獲物を狙う眼
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
前半は40分を過ぎ、それほど長いアディショナルタイムも取ってはいない。
審判の笛が吹かれるのも時間の問題だろう。
それでも集中力を切らさず、立見は真島の攻めを守って凌ぐ。
クロスボールに対して間宮が頭でクリア。更に浮いて流れたボールを今度は川田が頭で前へ運ぶ。
此処に鳥羽が再び詰めて行こうと走って来る。
その前に審判の笛が吹かれ、前半が終了するとハーフタイムに入り、選手達はロッカールームへ引き上げる。
『此処で前半終了、立見対真島の準決勝は0-0。立見の成海のミドルシュート、真島の鳥羽のFKと惜しい得点チャンスはありましたが、スコアレスで折り返しです』
『得点動きそうでしたが動きませんでしたね。どちらも最大のチャンスを逃し、凌いだので後半どうなるのか楽しみですね』
「驚いたよなぁ。鳥羽のキック良い所に飛んで、ゴールかと思ったし。あのキーパーよく止めたもんだよ」
「そうそう。ファールして、良い位置でもらってのキックだったから。立見の無失点は終わりかって俺も思ったし」
「……」
他校のジャージの格好をした生徒達が、先程のシーンを振り返って会話をしている。その後ろで一人静かに腕を組んで、試合を静観する同じジャージを着る男が居た。
彼らの姿にTVカメラは見つけ、注目した。
『おっと、これは驚きだ。静岡予選を制して早々に夏のインターハイ全国出場を決めた王者八重葉の面々がこの準決勝を見に来ています!』
TVカメラは真っ直ぐ八重葉に、腕を組む照皇誠へと向けられる。
その照皇の視線の先には川田と談笑しながら、ベンチに引き上げる弥一が映っていた。
「はぁ~」
真島のロッカールームで鳥羽は大きく息をついて椅子に腰掛け、マネージャーから渡されたスポーツドリンクを飲んで喉を潤す。
「なあ……俺のキック、コース甘かったか?」
「甘くねぇよ。むしろエグい所突いてて完全に1点だって思ったぐらいだ」
傍に居る峰山へ鳥羽は自分のキックは甘かったのかと尋ねるが、峰山からすれば鳥羽のキックは100%に近い素晴らしい物だった。
少なくとも彼が不調という事は無いだろう。
自身でも確かなキックの手応えを感じて行けると思っていたが、あの通りの結果だ。立見GK大門が鳥羽のFKを止める事に成功。大柄とはいえ1年のキーパー相手に、あのようなスーパーセーブで凌がれるのは想定外だった。
「切り替えるんだ鳥羽。あれは相手のキーパーを褒めるしかない」
そう言って声をかけたのは真島の監督。このまま動揺が後半にまで持ち込まれてはならないと、監督は鳥羽に伝えた後で全員へ後半に向けて話し始める。
「前半0-0、まだスコアレスだ。ボールはこちらの方が持っている。攻撃も守備も粘り強く行けば、いずれまた俺達にチャンスはやって来る。それを今度こそ逃さなければ良いだけだ」
監督の話に真島の選手達は皆が真剣になって耳を傾けていた。
「冷静に落ち着いて真島のサッカーをすれば必ず勝てる。地力では俺達が上だ。自信を持て!」
「はい!!」
「よーし、後半だ。下手にプランを変えず今まで通り攻めてくぞ!」
この一声に真島イレブンは改めて引き締め、気合いを入れ直す。後半も前半と同じように特に大きな変更はなく、真島のサッカーを今まで通り行う。
現時点でボール支配率は真島が上。これを下手に動かせば立場が一転するかもしれないので、真島はプランを変えない。
変える時があるとすれば、それは立見が動く時だ。
「前半0-0、大きなピンチはあったけどなんとか凌いだ。これはかなり大きいと思う」
立見のロッカールーム。各自がドリンクを飲んだり、汗を拭いて席に座り休む。成海は京子と共にホワイトボードの前に居て、後半に向けて話している。
「けど、流石は昨年の東京代表だな。攻めだけじゃなく守りも堅い。マークも簡単に振りほどけなかったわ」
この試合、豪山は満足行くシュートを撃てていない。真島DFから徹底マークされているせいで、そのチャンスは中々巡っては来ていないからだ。
「この流れでは前半と同じメンバーで行っても、大きな変化は起こらない可能性がおそらく高い。なので後半の頭から鈴木君に代わって上村君へ交代する」
京子は交代の手続きを済ませており、後半から武蔵が出場となる。前半から出場させるというのもあったが、後半まで温存して武蔵のパスに慣れさせる前に、そしてハーフタイムで対策される前に此処で出す。
無論真島の方も武蔵を調べて知っているだろうが、データと実際では全く違うはず。知られる前に立見のリズムを変える狙いだ。
「武蔵、行けるか?」
「はい! 勿論!」
成海に問われた武蔵は勢い良く答える。アップは出来ており、出場の準備は万全だ。
「優也、終盤のフィールド頼んだよー♪」
それぞれが後半戦に向けてフィールドへ戻る中、弥一は優也へ声をかけて終盤託す事を改めて伝える。
「いいからお前は東京No.1ストライカーをぶっ倒して来い」
「当然ー♪」
優也からも打倒鳥羽を任された弥一。それぞれの役目を持ったまま、フィールドとベンチに分かれた。
ハーフタイムが終わればフィールドに選手達が戻って来る。その時、たまたま弥一と鳥羽が同時に出て来て、互いの視線がぶつかり合う。
「よぉチビ君。前半はしてやられたけど、後半は立見の守りを破るぜ。宣言通りゴールの華を咲かせてやる」
鳥羽からゴールを取ると宣戦布告。不敵に笑いつつも、鳥羽の目は弥一を射抜くように向けられている。このままノーゴールでは終われないと、ストライカーとしてのプライドが現れていた。
「ああ、鳥羽さん。ひとつ良いかなー?」
「ん?」
マイペースな口調で笑みを浮かべている弥一だが、それは一瞬にして変わる。
「この試合もうあんたにシュートは無いから」
ゾクッ
笑みを消した弥一の視線、それに鳥羽は一瞬背筋が寒くなるような感じがした。
「(何だ? この季節だってのに、つか今の目は何なんだよ……?)」
鳥羽がゴールという獲物を狙うように、弥一も鳥羽という獲物を狙っている。その目が獲物を捉えて離さない。
後半戦、その狩りが始まろうとしていた……。
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