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日の出で続く異世界流転  作者: 花見&蜥蜴
第四章「輦制し編」
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第四章׳ט:夜の蹂躙

「貴方って、鵺ですか?」


 ………………。

 …………。

 ……。


「へ?」


 俺は、箸を落とす。

 箸は転がり、囲炉裏の灰の中へ。

 そして思うのだ。また「鵺」か……って。

 初日以外は、いつもこの単語が出てきた。もう嫌になる程、鵺鵺鵺と。

 あれ? 昨日ってあったっけ?? 少し疑問が浮かぶ。

 まあそんな疑問も、刹那にして消えるのだった。

 なぜならその次の瞬間、俺の目に映ったのは……。


 赤い液体と、白い肌に包まれた人間の肉。


 すぐに分かった。なぜなら、その時俺は彼女を見ていたから。

 そう。その彼女とは。


「ミシュリーヌ!!」


 ロランが彼女の名前を呼ぶ。

 そんな声に全く反応せず、ミシュリーヌは血を吐き、横に倒れた。


 そしてミシュリーヌに駆け寄ろうとする俺の頬を掠って、今度は矢が飛んでくる。

 飛んでくる方向からして間違いない。玄関に、誰かがいる。


「ミシュ……」


 ロランは彼女の名を呼び続ける。

 見ると彼女の緑色の目からは既に命の灯が消えていた。


 ――即死。正しくそれが、俺の頭の中を真っ白にする。

 俺は、飛び散った血痕を見つめて頭を動かなくしてしまった。


「ルイ、ルイ!!」


 ロランが俺を呼ぶ。


「ルイ!!!!!」


 その一言で、やっと俺は気が付いた。

 ふと周りを見やる。

 周りも、皆が動揺しているのが伝わる。

 何が起きているのか、皆把握できていないのだ。

 でもそんな中、ロランだけは察していた。

 何が、起こったのかを。


「僕が暫く敵を足止めするから、お前らは逃げてくれ」


 大丈夫、三十分はもつ。

 ロランは真剣な目つきで、俺を睨みながら言った。


「グレゴワールも、頼んだぞ」


 最後にロランはその一言を発し、皆に下がれと合図を出した。

 グレゴワールも混乱から解放され、俺に合図を出してくる。

 『アニー ヲ 頼ンダ』と。


「ミシュ、御免」


 そんな中、ロランが動かない緑色の少女に言った言葉を、俺は見逃さなかった。

 ロランは、自分を責めているのだろうか。

 防御を担当する身でありながら、守れなかったことを。

 もしそうなら、俺はロランに何か言葉を掛けなければいけないかもしれない。

 先程まで鵺かどうか疑われていたことも忘れて俺は、何か言葉を掛けようとする。

 だが、無理だった。俺には出来なかった。


「アニーを、頼んだ」


 一方グレゴワールの声が届いてくる。

 承知した。俺は静かにそう言った。


ー - - - - - -


 そんな中、玄関から敵が現れる。

 皆はそこに注目する。

 そこにいたのは紅マントに黒甲冑、黒い角と、大分魔王チックな格好の青年。そう。


「アンリは倒したんじゃなかったのかよ…………」


 俺は、驚いていた。

 正しく、アンリだったのだ。

 ロランは俺の問いかけに答える。


「知らない。だけど取り敢えず、この場は僕に任せて欲しい。グレゴワールは西へ、ルイは玄関と逆方向の入口から逃げてくれ。頼む」


 仇討ち、だろうか。

 とにかくロランのその背中は、どうも頼もしく見えた。


「今朝はよくも俺を倒してくれたなぁ。そのお陰で久しぶりに今俺は怒っている。だが、安心しろ? 全員即死させてやるから」


 もう片方のアンリも、不敵な笑いを見せて言葉を放っていた。

 それを見ると、誰でも魔王と彼を呼ぶだろう。

 そんな風な感想が湧く。


「今だ、行け!!」


 そしてロランの合図で、俺はアニーの手を捕まえて引っ張るように裏口を出ようとする。

 でも、そのアニーの体が動かない。


「おい、どうした。アニー!」

「……嫌だ、嫌だよ。逃げたくない!!」


「それでもロランがそう言うんだ。逃げるしかねえだろ!!」


 そうだ、ロランが逃げろと言うのだ。止めを自分に任せて欲しいと言うのではなく、逃げろと。

 これが示すのは、一つしかない。


 勝ち目がない。ロランは俺たちに、それを示している。

 このままじゃ皆死ぬ、それを示して。


「それでも……!」

「早く行けッッ」


 次にアニーに叫んだのは、ロランだった。

 ロランを見る。黄色い物体が次々とロランの周りに生成され、アンリはそれらを避けながらロランに迫っている。

 つまり……もう既に戦闘を始めていた。ロランは俺たちに向けたアンリの攻撃も食い止めてくれているのだ。

 やっぱり、劣勢に見えた。それでも、俺たちを逃がすためにしんがりをしてくれているんだ。


「アニー。早く!」

「……でも、でも」


 もう、こうなったら!!

 俺は苛つきやら何やらを覚えながらアニーを抱き寄せて、自分ごと裏口からアニーを出した。

 案外、アニーの力は弱かった。


「ちょっと待って。ルイちゃん、やめて。やめてよ」

「おい!! アニー」


 いい加減諦めが悪すぎる。

 それでもあるアニーの抵抗に、俺はスピードが出ない。

 嫌気がさした俺は、アニーの体を放そうとした。


 ――バンッ!


 しかし次の瞬間、人が飛ばされて裏口の近くに置かれていた樽にぶつかった音がした。

 いや実際、それが起きていた。


「ロラン……?」


 俺は樽に飛ばされた彼を呼ぶ。

 返事がない。そして妙な液体が辺りに広がっていくのが不意に見えた。

 まさか……。


「え、何ちゃん?」


 俺は咄嗟に確認しようとするアニーを抱き上げる。

 そして自分の両腕の上に彼女を乗せ、猛ダッシュで夜の山道を走り抜けていた。


 ……もう頭を空っぽにしている暇はない。

 出来るだけ、その事を考えないように走らねばならない。

 だが、そう。そうだ。


 ロランが死んだ。

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