第66話 イケメン慎吾
「いや、いや、ちょっと待ってくれ!あの人に会ってから、そんなに日はたってない!というか惚れられることなんて何もしてないぞ!」
「それに関しては俺に言われても知らん。光人の今日会ったことを聞いていて思ったことだ。これは静海ちゃんも同意している。」
静海が、うんうんと頷いている。
「つい最近まで陰キャなんて呼ばれていたお兄ちゃんとは思えないよ。」
「そんなことを俺に言われても…。」
「そりゃあ、さ、お父さんが亡くなってから、いろんなことをやってくれて感謝してるし、格好いいとは思うけど、さ。」
「ああ、それは、その、…うん、ありがとう。」
とりあえず礼だけは言っておく。
(親父は知って…いたようだな、なんか言ってたし)
(うん、まあな。あれだけあからさまだとさすがにな)
(まったく気づきませんでした。というか、俺のことを嫌っていたのでは?)
(最初は「女泣かせのクズ野郎」という噂が先行したからな。日向さんとの関わりも大きいんじゃないか。と言っても想像にすぎんが…)
俺が脳内の親父と会話していると、慎吾がじーっと俺を見ていることに気付いた。
「俺の顔、やっぱり変か?」
あまりにもイケメンに見つめられたので、変な扉を開けそうになってしまう。
というか、俺が数秒、親父との会話に気を取られていたせいで、何か気付いたのか心配になった。
「いや、何と言うか、確かにいい男の面構えになってきてるよな、光人。」
慎吾に俺の顔が褒められている?
「何か、おかしいか俺?」
「おかしいというか、以前から思っていたんだが、二戸との関係の前にはそこそこ顔が整っているとは思っていたんだが…。一連の事件のあと半分引きこもりみたいんあってよな。」
「う~ん、まあね。妹にもゴキブリ以下の扱いだったし…。」
「それは悪いと思ってるよ、お兄ちゃん!ごめんなさい!」
「それは、もう謝ってもらったから、いいんだけど、さ。」
「その時って、運動もせずに、さらに卑屈にもなっていたから、肉ついて、髪もボサボサ、顔の色もよくない、肌もボロボロって言う、ちょっと近寄りがたい雰囲気に変わってたのは、自覚してるか?」
確かにあの当時の俺は慎吾の言う通りで、反論のしようがないけど…。
正論という名の刀で続けざまに俺を滅多切りにはしないで欲しい!
「自覚はしてた。でも、やる気は起きなかった。でも中3の2学期くらいから高校はまともにいかないとなと、親父からも言われて、人のも会いたくなかったし、勉強を始めたって感じだった。ただ見てくれをどうこうとはしてなかったけど…。」
とはいっても、勉強に体力は必要と思って、夜に軽くジョギングはしてた。
最初のうちはすぐ息が上がってたけど。
「そうだな。今年に入って、少しすっきりとした面持ちにはなってたから。でも、今はかなりいい男になってんだよな。」
「そう、なんだよね。お兄ちゃん、お父さんが亡くなってからはいつ寝てるのかわかんないくらい、いろんなところに出かけてた。学生服で行ってたこともあったけど、お父さんのスーツかなんか着てたこともあった。」
(俺の知らないとこで、勝手に俺の体使ってたんだよな、親父)
(まあまあ、光人。でも、俺のスーツがやけにちゃんと着れてびっくりしたよ。本当に大きくなったんだなって思ったよ)
「今なら、ちょっとした女ならコロッて騙せそうだ。」
「騙す気なんかないよ!」
思わぬ言葉に大袈裟に否定してしまった。
「光人の高校生活って、荒れそうだな。さっさと俺みたいに特定の恋人作った方が、いいと思うぞ。」
「そりゃあ、好きな人が出来たら…。」
そう言ったところで、言葉が途切れた。
好きな人。
宍倉彩音。
そして、…。
いかん、変な考えが俺の頭を横切ってしまった。
「絶対今、お兄ちゃん、宍倉さんの事、想ってたでしょう?」
鋭い妹の口撃に、何も言い返せない。
あやねるは確かに好きな女の子。
なのに、もう一人思い浮かんでしまった女の子が…。
「あんまり責めてくれるな、静海ちゃん。もし気になる人が出来ているなら、それはやっと二戸詩瑠玖の呪縛から解放されるための第一歩を、踏み出したってことだからさ。」
「そうかもしんないですけど…。」
明らかに不服そうな静海だった。
「まだ、よくわからないよ。好きという感情はあるけど、それが恋愛感情かって聞かれるとな。」
「その言い方、少し引っ掛かるな。うん、まあいいさ。だが、さっきも言ったけど、このままだと、二戸とは違う種類の恋愛事情に巻き込まれるかもしれないからな。この忠告は聞いとけよ。」
「ああ、経験者の忠告だったな。肝に銘じておくよ。」
フッという感じの笑みを慎吾が浮かべた。
これだけのイケメンだ。
榎並虹心に落ち着く前の波乱は、俺が半引きこもり状態でも耳には届いてる。
そして智ちゃんがこの件を解決するのに、動いていたのも知っていた。
「それって、どういうことですか、慎吾先輩!」
違う中学の静海が知らないのも当然だが、詳しく教える気はない。
「そのうちに、ね。」
慎吾がイケメンスマイルを静海に向かって放った。




