伝説への第一歩
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
本格的な練習を週3回行い、試合前日は完全休養。練習も大事だが疲れを残さないよう、コンディションを整えるのも同じぐらいに大事だ。
全試合を戦い抜く事も想定し、立見はスタミナ強化や相手校の対策といった練習方法で時間を費やす。
この日も練習は終わり、明日は休養で身体を休める。その前に部室の方で前川戦のスタメンが此処で発表されると知らされ、部員達は部室に集合していた。
「では、前川戦のスターティングメンバー発表します。GK……」
京子の口から明後日試合に出るスタメンが発表。
「大門」
「!?」
古豪の前川戦で今回選ばれたGKは大門。2年の先輩安藤に代わり、1年GKが今回のゴールマウスを守る事が決まって、呼ばれた本人は一瞬自分だと信じられなかった。
これが大門の高校サッカー公式戦初出場だ。
「DF、間宮、神明寺、田村、後藤」
「(やった、やっと出番ー♪)」
DFで呼ばれた弥一の名前。大門に続いて弥一も、これが高校サッカー公式戦初出場となる。
選ばれた弥一は驚くよりも試合に出られる事が決まり、喜びの顔を見せている。
「MF、成海、鈴木、岡本、影山、川田」
更に大門、弥一に続いて1年から川田も選ばれる。選ばれた本人は驚きつつも喜ぶ。
「FW、豪山。メンバーは以上でベンチ……」
スタメンが発表され、控えメンバーも続けて発表。優也に武蔵の名前が此処で呼ばれ、彼らは遊歩戦に続いてベンチで出番を待つ。
「この前川戦が支部予選で大きな山になってくる事は間違い無い。相手は古豪と言われて強敵だが、チーム力は立見も負けてはいないと思っている。各自よく休んで試合当日へ備えるように」
最後に成海から部員へと次の前川に向けて言葉を発し、前川は強豪だが負けてはいなく、勝つつもりだと力強く伝えていった。
この日は解散し、それぞれが帰宅して練習で消耗した体をしっかり休める事に専念。
自宅のマンションへと帰って来た弥一。練習で汚れた練習着を洗濯機へ入れて洗濯機を操作。
温水機能付きで高性能の洗濯機。イタリアに留学していた時から世話になり続け、操作も慣れたもので弥一は暖かい湯の方で洗うよう設定。
サッカーの練習着は帰宅したらすぐに洗うのがベストで、40度ぐらいの暖かいお湯で洗うと汚れがよく落ちる。これが頑固な汚れだったら漂白剤なども使わなければならないが、今回はお湯で充分だ。
母親は会社の方で家には弥一だけなので、するべき事は自分でやる。パネル操作一つで風呂の準備を済ませ、弥一は沸くまで自室へと行ってスマホを見る。
「剣の新しいガチャ出てるなぁ。回そっと~」
自分のやっているスマホゲーで、女勇者が装備出来るピックアップの武器が実装されていた。この前は魔王の装備が取れたから行けるかなと、弥一はタップして回す。
「やった、来たー♪」
見事に彼は10連で目当ての剣を当てていた。課金しても中々出ない者達からすれば羨ましい強運だ。
これを弥一はグルチャで報告。
10連で勇者の剣来てくれた最高ー♪
てめぇ引き過ぎだ、こっち100連かけてやっと来たってのに!
弥一の神引き報告に速攻で反応してきたグルチャの摩央。彼は結構な痛手を背負いつつも目当ての物を当てており、摩央の悔しそうな顔が弥一には容易に想像出来る。
俺20連で勇者2枚抜きしたぞ
そこに加わるのは優也で、弥一を超える神引きをしている事を明かした。
何だそれー!? そんな神引きした事ねぇよ!
いいなー!
このグルチャには新たに武蔵も加わったが、彼は大門と同じく今やってるスマホゲーをしてないようで話に加わってはいない。
彼らの方は歩数系のスマホゲーを二人揃ってアプリに入れていたようで、そのゲームを共に話していた。
ただ、二人もガチャで盛り上がっている話題のゲームは気になっているようで、インストールしようかと考えているらしい。
グルチャでの会話もそこそこに、風呂の沸いたアナウンスが聞こえたので、弥一は浴室へ向かい浴槽にゆっくり浸かる。
明日は部活が休みと完全休養なので、朝練も気にしなくて済む。明日を考えなくて、のんびり風呂に浸かれる時間は至福だ。
「あー……アイス買えば良かった」
そういえば帰りにアイス買い忘れたと、風呂上がりの楽しみが無い事に入浴していて気付く。
だが、今更買いに行く気にはなれない。風呂から上がり冷蔵庫を開けた弥一は冷えたオレンジジュースで代用する事にして、それを友にスマホで動画サイトへと行き、お気に入りのグループの動画を見て過ごすのだった。
◇ ◇ ◇
4月29日 土曜日
完全休養を経た立見サッカー部。それぞれ支部予選2回戦が行われる会場へ集結すると、1回戦の遊歩よりも会場の観客は集まっている。
古豪前川と新設立見、両者大差で下し1回戦を突破して勢いのあるチーム同士。注目が集まっているようだ。
「おー、結構人居るねー」
弥一は朝食のカステラを食べながら会場を眺めている。今日が公式戦初出場という彼に緊張は感じられなかった。
「達郎ー! 頑張れよー!」
「!? じいちゃんにばあちゃん……!」
会場の席から声をかける者が居て、それに大門は気付く。祖父の重三と祖母の立江、2人が孫の出る試合を見に来ていたのだ。
「神明寺君、達郎をしっかり支えてやってくれぃー!」
「ちゃんと無失点に抑えますから大丈夫ですよー♪」
重三は弥一にも声援を送り、カステラを食べ終えた弥一は笑顔で手を振って応える。古豪相手に無失点という大胆な事を言いながら。
「……おい、神明寺」
「ん?」
その時、優也に肘でつかれて弥一は振り向いた。
弥一が向いた視線の先に、前川の名が入ったジャージを纏う男子高校生達が立っている。
「(この人達が……確か、右側に居るのがDFの河野洋介、左側のがMFの細野太郎、真ん中に居る人がキャプテンでFWの島田義夫)」
180cm、茶髪の短髪がDFで守備の要、河野洋介。175cm、黒髪の真ん中分けがテクニシャン、MFの細野太郎。177cmで長髪の黒髪が前川の点取り屋でキャプテン、FWの島田義夫。この3人が前川を支える要の3人だ。
そのデータを摩央は調べており、把握していたが実際目にすると迫力がある。流石は高校サッカー3年で、古豪を再び天下へと引き上げる事が期待されるだけあった。
「そのジャージ、君達も立見の者か」
前川のキャプテン島田は弥一達の着ているジャージが立見の物で、彼らも立見サッカー部の者と気付く。
「あ、初めまして。今日の試合よろしくお願いします」
相手が3年の先輩という事もあって、大門は島田達に向けて頭を下げて挨拶する。
「去年の立見は知ってるけど見ない顔だな。1年かお前ら」
前川の守備の要、河野はそれぞれの顔を見て1年だと分かった。当時の弥一達はまだ中学生で高校には入っていない為、河野が彼らを知らないのも当然だ。
「試合に出て来るなら1年坊主でも容赦しない」
前川の中盤を支えるテクニシャン細野。強気な発言で、負ける気など微塵も無いという感じだった。それは河野や島田も同じく負ける気は無いだろう。
「怖いなー、お手柔らかにお願いしますよー♪」
細野に対して弥一はマイペースに笑いかけると、それに対して細野はふいっと視線を逸らし、そのまま歩き去って行く。河野も続いて歩くと島田は「こっちこそよろしくな」とだけ返して、二人を追いかけて歩く。
「あの小さい1年、お手柔らかにって言った方の奴……前の試合出てないよな」
「デカい奴も出てなかった。あいつらは控えか、にも関わらず無失点に抑えるとか言ってたけど」
島田は歩きながら先程の事について話していた。そして細野は弥一が重三に言った無失点というのを聞き逃していない。つまりそれは自分達の攻撃を完全に抑えきるという事だ。
「どうせ控えで先輩頼りの奴だろ。1回戦を大差で勝って自分も強いと勘違いしてんだ」
河野は弥一を強敵とは考えず、ただの控えだと思っている。この試合も控えで出番は無いだろうと。
「おい、あいつが何処のポジションなのかは知らない。ただ仮にFWとして出たら河野。油断するなよ」
「心配すんな。出て来たらあんなチビ吹っ飛ばしてやる」
この時点で彼らはまだ、弥一が何処のポジションなのかを知らない。油断するなと島田から言われるが、河野は負ける気など全くしなかった。
明らかに体格差があり過ぎる。こっちが軽くショルダーチャージを仕掛けただけで、吹き飛びそうな小柄な身体。スピードがあって身軽そうだが、そこを気をつければ特に問題は無いだろうと。
「ユニフォーム着て多くの観客の前で試合とか久々だなぁー♪」
青いユニフォームを纏い、フィールドに出る準備は整う。立見に入ってから、初のスタメン出場に弥一は楽しげだ。
「デビューの相手がいきなり古豪の前川。しっかりやってかないとな」
ベンチに座る大門はキーパーユニフォームに袖を通し、グローブを身に付けた。守護神として自分の努めを果たそうと、気合が入る。
ただ、体に硬さは感じられて緊張はしている様子。
それを見抜いたのか、弥一は彼の背後へ回り込んで行動に出る。
「どーんっ」
「おわぁ!?」
座っている彼の両肩に、弥一は思いっきり手を置いた。それに対して大門はビックリするリアクションとなる。
「硬い硬い、そんなんじゃ良いプレー出来ないよー」
「だ、だからっていきなり……ビックリしたなぁ」
ドキドキとする胸を抑える大門に対して、弥一は変わらずマイペースに笑う。彼には緊張による硬さが全く無さそうだ。
「此処が伝説への第一歩だ。固くなってる場合じゃない」
「……!」
根拠の無い弥一の言葉。伝説を作ろうとしているが、1年生で出来るのか。普通ならそう思う事だろう。
だが、大門は不思議とその気になってくる。弥一の言葉がそうさせてくれるのか分からないが、彼となら本当に伝説が生まれるのかもしれないと。
「おい、そこの凸凹コンビー! 集合だから早く来いー!」
何時までもベンチに居る弥一と大門に対して、フィールドに居る間宮から大声で呼ばれた。
「あ、はいはいー」
「すみませんー!」
これに二人は急ぎ足でフィールドに共に向かう。
一部の観客の間に弥一と大門の姿に笑いが起こっていた。
締まらない第一歩への踏み出しだが、弥一のやる事に変わりは無い。
立見と前川、共に勢いあるチーム同士で注目の試合。そのキックオフは刻一刻と迫って来ている……。
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