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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
第3章 全ての始まりとなった者

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幸せからの絶望

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 冬の選手権、立見の挑戦は終わり12月24日。



 世間ではクリスマスイブ。



 町では、その雰囲気一色となる一方で立見サッカー部は普段通り練習が行われていた。



 来年どれくらいの後輩が来るのか分からないが、先輩として恥ずかしくないよう、力をしっかりとつけておく必要がある。




 紅白戦、勝也は一人二人と個人技で躱して右足でシュート。右隅へ飛んだ球にキーパーのダイブは届かず、ゴールネットを揺らした。



「すげぇな勝也の奴。また腕……いや、足を上げたか?」


「本当、此処でまだ上達して行くんだな」



 勝也のプレーを見た成海と豪山の二人は、彼が上手くなっていると感じた。好調な姿に来年も活躍してくれる事を予感させる。



「二人も、これからまたレベルアップしてくれないと困る」



「それは勿論、頑張っていくよ」



「これ以上調子乗らせねぇぞ勝也ー!」



 二人が勝也の成長を見ていると、京子から自分達も成長しろと冷静に言われてしまう。成海は苦笑しつつも練習を続け、豪山はボールをキープする勝也に向かって行った。








「智春の野郎、派手に来やがってぇー」



 豪山が自分を止めに来た事を言う勝也の表情は晴れ晴れとしていて、学校からの帰り道を京子と共に歩く。



「顔、嬉しそう」


「そうか?」



 隣を歩く京子は言葉が文句っぽいのに対して、顔が嬉しそうだというのをそのまま伝える。彼の成長が嬉しいのだろうと、付き合いが長くなったせいか京子も分かってきていた。



「なぁ京子。ちょっと町……歩かない?」


「うん」



 普段はそのまま駅を向かう勝也だが、今日は彼女を誘って立見の町を歩く。



 クリスマスイブという事で町はその雰囲気一色となっており、各店舗ではクリスマス関係の商品が多く売り出されている。



 何組かの男女が寄り添って歩く姿が見えれば、勝也は今の自分達も周囲から見て、そういう仲なのかと考えてしまう。




「クリスマスかぁ。欲しいのあったら京子なら炎のシュート撃てる所が見たいとかそんなんか?」


「そんな非現実な頼みはしない。もう現実のサッカー分かってるから」



 最初の漫画寄りの知識の京子を思い出せば、当時の彼女らしい願いかなと勝也は明るく笑った。


 京子にとっては昔の話で、今はそういう事を言わない。サッカー部のマネージャーとして経験を積み重ね、現実と漫画を理解している。



「ホント、出会った時あれはマジで驚いたし!」


「からかうつもりで誘ったの?」




「ちげぇよ」



 笑っていた勝也が急に真顔となって京子と向き合う。これに京子も勝也の顔を見て、互いに見つめ合う格好となった。





「これ以上は抑えられなくて我慢の限界だから言う。俺……京子、お前が好きだ」


「!」



 突然の勝也の告白に京子は驚かされ、その中で勝也は更に言葉を続ける。



「中学からずっと、ずっと好きって思ったけど告白の勇気が出せなかった。だから今まで仲良い友達でいたけど……もう友達じゃ嫌だ。俺はお前とそれよりもっと特別な関係になりたい」



 告白する勝也の顔は赤いが、京子の事をしっかりと見つめる。遊園地の時に言いそびれた事、今回は残らず想いを伝えると勝也は決めていた。



 そして勝也が一通り言い終えると……。







 ぎゅっ





 京子は勝也の首の後ろに両手を回し、勝也に抱きついた。



「!? き、京子……?」



 これに勝也の心拍数は一気に上昇。身体も熱くなっていくのを感じて、この時だけ冬の寒さなど完全に忘れてしまう。



「私は初めて貴方を見た時からずっと想ってた。あの試合を見た時から……」



 勝也の耳元で京子も自分の想いを伝える。勝也が想いを抱く前よりも、京子は想っていた。あの小学生時代からその想いをずっと秘め続けていた。


 彼女もまた友達ではもう満足出来ない。



 それがやっと通じて京子も嬉しかった。




 至近距離で勝也は京子の微笑んだ顔が見える。今まで見た京子の姿で最も可愛く、最も美しい。




「京子……」




 今のこの京子を誰にも見せたくない、手放したくない、その想いから勝也の顔は京子の顔へと近づく。勝也の両手は京子の背中へと回していた。




 互いの唇が触れる所まで近づき勝也、そして京子も目を閉じる。






 想い合う二人が唇を重ねた時、空から雪が降って来ていた。




 天が新たなカップルの誕生を祝福するかのように、世間はホワイトクリスマスを迎える。









 季節は新たなる年を迎え、勝也は春から高校2年に進級。後輩を迎え入れる側となる。




 立見サッカー部で進学が決まり、この部に入る事を考えている中学3年を対象にした練習会を企画し、実行してきた。



 来るのか怪しいと最初は思っていたが、やってみれば新設された1年だけの部というのが、SNSの口コミで広まっていたのか人は集まって来る。



 その中にはサッカー経験者達が多く居て、中でも中学ベストイレブンにも輝いたDF間宮啓二、その友人でシャドウボランチのMF影山真樹、快足自慢の右サイドバック田村草太、若干小柄ではあるが高い技術でゴールを守るGK安藤次郎。



 優秀な数人が立見に入学すると、サッカー部へ入部してくれた。



 聞けば新設されたサッカー部に興味が元々あって、1年目で強豪相手に2点取っている姿に惹かれ、入る事を決意したらしい。



 去年のあの本気のサッカーは無駄ではなく、おかげで新たな後輩達が来てくれたのだ。



 彼らをしっかり鍛えて、早く高校で戦えるレベルに引き上げる。



 先輩として勝也は気を引き締め、後輩達を指導していこうと決めた。




「常に全力で走ろうとするなよー! そんなもん80、90分持つ訳ねぇからな! はい、此処でダッシュ!!」



「ぐ、おぉぉーーー!」


「はっ……はぁ……!」



 メガホンを持つ勝也はグラウンドを走る後輩へと声をかけ、ダッシュするタイミングを伝える。それに合わせ後輩の1年はダッシュをかけていた。



 先頭を走っている間宮は中々ガッツあるようで、あの気迫は2年の中でもそうはいない。影山は少し疲れが見えるが、間宮にピタリと背後霊のようについて行く。正反対のタイプで高いスタミナを持つようだ。



 スピード自慢の田村は最初こそ流石の足で先頭を走っていたが、調子に乗り過ぎたか後半はバテている。体力作りにペース配分が今後の彼の課題か。




「……」



 京子は勝也の指導する様子をマネージャーの仕事をしながら見ていた。




 新たなる部室は3月に出来上がり、部員の間では着替える場所にやっと困らなくなると喜ぶ者が多かった。



 思ったよりも大きく立派な部室が出来上がって、校長は随分と奮発してくれたらしい。




 今日も練習が終わって各自が帰宅していき、外の1年が片付けをする中で勝也は部室でスマホを見ている。



 手が空いたと思い、京子は勝也の姿を見て話しかけた。



「勝也、最近どうしたの?」


「どうしたのって何がだよ?」



 京子に話しかけられ、勝也はスマホの画面から京子の方を見る。



「前は積極的にトレーニングしたりと身体を動かしてたのが、最近は後輩の指導が多くなってる」



「そりゃあ、期待のルーキー達にはいち早く試合で出せるようにしておきたいからな。監督やコーチによる指導、今ならちょっと分かる気がするよ」



 指導される側から指導する側へ、プレーしていた時に感じなかった難しさを感じながらも、間宮達を早く実戦で使えるようにしておきたい。



 これが監督とコーチの気持ちかと勝也は小さく笑った。



「でも、自分の練習参加が少なくなってる。軽くボールを蹴るぐらいで」



「ああ……心配してくれてんなら大丈夫だ。別に怪我とかしてねぇからな」



 勝也が何処かを痛めていて、練習を控えているような様子は無かった。京子から見て彼は何処も怪我をしていない。ただ、それでは何故自分の練習時間を削り、最近は後輩の指導に費やすようになったのか疑問は消えないままだ。



「そう……」



 そこに京子を呼ぶ後輩の声が聞こえてきた。



「ほら、後輩が呼んでるから行ってやれ先輩」



 勝也にそう言われた京子は疑問が消えないまま部室を後にして、呼んだ後輩の元へ急ぐ。









 この時は全く思っていなかった。



 これが最後になるとは。









「勝也」



 1年も大体が帰って行き、先程の話の続きをしようと京子は部室へ戻って来る。



 だが、その部室は先程と全く雰囲気が違う。




 先程まで日常を過ごしていたはずの勝也。




 彼が部室内で倒れていたからだ。




「!? 勝也!」



 倒れている彼の姿を目の当たりにした京子は駆け寄り、勝也を呼ぶも勝也は反応を見せず、意識を失っている。




 冷静な京子もこの時は動揺していて、震えた手でスマホを持つと病院へ連絡。


 


 手と同じように状況を説明する彼女の声も震えていた。




 部室はあっという間に慌ただしくなっていく。



 顧問の幸が職員室から駆けつけ、更に帰宅したはずの成海や豪山も慌てて駆けつければ、彼の容態を心配する。




 やがて救急車が到着。勝也は救急隊員の手によって、ストレッチャーで救急車に乗せて病院へと搬送された。






 幸、成海、豪山、京子の4人も搬送された病院へ来ており、それぞれが深刻な表情を浮かべている。




 京子はこの時、深く後悔していた。




 異変には自分が気づいていたはずなのに、何故もっと早く言って対応が出来なかった。何であの時言わなかったんだと、心の中で自らを責め続ける。




 震える京子を見た幸は彼女へ寄り添う。




 病院に勝也の父と母が駆けつけて、更に兄の太一も慌ただしくやって来た。





 今勝也はどうなっているのか。それは家族である彼らにしか分からず、部外者である4人は立ち入る事が出来ない。




 とにかく勝也の無事を願うしか4人にはする事がないのだ。








「うあああああーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」




 その時、太一の泣き叫ぶ声が聞こえた。




 4人は彼の声がする部屋へ向かう。





 勝也達の居る病室内、太一の声が此処から聞こえたのは間違いない。




 他の患者の声が聞こえてくるも、この時の彼らは何も耳に入らなかった。








「あの年で末期癌なんて可哀想に……」



「高校生ぐらいだろあの子……? 早すぎるよ……」










 彼らは見てしまった。



 深い悲しみに襲われる母、その肩を抱きつつ涙する父。



 床に突っ伏して泣き叫ぶ太一。








 そして病院のベッドで眠り、もう永久に目覚める事の無い勝也の姿を。









 幸は優秀な教え子を失い、成海と豪山は親しい友人を失い、京子は愛する恋人を失った。




 インターハイの予選前。一同を絶望の底に叩き落とす出来事は彼らにとって一生忘れる事は無い……。







 神山勝也 16歳 立見高等学校2年生




 末期癌によってこの世を去る。



 あまりにも早すぎる死だった。

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サイコフットボールの応援、ご贔屓宜しくお願いします。

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