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のんびり屋の新人マネージャーはただ者じゃなかった

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 支部予選を勝ち上がったチーム、支部予選が免除され1次トーナメントから登場するシード校。より厳しい戦いがまた始まる。



 完全休養を経て立見サッカー部も1次トーナメントの戦いに向けて、再び練習が開始され、朝練で軽くボールを使ってのトレーニング。そして午後にスタミナ強化や実戦トレーニングだ。



 放課後に予定通りその練習をしようと部室に部員達が集う。




「えー、練習の前に我がサッカー部に新たなマネージャーが一人加わる事となりました!」



 こほん、と幸は一呼吸置いた後に、その人物へ部室に入ってくるように呼びかける。



 桃色の長い髪でウェーブヘア。身長は160cmぐらいで容姿や制服を見れば一目で女子と分かる。加わる事になったのは女子マネージャーだ。



「1年の黛彩夏まゆずみ さいかです~、よろしくお願いします~」



 随分とのんびりした口調で緊張した様子も無く、彩夏という1年女子は挨拶する。




 一部の男子には可愛い子が入ってくれた、と健全な男子らしい反応を見せる者も居た。これで自らの良い所、カッコ良い所を見せてアピールしようと考える者も居る事だろう。


 彩夏の方がそれを相手するかどうかは別として。






 同じ1年だが先に入った摩央が先輩として、彩夏に案内や説明の担当を任され、摩央は案内する。



「部室の隣が倉庫になってるから、道具とかボールは主にそこで出し入れするようにして……」



「……」



 摩央が説明していく中で彩夏は練習する部員達の姿を眺めていた。知らない者から見れば地道な走り込みに見えるが、試合と同じ走りをして必要な時に急なダッシュをかけたりと、試合を想定した走りで身体に慣れさせ、効率的なスタミナ強化として取り組んでいる。




「ああ、練習気になる?今ボール使ってないけど、ああいう地道な練習も大事で80分や90分の試合を乗り切るには欠かせない……」



 彩夏が練習を気にしてそうなのに気付き、今部員達が行ってる練習について京子から教えられた事を、摩央はそのまま彩夏にも教えていき、地道な練習の重要さを語っていく。





「千里の道も一歩からって言いますからね~、これが後後になって雷を纏う必殺シュートが生まれたり闘気を身体に纏ったドリブルで相手を吹き飛ばしたりするんですよね~」



「……え?」




「ぶっ!」



 突然のんびりした口調の彩夏から、現実離れした出来そうに無い漫画のような事が飛び出して来て摩央は呆然。これに近くで聞いていた成海と豪山は揃って吹き出した。




「あ、え……えー、そういった事は流石に無理かと」



「え?そうなんですか~?流石に超次元過ぎましたかぁ、じゃあゴールマウスまるごと吹き飛ばすキャノンシュートとか~」



 摩央に言われて彩夏は超次元から少しランクを落としたつもりだが、摩央は内心でそれも超次元だろ、どんなパワーシューターだよ!とツッコミ。




 大丈夫なのかと心配にはなったが、意外とマネージャーの仕事は出来て動けており、やる気もある。



 部員達へとドリンクを届ける彩夏の姿を京子は見ていた。





 走り込みを終えて小休憩後に紅白戦を行う。1年と2年に分かれてのチーム戦だ。




「1年と2年って、どう見ても経験不足の1年が不利ですよね~?」



「まあそう思うだろうけど、1年ただ者じゃないのが若干いるからさ」



 それぞれのチームがフィールドへと散って開始の準備を待つ。紅白戦を見る彩夏は1年が不利そうと思っているが、摩央の方は既に一部の1年の凄さを知っているのでそうは思っていなかった。



 特にDFの小さな彼がそこに居る限り、むしろ不利なのは2年の方だろうと。




「大門ミドルー!」



 弥一の声が飛び、そこに2年のミドルシュートが飛んで来る。



 そのシュートに落ち着いて対応していた大門が正面でキャッチ。




「(良い所見せようと思ったのによー!つか何時も何時も何でシュートバレんだ?)」



 彩夏が新たに入って可愛いマネージャーの前で良い所見せようと、ゴールしてアピールしようとしたが、その企みは弥一と大門によって阻止される。その二人は別にそういうつもりで止めた訳ではないが。



 そして心を読まれたという事には全く気づかない。彩夏の方も今有り得ない超次元が静かにあった事に気付いていない。




「2年、良い攻めしてんだけどなぁ」


「やっぱり神明寺と大門、相性が良い。思い切って安藤から大門に神明寺と合わせて起用したの正解だったな」



 紅白戦をチェックしている成海、豪山の二人。


 支部予選の途中で弥一と大門を揃って起用していた。あの二人だけの力ではないが八重葉戦で後半無失点に抑えた力は本物だと、支部予選を無失点で乗り越え証明してみせてきた。




 次の1次、そして先の2次でも彼らの守備は重要となってくる事だろう。






「!おい、左気を付けろ!歳児そっち走ってる!」



 後ろから間宮は優也が何時の間にか、何時もの左から右へと走っているのに気付きDFへと指示、スピードのある田村はその逆サイド。対抗して彼をわざわざ動かしては守備がバタバタして乱れる。



 それが誘いと警戒して田村を動かさず、間宮は優也を止めようとしてる。




 右へと走る優也、そこにボールを受けた武蔵が空いたDFの裏スペース。優也を走らせようとボールを浮かせての左足によるスルーパスを送った。



 優也は部内No.1の快足によって、ボールへと前を行くDFを追い越して詰めていく。




 ボールをトラップし、間宮が追って行った。




 その間宮が追いつく前に優也は右足によるシュートを撃つ。



 僅かに出来たシュートコースをついて、キーパーは反応しきれずゴールネットを揺らした。




 1年チームの方に得点が動き、1-0。




「近くで見ると凄いですね~、今の人とか凄く足速くてまるで風になったみたいで~」



「ああ、あいつ元々陸上やってたから走力とかは多分現時点でもう部で一番かもね」



 優也が陸上を元々やっていた事は本人から昼食の時に聞いており、摩央はその事を彩夏にも話す。最近はサッカーとしての技術も向上してきて、今のようなコースをついたシュートコントロールまで身に付けてきていた。身体は大きくはないが、確実にFWの地力は増している。



 前川戦でも曲者キーパー岡田から執念でゴールを奪い、立見に今や欠かせない一人だ。



 それは優也のゴールをアシストした武蔵もそうだ。



 前の支部予選を経てパサーとして歩み始め、上手く行かない所も多々あるが優也同様に実力は伸ばしている。




 公式戦を経験し、それぞれが成長していた。




 その紅白戦をじぃっと見つめて彩夏は何やら考えこんでいる。




 すると何か思いついたように、顔を上げて再び紅白戦を観戦。








 翌日、朝練が終わり生徒達がそれぞれ授業へ向かうと幸は職員室へと呼ばれた。



「高見先生、サッカー部宛で大きな荷物届いてますよ」



「え?サッカー部に?」



 同じ教師の者からサッカー部に荷物、そんな大きな荷物を何か頼んだっけ?と思ったが特に何も思い当たらない。一体なんだろうと荷物を見に行ってみると……。




「な、何これ?」








 放課後、サッカー部の部室前はざわついていた。



 そこに見覚えの無い機械が置いてあったからだ。青い機械は成海も豪山も京子も見た記憶は無い。




 機械へと真っ先に行ったのは彩夏だ。



「あー、無事に届いたんですね~」



「ま、黛さん?どういう事なのか詳しく説明してもらえるかな?」



 動揺が残る幸は彩夏へと詳細を求めた。その彩夏は最初と変わらぬのんびりした調子だ。




「私なりに今この部に足りないのは何だろうって考えたんですよ~、そうしたらトレーニングマシンとかそういうのが足りないなぁって思って。それで部活終わりにお父さんに電話したんです~。そしたら知り合いの会社が作ったサッカーマシンが1台余ってるから譲るという話になって此処に届けるってなって~」



「それが今、此処にあると……」



「つかマシンって何十万もするよな?」



 まだ状況が飲み込みきれていない成海、豪山。高性能のマシンで練習効果を高める物はいくつかあり、学校によってはそれを取り入れている高校もあるが、それは強豪校で予算を多く得られている高校に限る。


 少なくとも出来たばかりの新設サッカー部にそんな予算は到底無い。




「まあ、普通に買うとなると50万ぐらいはしますよね~。一般的にはお高い金額です~」



「ご……!?」



 自らの月収を超える金額に幸は言葉を失う。それを何時もと変わらぬ口調で彩夏は続けた。




「気にしないで大丈夫ですよ~。使い道無い余り物ですから、だったら遠慮なく使ってあげた方がこのサッカーマシンも幸せだと思います~」





「何者なんだろう彼女、のんびりした感じだけどただ者じゃないというか……」



「あの子、黛財閥の社長の娘さんだよ」



「ええ!?」



 呆然とする大門に更に驚かせるかのように、武蔵は彩夏を以前から知っているのか驚いてる様子は無く話した。



「社長の人が実家の寿司屋に来てて、その時一緒に居たあの子見てたから。まあだからコネでマシンの一つ送れるのも不思議じゃないなって……」



 人は見かけによらないと言うが彩夏はよらな過ぎだった。あののんびりした今時っぽい容姿の子が実は財閥社長の娘。そうなると多くのコネクションを持っており、今あるサッカーマシンもそれで送ってもらったのだろう。社長である父親にお願いして。




「お父さんがサッカー好きで乗り気というのもあって、話がすっごいスムーズに進んだおかげですね~」




「いやー……凄い子が入っちゃったね?」



「……漫画みたいだ、と今俺は猛烈に言いたい」



 高価な機械をポンと用意出来る彩夏に物凄いと弥一が思ってると、その横で摩央は色々超次元を期待した彩夏へ今言葉を返したかった。



 超次元は君だろうと。

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