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薄幸少女はジョウシキを疑わない  作者: 木に生る猫
第一章

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命令には従順に

 数週間が経ち、シーナは街に向かいながら、フィフラティエに言われたことを思い出していた。

 今回は少し特殊な『おつかい』で、自分はしばらくフィフラティエから離れないといけないらしい、とシーナはしょんぼりと肩を落とす。

 フィフラティエの指示というのは、街に行き、『光明戦団』という名の組織に所属する、というものだ。


 光明戦団は人外と戦う人間の組織のようで、フィフラティエもその標的となっている。

 だから、シーナはその組織に入って、フィフラティエのために色々としないといけない、ということらしい。

 具体的な話は聞いていないが、シーナの体内にはフィフラティエの影が仕込まれているので、逐一指示をしてくれるようだ。

 フィフラティエのサポートがあるなら大丈夫だろう、なんてことを思ったその時、シーナの視界の隅に影がチラついた。

 フードを被っているせいで視界が悪いが、あれは確かにフィフラティエが操るような、不思議な影に見えた。


「……フー様?」


 呼びかけながらも、シーナはなんだか様子が変だったような、と考える。

 影はフィフラティエと過ごしていればよく見かけるものだが、なんだか少し、いつもと違う気がしたのだ。

 そもそも、フィフラティエだとしたら、直接話しかければ済むだけの話だ。

 フィフラティエはそんな回りくどいことを好まないから、そんなことをするはずがない。

 だったらなんで、とシーナが不思議に思った時、その視界に突然影が現れた。


 その影は無警戒なシーナの足を掴み、思い切り引っ張る。

 シーナの小さな身体は咄嗟に踏ん張ることもできずに、転んで影に引き摺られていく。


「な、なに!? ふ、フー様じゃない……? や、やだっ、どこ行くのっ……!」


 ずるずると影に引き摺られて、シーナがフードの下で泣きそうになりながら、少しでも抵抗しようと傍にあった頑丈そうな雑草を握り締めた。

 しかし、雑草は引き摺られるシーナの手に引っ張られて、数秒で既に根元から抜けてしまいそうになっていた。

 すぐには抜けなくても、このままではその内千切れてしまいそうだ。

 だが、近くに木や建物など、掴まれるような頑丈なものは無いので、シーナが今頼れるのは地面に生える雑草だけ。

 シーナは土に塗れながら、必死になって雑草を握り締める。


 やがて、雑草の根が見え始め、ブチブチと細いものから千切れていく。

 このままでは、抵抗虚しくどこかへと連れ去られてしまうだろう。


「やだっ、やだぁっ……たすけて、フーさっ――ひゃあ!?」


 フィフラティエに助けを求めようとしていたところで、突然掴まれていた足首がふっと軽くなり、シーナの足は重力に任せて土の上に落下した。

 シーナが恐る恐る振り返ると、影のようなものが消え掛かっている。

 その傍には見知らぬ男性が立っていて、冷たい目で影を見つめていた。

 男性はふっと影からシーナへと視線を移すと、優しい表情になり、シーナと目線を合わせるようにしゃがみ込む。


「大丈夫だったかい、お嬢さん? 駆け付けるのが遅れてすまない、足首を掴まれていたよね。少し見せてもらえるかな?」

「……え、……え……っ? ……あ……えっと、まず、助けてくれてありがとうございます……あの、お名前はなんですか? 私、シーナです! はじめまして!」

「ふむ……怪我は無さそうかな。……すまない。自己紹介が遅れたね。私はエクス、光明戦団、『光』の一人だ」

「……ひかり?」


 光、というワードにシーナが首を傾げると、エクスと名乗った青年はハッとして、申し訳なさそうに微笑を浮かべた。

 そして、軽く頭を振ると、丁寧に説明をしてくれる。


「すまない、君にはまだわからなくて当然だったね。つまり……光明戦団という組織に所属している、凄いことをした人……という証だ。わかるかな?」

「すごいこと! それは……、……それは……すごいということ、ですねっ」


 シーナはそう言ってふにゃりと微笑むと、きょろきょろと周囲を見回した。

 影は既に霧散してしまって、痕跡すらも残っていない。

 フィフラティエに似た、違う影――幸先が悪いように感じて、シーナは不安そうに俯く。


「お嬢さんは、街に行くところだったのかい? どこから来たのかな?」

「あっ……は、はいっ。えっと……どこから……森の奥? やることがあって、街に行くところだったんです!」

「へぇ……それなら、私も一緒に行こう。まだ危ないかもしれないからね。……いいだろうか?」

「は、はいっ……えっと、お兄さん……エクスさんは、こーみょー……せんだん? の、すごい人、なんですよね! さっきみたいなことがあっても……大丈夫ってこと、ですよ……ね?」


 少し不安そうにシーナが尋ねると、エクスは微笑みながら頷いて、そっと手を差し出した。

 シーナは恐る恐るその手を取り、エクスとともに街へと向かう。

 シーナの目的は、元より光明戦団への潜入だ。

 この邂逅は、幸運で、好都合なものとは言える。

 ――なんて打算がシーナにあるはずもなく、シーナはこれから向かう先に、不安を覚えながら質問をしてみる。


「光明戦団? って、どんなところ……ですか?」

「おや、興味があるのかい? そうだねぇ……君には少し、殺伐としすぎているかもしれない。……ああ……ええと……空気がピリピリしてるって意味だよ」

「……こ、こわいところ……?」

「はは、君にはそうかもしれないな。だが、悪いところではないよ。悪い奴らを倒す組織だからね、どうやればたくさんの人を守れるかって、みんな真剣なものだから自然とそうなってしまうんだ」

「……あ、あのっ、えっと……エクスさんっ、光明戦団ってところ、見学してみたいです……!!」


 シーナは意を決して、エクスにそんなお願いをした。

 フィフラティエに命じられたからには、光明戦団に潜入をしなければならないから。

 ただし、『これでいいんですよね、フー様……!?』なんて、とても、とてもとても不安がりながら。

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