練習の日々からの息抜き
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
日本古来にあったとされる走法、ナンバ走り。
太一は僅かな指導時間ながら部員達へ伝え、走り方を指導。
本来の腕を振っての走りから腕全体を振らず、肘から先を上下に動かすように意識し、実行する。
プロとして忙しい合間に来てくれた。インターハイで立見の活躍を願って太一が帰って行くと、残った部員達の中でナンバ走りに詳しいのは弥一と優也。
太一がいない時は1年である彼らから、ナンバ走りを教わる事になった。
「最初のうちは進まず、その場で足踏みして慣らす。それでこうやって前に進むと良いですよー」
弥一は先輩部員に進まず、その場で留まる腕を振らない走りを見せてから、その状態のまま前へ進んで行く手本を披露。
「手の力は抜け。握らなくていい」
手に力が入り握っている同級生の部員に優也が指導。力は入れないようにと細かく教えていた。
紅白戦やミニゲームでもナンバ走りを意識したり取り入れようと、各自が走りを試みるが中々上手くいかないのは、今までの走りに慣れてしまっているせいか。
「俺とかそんな意識してねぇんだけどよ。とりあえずこれが走りやすいと思ってやってるって感じで」
「へぇ~、こんな風に?」
「あー、ちょっと違くね?」
ナンバ走りに近い走りが無意識に出来ている田村。同じ2年部員に自分の走りを教え、手本通りに走る部員に対して何か違うなと指摘。
まだまだ新たな走りには馴染めず、付け焼き刃のままでは全国の強豪達に通用しない。残り期間で何処までナンバ走りに馴染ませられるかの勝負になってくる。
勿論、普段のボールを使った練習も忘れない。その中でも無意識にナンバ走りが出来て、体力の消耗を抑えられるかどうか。
新たな走りを取り入れて朝練や放課後の練習で積み重ね続けた。
そんな練習の日々でも、たまには遊びたいと思うのが正直な気持ち。別に遊びが禁止という事は無い。立見はそこまで厳しいルールが存在せず、皆が進んでやっているだけだ。
◇ ◇ ◇
土曜の朝、本格的な夏の日差しを迎えつつある空。立見の1年グルチャで前日会話をすれば、それぞれが夏の私服で立見の街中へ集まって待ち合わせをしていた。
「またジャージかと思ったよー」
「俺だってこういうのぐらい持ってんだよ」
赤い半袖パーカーに黒い短パンと、夏の私服を着て来た弥一に対して、優也は全身黒いファッションの夏服を着て登場。
弥一には優也はジャージという印象が強かったが、こういう私服も持っているとばかりに、今日は馴染みのジャージは着て来なかった。
「うーん、漫画じゃこういう時も公園でサッカーして新たな必殺技習得とか、新たなライバルとの出会いとかありそうですけどね~」
ピンクの夏のワンピースを着た、今日の1年の集まりで紅一点の彩夏。部員に居る彼女のファンからすれば、夏の彼女に釘付けとなりそうだ。
「流石にこういう時までそれは考えねぇって。つか漫画の見過ぎな」
漫画ならではの展開を語る彩夏に川田は苦笑。彼は流行りものの夏服で固めており、白Tシャツの上に青い上着にジーンズを合わせている。
「とりあえず何処行こうか?」
大門は皆へ何処に行こうか尋ねる。彼はシンプルに半袖の白いシャツとジーンズだ。
「暑いから近くのゲーセンにまず行かないか? 10時で丁度店空いてるし」
すぐ前にゲームセンターを発見し入る事を摩央から提案。摩央は白いキャップを被っており、ノースリーブのグレーのシャツとカーキのカーゴパンツ。
「お、行こう行こうー」
これに一番前向きなのは意外にも武蔵だった。武蔵は黒いTシャツの上に白い上着を来て上着と同色のパンツを合わせている。
開店したばかりのゲームセンター。立見の駅前にあるゲームキングという名の店で、店内はまだ他の客は見当たらず弥一達が一番乗りだった。
1階が主にプリクラやクレーンゲームで揃って、2階はマシンゲームが主にあり、3階が対戦格闘が多くあるアーケードゲームがメインだ。
「あー! やっば! ぶつかるー!」
2階のマシンゲームで弥一はレーシングゲームのハンドルを握る。首位を走ってレースが進む中で周回遅れにぶつかりそうになり、焦ってハンドルを切って行く。
心が読めても対戦相手のAIの動きまで読む事は出来ないようだ。
違うレーシングゲームでは優也が無言でスイスイとマシンを動かし、先頭を走る。意外とゲームは得意らしい。
「そこ~、もうちょっと右です~」
「ん? 此処!」
「あ、ずれたなぁ」
1階では彩夏がクレーンゲームの景品であのぬいぐるみ可愛くて欲しいと、可愛くデザインされたドラゴンのぬいぐるみを望む。川田が取れる自信あると言って取ろうとするが、アームは外れてしまう。
続けて大門も挑むも、ターゲットから外れる。サッカーのキャッチングはミスしないが、こういうキャッチングはあまり得意ではない様子。
「オラオラどうしたどうしたー!」
「うげぇ!? 強ぇって武蔵!」
3階の対戦格闘ゲームでは摩央と武蔵が激突。元々引きこもりでゲームを沢山してきており、摩央自身も1年の中では経験値が高いと思っていた。
格闘ゲームも自信あったが、武蔵の操る女子キャラに摩央の操る男子キャラがボコボコにされてしまう。格闘ゲームをしている時の武蔵は何時もよりテンション高めで強気だ。
コンボ技をそのまま超必殺技へと繋げ、武蔵のKO勝ち。摩央は頭を抱えて項垂れた。
「みなさ~ん、これ皆で撮りません~?」
彩夏が男子達を呼び集めると、ある機械を指差した。
インスタント写真を撮影し、印刷したシールを製造する機械。内蔵カメラで自分の顔や姿を撮影する。
主に若者から人気のあるプリクラだ。
「確か、色々可愛く加工とかそういうの出来るんだっけ?」
「そういうのはデコるって言うんだよ」
こういうのに疎い大門。とりあえずテレビで見た事ある限りの知識を言ってくと、横から川田が言い方を訂正。
デコる。つまりデコレーションで、好きに自分の写真を自分で装飾が出来るという訳だ。
「あれ? えー……「このプリクラは普通に撮るだけの旧式です。盛りたい方は他のプリクラをご利用ください」って書いてあるよー」
プリクラの機械の前にある張り紙に気付く。弥一はそれを読んでみると、このプリクラではデコるとかそういったものは無理な古いタイプの物だと分かった。
「何でそういうのが置いてあるんだ?」
「多分普通に撮りたがるのも居るから、あえて置いてるんじゃないか? 多分」
そんな普通のタイプを何故置いてるのかと武蔵が考えてると、そういうのが流行ってるんじゃないかとスマホを見ながら摩央が答えていた。
「下手に落書きされるより、これで良いだろ」
優也は自分の顔を加工されたり落書きをされるよりも、シンプルに撮る事を望んで旧式の方を選ぶ。
「まあ~、皆さんとの思い出で顔を加工し過ぎて誰? ってなっちゃうより良いですかね~」
「んじゃ、皆で撮るよー♪」
それぞれプリクラで撮影し、2ショットに3ショットと色々な組み合わせを撮っていき、最後に全員で集まり収めた1枚を撮影。
川田や大門と体格ある二人が狭い画角に収まりづらく、撮影に苦労したのは言うまでも無い。
その後に弥一が菓子のクレーンゲームで次々とアームで掻っ攫い、景品の穴へと放り込んで菓子の大量ゲットに成功。
皆で菓子を分け合い、ゲーセンを出て食べ歩く姿は激戦の東京予選を制したサッカー部には見えず、普通に遊ぶ学生と何も変わらなかった。
照りつける太陽の下で練習やサッカーを考えずに遊び歩く。たまにはこんな休日も悪くないかもしれない。
列の後ろで棒付きの飴を口に入れて甘さを味わう優也は、そんな事を思いながら菓子を食べつつ談笑する部の仲間達を見ていたのだった。
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