第39話 里帰り
一年ぶりに訪れたヤタガノ村。懐かしい風景が、思いのほかサクの胸を温かくした。村長をはじめ、数人の村人が出迎えてくれた。その中にチナとミツ、デグの姿を見つけて、サクは停まった馬車から飛び降り走り出した。
「みんなー!」
サクの声に反応して、ミツとデグが大きく手を振る。
「サク!」
「サクちゃーん!」
チナは三人に飛びつく勢いで抱き着いた。
「みんな!会いたかったよ!元気だった?」
「おう、元気だぜ」
「私もサクちゃんに会いたかったよ」
「べ、別にさみしくなんか、なかったわよ」
「えへへへ」
三者三様の反応に、サクは嬉しくなる。
「みんな変わらないねー!」
「どこさ目を付けてるんだ?見ろ、おらサクより背が高くなったべ!」
「あ、本当だ!デグ、大きくなったね!」
デグの体はぐんと大きくなり、サクより頭一つ分くらい背が高くなっていた。声も記憶の中のデグの声とはまったく違う。低い、大人の声になっている。
「サクちゃんもすっごく変わったよ」
「え、本当?」
「うん、きれいになった」
「やだ、やめてよ」
「ちょっと、調子に乗るんじゃないわよ。私だってきれいになったでしょう?」
「うん、なった、なった」
たった一年だが、思春期真っただ中の子どもたちにとっては大きな一年だ。それぞれが大人になっていく。でも変わらないものも、そこには確かに存在した。
サクが友達との再会を喜んでいる横で、村の男たちは凛音の登場にどよめいていた。
「こっただ別嬪さん、お目にかかったことがなか」
「まぶしくて目が潰れそうだ」
凛音の横でライがぶすっとしている。なんなら周りの男たちに威嚇までしている。凛音は不思議に思って訪ねた。
「雷門、なんで怒っとるん?」
「男どもが凛音を見る目がいやらしい!」
「そんなことないよ」
「そんなことある!」
「でも、このくらいなら、王都でだって普通だったじゃない」
「舞姫の凛音に憧れるのは我慢できる。でもここでは、おらの嫁っこだべ!」
憤るライに、ぽっと頬を染める凛音。なんとなく周囲も事情を察して、凛音に不躾な視線を送るのをやめた。
そこへ蒼月がやって来て、ライに告げた。
「我々はヤタガノに一泊して国境を目指す。二人はこのままたたらの里へ向かうのか?」
「おらたちは、里へ行く」
「そうか。国境が片付いたらまたここを通る。その時までに戻れよ」
「わかってるだ」
ライと凛音はしばしの別れを告げ、たたらの里へと旅立った。サクも大きく手を振って、二人を見送った。
「私も家に帰ってお父さんに顔見せなくっちゃ」
サブロが出迎えに来ないことは、大体想像がついていた。余所者と言われるのが嫌なんだろう。一年ぶりに会う父は、きっと再会を喜んで、今日は兎肉を出してくれるだろう。そんなことを考えて、自然と微笑みが浮かぶ。
ミツとデグは顔を見合わせて、少し変な顔をした。
「サクちゃん、あのさ、サブロさんは今いないよ?」
ミツの言葉にサクは軽く首をかしげた。
「いないの?ああ、狩りに出てる?」
「ううん、しばらく留守にしているみたい」
「そうなの?しばらくって?」
「うーん、もう三月くらいはいないかな?冬が来る前にでかけたみたいだよ」
「三月も?!」
驚いたサクは思わず大きな声を出してしまった。これまでにサブロが長く家を空けたことなど、一度もなかった。一体どうしたと言うのか。サクは急に不安になって来た。
「ちょっと家を見て来る」
「おらも一緒に行くよ」
「ありがとう」
心配してくれたデグの言葉に甘え、サクはデグと一緒に家への登山道を速足で登った。はぁ、はぁ、と息を切らせながら、懐かしい我が家へとたどり着く。家の周りには枯れ葉が積もり、畑の土には雑草が立ち枯れていた。人気のない家は寒々しく感じる。ガタガタと音を立てて扉を開けると、薄暗い静寂だけがサクを出迎えた。しばらく火も焚いていないので、部屋の空気は冷え切って、外より寒いくらいだ。
サクは草履を脱いで中に上がると、雨戸を開け、日の光を家に入れた。明るくなった室内を見渡しても、サブロの居場所を示すような物は何もなかった。
「デグ、どうしよう。お父さんがいない。もしどこかでケガでもしていたら…!」




