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薄幸少女はジョウシキを疑わない  作者: 木に生る猫
第一章

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12/12

忘れることはできないこと

 少しして、エクスとともに街に入ったシーナは、現在街にある光明戦団の拠点に居た。

 そして、その応接室にて、シーナは複数人の大人に囲まれている。

 急に見学をしたいだなんて言い出したシーナを警戒して――というわけもなく、ただ純粋に、まだ幼いシーナのことを心配する大人が複数人居ただけである。


 シーナのことを囲む大人の一人、綺麗な女性がフード越しにその頭を撫で、柔らかい声で言う。


「シーナちゃん、人見知りしているんですか? フード……外さないと、お菓子を食べれませんよ」

「ぇ……お菓子っ? 甘いですかっ?」

「ええ、甘いお菓子です。あったかいお茶もありますよ」

「わああ……!!」


 シーナは従順な子である。

 だから、フィフラティエの指示にはきちんと従うし、逆らったりすることは無い。


「甘くておいしいです! すごいっ、なんて言うお菓子なんですか!?」


 だから、頭の奥から、『シーナ?』なんて少しの怒りの籠もった声が聞こえたのも、たぶん気のせいだ。

 だって、シーナはフィフラティエの命令にちゃんと従えるいい子だから。

 フードをあまり人前で外すな、なんて言われたのも、たぶんきっと気のせいに違いない。


「……、……?」


 どんな名前のお菓子か聞いたのに、返事が来なくてシーナは不思議そうに顔を上げた。

 純白の瞳が自分のことを見つめる大人たちを捉えて、不思議そうに丸くなる。

 新雪のような色の髪は軽く揺れて、神秘的な容姿が、少しだけ不安そうに歪んだ。


「……あ、あのっ……私、何か……してしまいましたか……?」

「……あ、ああ、いや……そういうわけじゃないんだ。ただ……珍しい髪の色と、瞳の色をしているんだね」

「……えへへ。よく、綺麗だって言われるんですっ」


 美術品のようで、ともフィフラティエには言われているが、シーナはよくわかっていないので、笑顔で嬉しそうに自分の髪に触れた。

 よくわからないが、綺麗というのは褒め言葉だから、悪い意味ではない。

 そんな思考から、シーナはフィフラティエにとって好都合な発言をして、無自覚に多少存在している疑念を払った。


「本当に綺麗ですね。ご両親からの遺伝……なのでしょうか。このような容姿をした人物がいるとは、聞いたことがありませんが……」

「……あ……」


 両親、という言葉を聞いて、シーナはそっと自分の身体を抱き締めた。

 その言葉の意味は、ちゃんと知っている。

 フィフラティエは親ではなくて、あの場所から救い出してくれた人――日は浅いが、育ての親と言うべき人で、生みの親ではない。

 そう、シーナの、生みの親は――


「……っ」


 じく、と未だフィフラティエの影に補強されている骨が痛んだ気がした。

 あの時、ずっと目隠しをされていたから、シーナには何も見えていなかった。

 だけど、だからこそ、あの痛みと、あの怒声だけは、思い出さないようにしていても忘れることはできなくて、シーナは俯いて唇を噛む。

 フィフラティエはあの件について、滅多に言及しない。

 定期的に治療のために骨の具合を確認するくらいで、両親についても、何も話さないのだ。

 だからこそ、シーナはその言葉に過剰な反応をしてしまった。


「落ち着いて、大丈夫だ。お嬢さん……シーナさん、深呼吸はできそうかい? ゆっくり、呼吸を整えて……」


 シーナの異変に最初に気付いたのは、エクスだった。

 彼はそっとシーナの背中に手を添えると、ゆっくりと背中を擦りながら穏やかな声でシーナを落ち着かせようと試みる。

 だが、シーナはふるふると首を横に振って、そっとエクスの手から離れた。


「……すみ、ません……大丈夫です。……離れてしまって、ごめんなさい……ただ、今は……誰にも……触られたくなくて」

「いや、いいんだ。こちらこそ、無遠慮にすまない。その……何か……手伝えることはあるかい?」

「いいえ。……いいえ……もう、私は……」


 あそこに戻ることはない、とは口にしなかった。

 たくさん、たくさん本を読んで、シーナは思い知ったのだ。

 あんな環境、尋常ではない。

 今生きているのが不思議なくらいには、あそこは劣悪な環境で、異常な扱いを受けていたのだと。

 だから、あんなものは、簡単に口に出して説明してはいけないのだ。


「……大丈夫です。解決、したので」


 シーナはそれだけ言って、自分の顔を隠すようにフードを被った。

 フィフラティエに着せられたそれは、纏っているととても安心できる。

 彼だけが、フィフラティエだけが、シーナの心の拠り所なのだ。


「シーナちゃん、もしかして、ご両親と――」

「やめなさい、そう簡単に深入りできる話ではないだろう。……シーナさん、もし良ければ……気分転換も兼ねて、周囲を歩いてみるかい? この拠点の中でもいい。案内するよ」

「……、……エクスさん、が? でも、凄い人だそうですし……やっぱり、お忙しいんじゃ……ごめんなさい、気軽に見学したいなんて言ってしまって……」


 遠慮しようとするシーナに、エクスは苦笑いを浮かべてから、この部屋に居る面々をぐるりと見回した。

 そして、シーナに視線を戻したエクスは、少しだけ悪戯っぽい笑みを浮かべて、シーナを安心させるように言う。


「……実のところ……ここに居る、私を除いた人たちは、みんな仕事を放置してここにいるんだ。サボり、ということだね」

「えっ?」

「ああっ! エクスさん、シーナちゃんの前でそんなこと言わなくても!」

「サボりをする君たちが悪いだろう? ……さぁ、シーナさん。私は仕事は無いから……是非とも、どうだい?」

「……よ、よろしくお願いしますっ……」


 迷惑にならないならと、シーナは緊張しながらそう言って頭を下げた。

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