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日の出で続く異世界流転  作者: 花見&蜥蜴
第二章「劾無し編」
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第二章׳ג:チャイム

 チャイムが、鳴り響く。

 授業が始まるチャイムだろうか。いや、違う。

 同じクラスらしい、ミシュリーヌが慌てていない。つまりこれは、十五分の鐘のようなものだろう。

 まあでも、もしこの鐘までに教室に入らなければいけないということであってもいい。もう校舎内に入ったからだ。


「ルイ。教室に入るのは、そっちが先にね」


 ミシュリーヌは唐突にそう言ってきた。

 俺は戸惑う。と、ミシュリーヌは続ける。


「惚ける気? 彼女さんに悪いじゃない」


 彼女……そうか、この世界では俺は彼女が出来ているのか。

 意外な展開に少し驚く。

 俺が……俺がねえ。

 というか、まだ信じられなかった。


「まあとにかく! 私は数分経ったら行くから!」


 ミシュリーヌが俺を押す。

 仕方がない。行くしかないか。

 俺は一人で、階段を上る。

 確かクラスは……。


 あ。


 ここで俺は気付く。

 クラス……どこだ?


「ってやべえ。どうやって確認しようか」


 俺は学校の教材が入った鞄の中を弄る。

 一昨日に俺がコンビニに持って行ったあのビニール袋、筆箱に弁当、そして教材。

 ざっとこんな感じのものが入っていた。

 っていうかこのビニール袋……何であるんだ?

 俺はそれをまずは取り出して、あたりめを咥える。

 あ~~。やっぱり良いわ。

 俺はそう思いながら確認する方法を考えた。


 ――閃いた!


 そうか、教材に名前が書かれているはずだ。学年、クラスと共に!

 手当たり次第の教材の名前を確認していく。

 えっと、学年の内容はと。


 ……一年のみ。

 一年のみ。

 一年のみ。

 一年のみ。


 って何で全部クラス書いてないんだよ!!

 俺はこの世界の自分に怒る。

 まあそりゃそうだよな。クラス発表前に教材貰えるんだし。

 俺の性格からして教材を貰った日しか、教材の名前を書く作業を行わないのだろう。

 ……やめてくれ。


 そう呆れていると、次に引き出した教材には、こう書かれていた。


『一年二組 二年』


 ……何だろうこれ。

 先に二年の分も書いてみました、って感じか?

 とにかく俺は立ち上がって、一年二組に向かう。

 場所は、普通に地図で確認できた。


「へえ、地図の場所は知っているんですね」


 ここで後ろに声。

 俺の背筋は凍る。


「……。誰だ?」


 恐る恐る振り返る。

 するとその呼びかけた主は、見慣れない女性だった。

 学年は、同じだろうか。

 黒の長髪の三つ編み、この学校の制服、そして眼鏡。

 ざっとこんな特徴である。


「いやですね~~。私ですよ、先輩」


 そう言われても分からないんだが。

 俺は戸惑いを隠せない。

 まあ、名前……名前……相手の名前が確認できる印は……。

 と、探すが見つかるわけが無かった。


「ふふ。そうですね、そうでした。貴方は記憶というか、何かがないんでしょう」


 ……。

 ドキッとした。

 動いてもないのに、心拍数が上昇する。


「いやだって、さっきからキョロキョロしまくりじゃないですか、先輩。頭でも打ったんですか?」


 そんな目立っていただろうか。

 いや、目立つわけがない。

 普通の、忘れ物がないか確認するような生徒を振る舞っていたはずだったから。


「私の観察眼を甘く見ないで下さいよ」


 と、いうか。

 ――先輩?

 あれ? 俺って一年じゃ。


「二年一組の、ルイ先輩」


 ……。

 それが俺のクラス、か?

 嘘はついてないだろうな。

 俺は彼女を疑った。


「そう疑うような目をしないで下さいよ。私が言っているのは本当です。さあ、行きなさい」


 第一印象が悪かったから、つい彼女が妖しく見えたのだろうか。

 本当は、優しい人なのだろうか。

 俺は少し警戒心を解くことにする。


「警戒心を少し解いてくれましたね、有り難う御座います」


 彼女は微笑む。

 確かに、彼女は悪い人じゃないのかもしれない。

 だが一つだけ言わせてくれ。


 彼女は察しが良すぎる。


 俺の表情だけで、地の文を分析してしまうのだ。


「それじゃ、また会いましょう? SE☆N☆PA☆I」


 そうやって彼女は去って行く。

 ……最後の☆に関しては意味不明であったが、俺は取り敢えず。彼女に貸しを作ったのだった。

 というか、名前を訊くの忘れたな。

 俺は溜息をつく。


「まあ、また会うことがあったら訊くか」


 俺は最後に独り言を漏らして、二年一組に向かった。

 その時にはもう、この会話から浮かぶはずだった一つの謎を、俺は忘れてしまっていた。


 ー ー ー ー ー


 ――二年一組。

 校舎の一番端の教室。


「おはよー」


 小さく俺は入りながら呟く。

 間違えてはいないか、まだ俺の頭にはその恐怖心があったが、それを押し殺しての言葉だった。

 しかし、ミシュリーヌはこの教室にいる。これは間違えていない。

 俺は一先ずホッと息をつく。

 すると……。


「おっはよーーちゃん、ダ~~リンちゃん!!!!!」


 そのような音声を出す懐かしい不審な物体が飛んでくる。

 そしてその物体は、俺に抱きつく。

 そう、一昨日のあの感覚だ。

 つまり彼女は……。


「アニー!! 急に抱きつくな!!」


「いいでしょ~~。彼氏彼女の関係なんだからさ~~」


 はいそうですかこいつが彼女ですか。

 リア充になってもリア充と思えないようなこいつが彼女ですか。

 俺は嘆息をついてしまう。

 何か、もう少し期待していたんだがな。そう思ったのだ。

 もう少し、彼女らしい彼女が欲しかった。


「う~~ん、そうだな~~。どうしたの? ルイちゃん。昨日何かあった??」


 急にアニーが俺に抱きつきながら話しかけてくる。

 何かって、お前こそ何かあったのか! と言いたくなる。

 が、アニーはこれじゃ正常運転なのだ。


「……」


 あれ? 待てよ。

 何か違和感感じないか?

 アニーがクラスメイトである、違和感。

 ……。

 !!


「お前って高二だったの!?」


 そうだ、それだ。

 何でお前ここにいるんだよ。しかも制服着て。

 そう思ったのだ。


「ちょっと! 喪失のにっダーリンルイちゃん!! いくら小さいからって今更それでからかわないで!!」


 アニーは、当たり前のように俺を叱る。

 いやマジか。本当に四つか三つ下だと思っていた。

 俺はただ驚くしか出来ない。

 それと同時に、チャイムが鳴った。

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