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第44話 賠償交渉

 


 皇弟率いる軍が朱雀軍に敗北し、炳燗が捕虜となったとの報を受け、東雲皇国からの交渉役には皇兄の慮淵が立った。


「それ見たことか、と何万の臣民が思っていることであろうな」


 皮肉気に口元をゆがめている慮淵の横で、側近の曙暉は難しい顔をして頷いた。


「背信行為の疑義が発せられている中での大失態、これで右大臣派も終わりでしょう」

「どうせもう先はなかったのだから、大人しくしておればよかったのに。はぁ、いっそのこと、討ち死にしておればよかったものを…」

「朱雀軍を率いていたのは切れ者と噂の宋蒼月です。そう簡単に死なせはしないでしょう」

「そうであろうな。やれやれ、気の重いことであるな」


 会談の場として指定されたのは、朱雀国が建築した国境の長城内にある貴賓室だ。さすがに町中にある貴族家のような華麗さはないが、王族が滞在することも想定して用意された厳かな部屋である。

 中に入るのは、慮淵と曙暉、護衛二名のみ。連れて来た兵たちは外で待機となる。

 慮淵らが貴賓室に通され、そう間を置かずに朱雀側もやって来た。朱雀からは蒼月、悠遊、護衛として小隊長の二人。

 二国が向かい合う形で、大きな卓に着いた。互いに名乗り合い、和平交渉もとい賠償交渉が始まった。


「我が国内に軍を率いて侵入した炳燗氏を捕縛した。貴国が大軍を我が国へ差し向け国境を侵した事は明らかである。侵略行為に対し強く抗議をさせていただこう」


 蒼月がそう切り出すと、慮淵は小さく頷いて答えた。


「此度は愚弟が迷惑を掛けた。しかし、我が国としては国境侵犯の意図はなかったのだ。愚弟は新しい鉱山を探しに山岳地帯へ足を踏み入れたのだが、誤って国境を越えてしまったのだろう。誠に申し訳ない」

「そのような詭弁は通るとお思いか。この数十年、何度も帰国は我が国の鉄鉱山を奪おうと兵を差し向けて来たではないか」

「過去に不幸な衝突があったことは認めよう。しかし、今上帝の世になってから朱雀国との武力衝突を望んでいない。愚弟がうっかり越境してしまったことについては謝罪する」

「あくまでも侵略の意図はなかったと?」

「そうだ」


 蒼月と慮淵はしばし互いの目を見て黙った。


「残念ながら、交渉は決裂のようだ。捕虜として預かっている兵はこちらで処分しよう。お帰り頂いて結構だ」


 蒼月が静かにそう告げた。


「待たれよ。過失によって結果的に国境を越えてしまったことは認める。わが軍の兵たちを預かっていただいた分の費用も弁済しよう」


 慮淵はすかさずそう申し出たが、蒼月は表情も変えず言い放つ。


「そのような主張は受け入れない。お引き取りを」


 人質を取られている慮淵には結局のところ勝ち目はない。ぐぬぬ、とうめきたくなるのをこらえて、主張を引き下げざるを得なかった。敗戦国として相場通りの賠償金を支払うことで決着しようという時、慌ただしく扉を叩き、朱雀の兵士が一人、蒼月へと駆け寄った。


「何事か」


 蒼月が問うと、兵士は蒼月の耳元で何事かを報告した。

 会談の間ずっと無表情だった蒼月が、見るからに険しい表情となり、何か大変なことが起きたことが知れる。

 報告を聞き終えると、蒼月は厳しい表情のまま慮淵に向き直った。


「貴殿が連れて来た兵士数名がこの長城にいた咲弥という少女をいずこかに連れ去った」

「咲弥?その少女はなぜこのような場所に?」


 聞き覚えのない少女の名に、慮淵は首をかしげる。


「咲弥をなぜ連れ去った?どこへ行ったのだ?」


 焦りを含んだ厳しい口調で蒼月は問い詰める。殺気を感じさせる鋭い視線を向けられながら、慮淵は慌てて否定する。


「私は知らない。我が国の兵が連れ去ったと言うのは真か?」

「真だ。知らないと言うのなら、お前も裏切られているということだ。咲弥を探さねばならない。貴国に踏み入らせてもらう」


 蒼月はサッと立ち上がり身をひるがえした。その背中に慮淵は言った。


「私たちも捜索を手伝おう。私とて裏切り者を許す気はない」

「勝手にすればよいが、私は東雲を信用しない」


 蒼月は振り返りもせず言葉を返し、足早に退出した。慮淵は珍しく苛ついた様子でくそっ、と呟き立ち上がった。


「曙暉、何が起きているのか正確に把握したい。情報を集めてこい。いなくなった兵を特定し、どことつながりがあるのか探れ。朱雀より先に少女を発見し宋蒼月に恩を売ってやろう。ああ、炳燗の身柄を引き取ったら宮殿の地下牢に入れておくように」

「はっ」


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