驚きの練習試合発表
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
1年と2年の紅白戦は終了。結果は0-0のスコアレスドロー。
1年も2年も攻め合ったが1年は弥一。2年は影山と、それぞれが陰でパスをインターセプトしたりと事前に攻撃を潰し、思うような攻撃を互いにさせなかった。
シュート数では1年の方がシュートで終わる事が多かったので上回り、ボール支配率はテクニックで勝っている2年が上だ。
3年の間では2年が有利だと思われた紅白戦で、この結果は意外だとざわついている。
「っはぁ~、勝てると思ったのに~!」
弥一は大の字で倒れると夕焼け空を見上げる。先輩相手だろうが勝ちに行った結果、引き分けで終わって満足はしていなかった。
「けど、上出来だよ。後半の終わりとか結構足止まってて攻め込まれたりしてたからさ」
二つのドリンクを持って来ると、自分の分を飲みながら大門は弥一の分を手渡す。
後半は1年の大半がバテている中で優也と弥一が奮闘。大門もコーチングしたり、時々飛んで来る遠めのシュートをミス無くキャッチしたり、堅実なプレーでゴールを守っていた。
「君……結構やるね。イタリア留学は伊達じゃないとよく分かったよ」
「おわ!?」
上半身を起こし、ドリンクの蓋を開けようとしていた弥一は後ろから急に現れ話しかけられて驚く。
1年のチャンスを何度も潰して、今日の2年チームのMVP級の働きをした影山。
彼が近づいていた事は弥一だけでなく大門も気づかず。
「先輩も結構やりますよー。あんな嫌なマークはイタリアでも中々見ないですし」
影山の守備はハッキリ言えばやりづらく、表は間宮を中心としたDF陣が目立ち、目立たぬ所で影山は攻撃を潰していた。
弥一からすれば間宮達よりも影山の方が嫌な相手だったようだ。
「僕は昔から影薄いみたいでさ、目立たないみたいなんだよ。それが長所になってて僕のマーク気づかれない事が多いんだ」
サッカーで培った物とは違い、影山の影の薄さは生まれつき。
これを最初は影山も良しとはしてなかったが、サッカーを始めてコーチから言われた。君のマークは素晴らしいと。
どんな天才プレーヤーも影山のマークは皆が嫌がるだろうと絶賛され、以降はボランチとして長所に磨きをかけてきた。
シャドウボランチとして中学時代に間宮と同じチームで支え、間宮が表で活躍してベストイレブンに選ばれ、影山は目立つ事なくチームに貢献。
「けど、初めてだ。試合中にあそこまで僕の事を見てくるプレーヤーっていうのは」
今回も陰で目立たないサッカーを行い、誰にも気づかれないと思っていたが、今回は弥一が無視せず見ていた。
他の2年と比較しても違う雰囲気を纏う影山は、弥一からすれば目立つ存在だ。
ただ、影山としては嬉しく思う。普段は気づかれない自分だが、敵とはいえこっちを意識する者が居た。ちゃんと見てくれていると。
そこまで見られていたのは影山の才能を見抜いたコーチと、幼い頃から付き合いがある友人の間宮以来だ。
「先輩みたいな人が味方で居てくれるとありがたいですよー、僕らで立見の全国大会無失点優勝を実現させちゃいましょう♪」
「え、ええ!? 俺も!?」
「当たり前でしょ? GKの力無しで常に完封は無理に決まってるから!」
弥一は影山、更に大門も混じえて自分達で全国優勝。更に全試合無失点で制覇するとマイペースながら意気込んだ。
突然、自分も数に入れられた大門は困ったように右手で頬をかく。
「まだ立見は予選もベスト8止まりだってのに、お前マジで言ってんだなそれ」
そこに弥一達へ近づいて来る間宮の姿。身長で勝っている川田を抑え、優也のゴールバー直撃のシュート以降は、1年のビッグチャンスを一切作らせなかった。
「えー? 嘘って思われてたんですか? 酷いなぁ、本気ですからねー!」
それだけ言うと、喉が渇いていた弥一はペットボトルのミネラルウォーターをゴクゴクと飲む。
「おい大門、お前凄ぇジャンプしたな。あのクロスをキャッチされるとは思ってなかったぞ」
田村は大門に近づいて声をかけていた。飛び出すのに躊躇するエリアギリギリを狙ったはずが、大胆に飛び出してキャッチを狙ってきたので驚かされたようだ。
「あ……ええと、デプスジャンプやボックスジャンプの自主トレの成果……ですかね。身体を柔らかくするのに柔軟体操もしたりと」
高校入学前から自主トレを欠かしていなかった努力家の大門。ジャンプ力向上や瞬発力を養うトレーニングを中心に行って、自らを高め続けた。
「なるほどー。俺とかお前と比べて身長足りてないから、もっとそういうのも取り入れないとなぁ」
2年GKの安藤も大門の話を聞いていて参考にし、身長が足りない分ジャンプで高く飛ぶ。その為のトレーニングを既にやっている後輩に負けないよう、自分もやろうと計画する。
紅白戦が終わって1年と2年の皆が話している姿は、それぞれの距離が縮まっていると感じさせる。成海はフィールド外から見ていて、今回の紅白戦はまだ早いという不安もありはしたが、結果として正解だったと彼らの姿を見て確信に変わった。
部室に部員達が集まり、キャプテンの成海が何時も通り今日の練習終了を告げる。
「今日はマネージャーの倉石から報告があるそうだ」
解散かと思えば成海の言葉の後、京子が部員の前に進み出た。
「皆さん、他校との練習試合が一週間後に決まりました。相手は静岡の八重葉学園」
「!?」
練習試合をやると聞けば、弥一を除く部員達が大きくざわついてくる。
「マジで!? あの八重葉が何でわざわざ俺達と!?」
「超高校級のあいつらとサッカーって嬉しいような怖いような……」
興奮する部員や驚いて戸惑うばかりの部員も居たりと、部室は一気に騒がしくなっていた。
「ねえねえ大門、何か皆騒いでるけど八重葉学園ってそんなヤバいの?」
「え? し、知らないのか神明寺君!? ってイタリアに居たから無理もないかな……」
隣に居た大門の袖を引っ張りながら見上げ、八重葉について尋ねられた大門は何も知らない様子の弥一に説明を始める。
日本の学生でサッカーに打ち込む者ならば誰でも知っている有名校だ。
八重葉学園
インターハイや選手権といった大きな大会で優勝した実績を持ち、静岡の名門校で何人かのプロ選手が此処から出ている。
1980年や90年代にかけて、サッカー王国と呼ばれていた当時を思い出させるという声も上がるぐらいで、今の高校サッカー界の王者と言っても過言ではない。
「彼らは東京遠征を予定しているようで、立見と試合をした後に東京の強豪校と練習試合を予定してるそうです」
京子が説明を続け、八重葉学園は東京遠征の最初の試合に立見を選んだ事が分かる。
「俺達はウォーミングアップって所かな?」
「そりゃあ、天下の八重葉が練習試合で本気を出すとは思えないから……そうなるだろ」
八重葉は立見と本気で試合をするつもりは無く、強豪と戦う前の調整役として立見を指名したのかもしれない。
まだ、どういうつもりで最初に立見を選んだのか知らないが、現実的に考えられると部員達は話す。
立見は東京予選ベスト8まで勝ち上がっている。名将のいない学校で、そこまで勝ち上がれば注目はある程度浴びるが、それも全国から見てまだまだ無名止まりだ。
海千山千の全国にとって、立見を調整程度にしか思っていないとしても不思議ではないだろう。
「スタメンは前日に発表する。それまで各自練習に励むように、それじゃあ解散!」
成海の言葉で今日の部活は終わり、それぞれが八重葉の事を話しながら帰宅準備を進める。
◇ ◇ ◇
「何か……凄い事になってきたよな、俺が主務始めた途端にもう高校で一番強い所と練習試合なんて」
弥一達1年の4人は揃って立見駅へと歩いていた。強豪中の強豪である八重葉との練習試合が決まった事は、試合に直接参加しない摩央にも衝撃だった。
とりあえず少しでも何か情報を仕入れようと、摩央はスマホで八重葉学園について検索をしている。
「この間選手権で八重葉のサッカーを見たばかりだったけど、嘘みたいだよ。現実で会う時がこんな早く来るなんて」
「……俺も、こたつでみかん食って見てた」
大門、優也の両名も八重葉の試合を自宅のテレビで見ていた。超高校級のプレーヤー同士の奏でるサッカーによって、選手権を制覇する姿は忘れられない。その時に数々のスーパープレーが飛び出した光景は、今も目に焼きついている。
お世辞にも一流とは遠く歴史の浅い高校サッカー部が、練習試合とはいえ高校サッカー界の王者とサッカーをする。勝ち抜いて全国へ行かない限り無理だろうと思っていたが、予想外過ぎる機会だった。
「静岡って確かぁ……お茶とかうなぎパイってお菓子が美味しい所だよね?」
「は?」
静岡の八重葉をサッカー部の中で唯一知らないイタリア帰りの弥一は、その地方の美味しいグルメを呑気に考えている。
こんな時でもマイペースに静岡について知っている事を言う弥一に、3人は揃って呆気にとられてしまう。
「え、違った?」
「い……いや、合ってるね。うん」
3人のリアクションを見て弥一はイメージが外れかと思ったが、大門だけは合ってると答えた。
「……静岡の菓子は何もそれだけじゃない。自慢のお茶と合わせて作られるうなぎサブレや静岡抹茶チョコレートも美味いぞ」
「えー、何それ美味しそうー♪」
意外と銘菓に詳しいのか、優也はうなぎパイ以外の静岡の菓子について教え、弥一は美味しそうな菓子を聞けばゴクッと喉を鳴らす。
部活帰りなので空腹というのもあった。
「ねーねー、何処かでうなぎパイかうなぎサブレか抹茶チョコ食べてこーよー。それでお茶も飲みたいー」
「そう言われても、この辺りに売ってるのかな……此処って思いっきり東京だし」
「(それってまさか静岡を食って倒してやろうって意味じゃないよな?)」
3人へと静岡の菓子が食べたくて弥一は前を歩く大門の袖を引っ張り誘う。
摩央は弥一を見て実は高校サッカーの王者静岡を食う。ジャイアントキリングを狙っているのではと思ったが、ただ食べたいだけだろうなと思い直す。
結局近くに静岡の銘菓は都合良く売っておらず、しょうがないのでよく似た抹茶のチョコレートを4人で買い食いしたのだった。
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