俺の高校には幽霊さんがいた
「……マコ君、あなたの性別は……?」
そう、母さんに聞かれた。
しんしんと雪が積もり、窓が寒さで白くなっている。エアコンが十分に効いたこの暖かい教室で担任との三者面談を送っていたのだった。
「森野、お前が言っていることは正しいが、偽ってまでその学校を受ける必要はないと思うが」
「そうよ、マコ君。なにもお金が足りないからって……」
担任のその言葉に母さんも頷いて俺の横顔を見つめた。
「せんせ、母さん。うちは貧乏なんだ。ろくに制服も買えない、体操服は一着……、朝食は一週間にいっぺん。そんな俺がいける高校はここしかないと思う。俺は男だ、女じゃない、男としてこれから生きるんだっ」
俺は、ボロボロになってあちこちに開いた制服を握りしめながら汗ばんだ顔を上げた。
「マコ君……」
ぐすんっと親孝行な子供を見つめながら担任に頷いてそうしてくださいと言った――
「マコー、今日から学校でしょ、頑張ってね」
桜が散る中、ボロボロの古い家から母さんが顔を出して言った。
自分の娘を男の姿で高校に出させる気持ちは半端じゃなく、落ち着かないだろう。だけど、母さんは頑張ってねと一言、言っただけで、笑って見送ってくれた。
俺は森野真心、高校一年生。中学まで女として生活していたが、これからは男だ、男。
県内で一番安く、なぜか他の高校よりも受ける人数が少ない。その理由は、その高校が特別な理由がない限り女を受け入れないこと、しかも県内一、頭が良くてなぜか評判の悪い高校だ。なぜ評判が悪いのかは分からない、不思議な高校でもある。
そんな高校に偽ってなんとか合格できた俺は、早めに学校に着き、教室の割り当てを見ていると、教室の多さに驚いていた。なんで今年50人しか受けてないのに、こんなに教室が20もあるんだよ!
しかも人間科、幽霊科、妖怪科、エルフ科……ってなんだよ……。
「と、とりあえず……森野真心……森野……」
よくわからないことは置いておいて、自分の名前をまずは探すことに専念していた。
「森野真心?それなら人間科のA組だよ」
「え、ああ……ありがとございま……。うぇえっ!?ゆ、幽霊!?」
探していると、親切にも教えてくれたどなたかにお礼を言おうと、そちらを向くと、光に透けて透明な人がいた。
「やだな、人を化け物みたいに扱って。森野君、この高校なんだから僕みたいな人いて当然じゃん?」
ぷすっとその幽霊さんは、頬を膨らませると、そういった。
いやいや、全然、当然じゃないし、普通じゃない!どう考えても見えること自体、おかしいって!
「当然って君ね!ここは人間界。冥府じゃないよ、わかる??」
そうだそうだ。ここは人間界。幽霊なんかいるところじゃないんだ。
「……うん、わかるよ。でも僕達だって高校で学びたいしぃ。あ、チャイムなるや、バイバイおかしな森野君」
学びたいじゃねーわ。早く成仏しろ。おかしいのはお前たちだ。
「なんなんだ……この高校は……」
そうつぶやきながらさっきの幽霊さんも言ったようにチャイムが鳴るところまで時間が経っていたので、先ほど教えてもらった教室に向かった――