人的にあの先輩に、俺、何もしてないし…。


「叩き出したのは間違いないのか、その先輩。しかも1年の時にか。凄い豪傑だな。」


 慎吾が俺と静海の会話にそう言って感想を漏らした。


「ただ、今の話からだと、なんでその先輩たちを叩き出すことになったかが、わからん。仲は悪いことは想像できるが…。」


「俺も聞いた話だけどな。その追い出された当時の2年生たちは、静海の言ってた大人しい感じではなかったらしい。いわゆるちゃんとした部員じゃなかった。」


「不良部員ってことか。それとも幽霊部員か?文系の部活ではよく聞くけど。」


「3年には確かに幽霊部員がいたのは事実だって。そんなに活況な部活じゃないからな、文芸部なんて。最低5人は部員がいないと廃部らしいし。でも、真面目に部活をやっている3年生もいて、文化祭に発表をメインで頑張ってたらしい。でも、その2年生たちは部室に来てだべってるだけ。最低限のこともしなくて…。幽霊部員として一切顔を出さなければいいものを、部室に来て、さらに真面目に文化祭の準備をしていた先輩たちの邪魔までしてたらしい。」


「で、そのギャルっぽい先輩はそれが我慢できなかったって訳だ。」


「そんなとこらしいぞ。」


 そう言うと、慎吾は「すごい人だな」と感心した。


 俺の言葉に静海も納得したような表情を作った。


「それだけ正義感のある人だとすると、お兄ちゃんを呼び出した意味が知りたいな。ねえ、お兄ちゃん。その有坂さんだっけ?美人?」


 さっきまで少し怖がっていた静海が急にそんなことを聞いてきた。


「美人、なのかな。整った顔立ちだけど、薄いけどギャルメイクっぽい化粧してるし、制服もそれっぽく着崩してるし…。校則ぎりぎりって感じ?特進クラスだから大目に見られてる雰囲気はあるな。ただなあ、俺と話するときは、なんかいつも怒ってるっぽいんだよね。」


「怒ってる?」


「うん。いつも顔を紅潮して怒ってる感じ?なんでだかよく解らん。まあ、ギャル先輩に呼び出されたって訳じゃないから、何か俺がしたわけではないと思うんだが…。」


 そう言った時に、なんか困ったような顔をした慎吾に、静海が怖い顔で静海が頷いていた。


「もう一度聞くけど、何で光人は文芸部に行ったんだ?」


 慎吾が聞いてきた。その声に呼応するかのように静海が眉根を寄せて俺を見る。


「えっ、だから、文芸部の須藤に呼ばれて…。おかしいか?日向さんの作品を見せてもらうのに文芸部の部室を使わせてもらったんだけど。」


「確認だけど。日向さんってイラストレーターなのに、文芸部なのか?」


「いや、日向さんはまだ部には入ってないって言ってた。」


「やっぱり、そこで文芸部に行くってのがよく理解できん。日向さんはその須藤君と付き合ってたりする?」


 全く思いもしなかった質問に、一瞬絶句した。

 この二人を知っている人からすれば、そんな質問は出てこないが、全く知らない慎吾からするとそういう関係でもないと文芸部に俺が行くことが理解できないという事らしい。


「その二人に、今の所はそんな雰囲気はないな。まあ、でも須藤の小説は面白いって日向さんが言ってたし、日向さんのイラストは須藤はリスペクトしてるから将来的にはどうなるか分からんけど。」


 さて、この二人に日向さんと有坂先輩の関係を言っていいものかどうか?

 とりあえず、智ちゃんは帰ってるから問題ないかな。


「智ちゃんには黙っておいて欲しんだけど、同級生の日向さんと2年生の有坂先輩が、実は小学校で同級生だったんだよ。」


「「えっ?」」


 俺の言ったことが理解できなかったらしい。

 それはそうだろう。

 高校で学年違うのに、小学校で同級生って言われても…。


「細かい事情は省くけど、日向さんは俺達より一つ年上なんだ。だからギャル先輩と友人で、文芸部の部室で作品の公開になった。」


「まあ、高校は義務教育じゃないからな。そういう事もありか。で、基本的にそのことは内緒ってことで、西村にも知られないほうがいい。よし、それは了解した。」


 慎吾はそう言って、また静海を見た。

 静海が慎吾にかなり嫌悪感をみなぎらせた表情で頷いている。

 この二人は言葉を使わずに会話ができるのか?


「整理しよう。須藤君は文芸部部員。日向さんは文芸部副部長の有坂先輩と友人。その須藤君と日向さんから、理由はどうあれ文芸部の部室に連れていかれた。宍倉さんと切り離されて。で、部室に行ったら、有坂先輩が赤い顔をして待っていた。間違ってないよな?」


「まあ、そんなとこだな。なんかいろいろ省略されてるような気がするけど。」


 俺の言葉に慎吾と静海が同時にため息をついた。


「結構光人は人の機微に敏感かと思っていたんだが、この事に関しては鈍感を貫いてるな。」


「ホント。陰キャって常に人の機嫌伺ってびくびくしてるもんだと思ってたけど、ね。」


「何のことだ?」


「省略したのは、話の本筋だけに単純化した方が分かりやすいからだよ。今回のことでまず勘違いを訂正しておこうか。そのギャルの先輩は怒ってて顔が赤かったわけではない。で、その先輩は須藤君と日向さんに協力をしてもらって、部室に宍倉さんなしで光人を連れてきてもらった。これがたぶん正解。特に光人の話からすると、須藤君、ちょっとキョドってなかったか?」


「うん。そう言えばそうだったな。いや、ちょっと待て。今、慎吾が言った事って…。」


 何も言わずに頷いた。

 静海が何故か怒ったように俺を見ている。


「光人、お前、高校は言ってかわっちまったな。」


 なんだ、そのセリフ。


「ホントだよ、お兄ちゃん!なんでそんなにモテモテになっちゃうかなあ。」


「つまり、ギャル先輩は、俺に惚れてる、と。」


 二人が頷いた。


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