サイキッカーDF対U-16MFコンビ
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
大門がキャッチしたボールを手放すと右足で蹴り上げ、ボールは空高く舞う。
パントキックによる滞空時間を利用し、桜王の攻撃で若干バタついた味方の陣形を整え、落ち着かせる狙いだ。
『立見GK大門、これはかなり高く上げたぞ!』
『味方の上がる時間を稼ぐ良いパントですね。キャッチングも落ち着いてましたし、神明寺君が守備では目立ちますが大門君も堅実で良いキーパーですよ』
高く上げたボールはハーフウェーライン(フィールドの中央にある線)を超えて、桜王側のフィールドまで運ばれる。落ちてきた所に長身のFW豪山が落下地点へ走っており、頭で落とそうとジャンプ。
「ぐっ!?」
そうはさせんと、桜王DF榊が豪山の死角から走り込んで跳躍。空中で二人の競り合いとなって頭に当てたのは豪山だが、正確には捉えきれずにボールが流れてしまう。
転がるセカンドボールに対して、いち早く取ったのは原木。またしても厄介な桜王の中盤の要がボールを持つ。
その位置からドリブルが開始されると成海が詰めて来た。原木の前に立ち塞がり、飛び込みには行かない。
味方の守備が整う時間を稼ぐディレイだ。
そうはさせないとばかりに原木は突破へ行かず、左へ方向を見ないままパス。成海の先程やったノールックパスを原木も使って来て、桜王のFW坂口に繋ぐ。
ボールを受けた坂口から黒田と2トップでパスを繋ぎ、ゴールへ迫るも間宮が黒田の前に立ち塞がって突破を阻止。争う末に流れるセカンドを影山が蹴り出してクリア。
蹴り出されたボールを鈴木が拾うと桜王が二人がかりで囲み、鈴木からボールを奪うと、またしても桜王の攻撃が立見を襲う。
「9、11目ぇ離すな!」
間宮の指示で2トップを見失わないように注意する。動き回る二人を見つつ、ボールを持つ相手も見なければならない。
序盤から攻め込まれ、DFとしては早くも正念場だ。一瞬でも気を抜けば、ほぼ失点は免れないだろう。
ボールを持つ蛍坂は軽くパスの動作を見せて、目線は黒田に向けている。
彼の動きが見えた川田は蹴ると読んで、パスコースを消しに立ち塞がった。
だが、それは蛍坂が仕掛けた罠。パスと見せかけて、そのままドリブルで単独突破。軽く前へ右足でボールを蹴って、自らもボールと共に走れば川田の右から抜き去る。
「此処からは通行止めねー♪」
「!?」
そこに待ち構えていた弥一の姿。大柄な川田がブラインドになったせいか、小柄な弥一に気づかず蛍坂はぎょっと驚く。
蹴った時に彼から離れたボールを再びキープされる前に、一歩速く弥一は奪い去っていた。
Uー16の経験を持つ優秀プレーヤー相手に、体の小さい弥一ならではのブラインドディフェンスを仕掛け、罠にかけたつもりの蛍坂を逆に罠へ落とす事に成功する。
その弥一に対して蛍坂と同じUー16の原木が詰めて来ると、早々に奪い返そうとしていた。
迫る原木に気付いているのか、慌てず右の足裏でボールを止める。
次の瞬間、弥一の体はボールを軸にターン。相手がどのタイミングで迫って来るのか、完璧な把握が無ければ、実戦で使いこなすのは難しいとされる360度ターン。またの名をマルセイユルーレット。
「うぉわっ!?」
ほんの一瞬の出来事で、弥一の位置と原木の位置は入れ替わる。
原木の詰めを弥一は華麗なルーレットで回避していた。彼のボールコントロール、テクニックを前に会場からは驚きの歓声が敵味方問わず出てくる。
『神明寺、これは凄い! 蛍坂からボールを奪ったかと思えば、原木もマルセイユルーレットを披露し躱す! 全国クラスの中盤Uー16コンビをも手玉にとってしまったー!』
『実戦でこうも見事にルーレットを決めてきますか! いやはや……凄いなぁ』
原木を躱した弥一は影山がフリーの姿を見つけ、右足でパスを送った。
「中央駄目! 右甘いよ右ー!」
ボールを離した後に弥一がコーチングで中央突破せず、サイドから行けと伝える。それが伝わったらしく影山から成海、そして右サイドの田村にパスが繋がり、立見は良い攻撃をようやく此処で組み立てつつあった。
「(榊相手だと流石の豪山先輩でも高さ厳しいから、低めで!)」
右サイドを走る田村。桜王ゴール前を一瞬だけ見れば豪山が待っており、近くには榊がマークに付いている。
榊も長身で身体が強い為、豪山といえど彼に競り勝ってのヘディングは難しいだろう。そう判断すると田村は低めを意識して、得意の右足でクロスを蹴った。
低いボールが豪山の元まで向かい、右足のボレーシュートで合わせようとする。
だが、その前に榊が頭から田村のクロスに突っ込んでいた。身を投げ出して頭でボールに当てると、自軍ゴール前から弾き出す。
榊の体を張った守備で、桜王はピンチを凌いだ。
『榊、飛び込んでボールをクリア! 守備において立見の神明寺に負けてません!』
『これは注目ですね。どちらも無失点の堅守を支えるDF同士ですから、神明寺君が技に長けているなら榊君はフィジカルとガッツに溢れてますよ』
ボールはタッチラインを割って立見のスローイン。位置的に左コーナーに近く、ロングスローを充分狙える。
このチャンスにロングスローが得意な川田が近づき、ボールを持つ。
「どらぁぁぁ!!」
助走を付けてゴール前へ川田は思いっきり叫びながら放り込んだ。桜王のゴール前にボールが向かうと近くには豪山の姿があって、榊は当然のようにマークへ付く。
だが、このボールに対して豪山は飛ばずにボールを見送ると、その後に飛ぶ人物が居た。
外から走り込んできた成海の姿。
豪山ばかりをターゲットにするとは限らない。成海を最初から狙って、川田はロングスローを行ったのだ。
成海は助走から跳躍すると、額でボールを当てに行く。
だが、自らの額には何の感触は伝わって来ない。
ヘディングをミスしたのか、そうではない。その前に成海の攻撃を阻止する存在があった。
『高山掴んだぁ! 良い判断で飛び出していた!』
190cmの長身を誇るGKの高山。東京ベスト3に入る凄腕にして、今大会No.1GKの呼び声もある彼が、放り込まれたボールに飛び出して長い両腕で掴み取る。
身長で言えば八重葉の大城に並んでいるが、手が使える分を考えれば高さは大城よりも上だろう。
高山はキャッチしてすぐ、スローイングで大きく放り投げる。そのターゲットはフリーとなっている蛍坂で、攻撃を防いだ桜王は速攻のカウンターへ出る。
『桜王キーパー高山、キャッチしたボールをすぐに投げた! これはチャンスか!?』
田村が上がっているので立見の右が空いている所を高山、そして蛍坂は隙を見逃さない。
「!」
そこに立ち塞がる影山。速攻を仕掛けようとしていた蛍坂は、急に現れた存在に対して驚きながらも右の足裏でキープ。この間に立見の選手は戻り、守備の陣形を整えて行く。
「ふ~、また速攻で掻き回されるかと思ったけど流石影山先輩。良いディレイだよ」
カウンターのピンチにヒヤッとした摩央はベンチに座る。影山が蛍坂を相手に時間を稼いでくれた事で一安心。
「ただ、桜王は攻守共に前回の真島以上で中々攻めさせてくれない」
その横で京子は此処までの戦いを見ていた。桜王が攻守において、今までの相手の中で一番レベルが高い。層の厚い東京の名門校で日々競い合い、その中から選りすぐりのエリートが今のフィールドの11人。総合力は言うまでもなく東京随一だ。
「上村君、準備しておいて」
「はい!」
京子が声をかけると、武蔵はベンチから立ち上がってアップを開始する。流れを変える為に選手交代を考えているらしく、まだ優也には声をかけない。
出番の時ではないと理解し、立見のスーパーサブは黙って戦況を身守る。
「それで良い、もっとサイドから行け! サイドから!」
桜王の監督がベンチから立ち上がり、フィールドの選手へと声をかけていく。こちらがペースは握ったので、後はフィニッシュに持って行って点を取るだけ。
だが、その最後が中々上手く行かない。
効率的に休息を試合が終わった直後に取らせ、疲れを最小限に抑えるよう努めてきた。
疲れが出ているかと選手の動きを見るが不調という事は無く、むしろ好調だ。
「(こんな攻めているのに、うちが得点出来ない……予選じゃ初だな)」
ベンチで出番を待つ冬夜は静かに試合を見ていた。予選では常にボール支配率で相手を上回っており、今回も桜王がボールを持っているので、ペースは掴んでいるはず。
今までと違うのは得点が入らないという事だ。
フィールドには原木、蛍坂と全国クラスの中盤が揃ってる状態で、攻撃力は申し分無いだろう。
その二人をもってしても、立見の守りを突破しきれない。全く通じないという訳ではなく、良い所まで崩してはいる。
チャンスとなる大事な所で芽を摘まれているのだ。
「(ターゲット、あっちだ!)」
蛍坂がボールを持つと目線は黒田に行っている。彼に目を向けたまま、蛍坂は坂口へノールックのスルーパス。
ボールが出されると、坂口も反応して走り出す。
「(通さないよっと!)」
今日何度目となるのか、弥一は蛍坂のパスコースを読んで飛び込んでおり、スルーパスをインターセプト。桜王の攻撃をまたしても潰していた。
「(何でだよ!? あいつの読みなんなんだ……!?)」
「おーい、ホタル落ち着けよー」
「あ、ああ。分かってるって」
弥一にパスを読まれてばかりで、頭を抱えそうになる。それに原木が声をかけた事で、なんとか落ち着くが戸惑いは残ったままだ。
「(流石Uー16、厳しい攻撃組み立てて来るよね。通さないけど)」
予選の中で良い攻撃を仕掛ける桜王とUー16コンビ。これには弥一も厳しい攻めだと桜王を認めているが、彼は1本たりとも攻撃を決めさせる気など微塵も無い。
10試合連続無失点。何処までも完封に拘る天才サイキッカーDFは狙わない訳がなかった。
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