不思議な天才
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
陽が昇り人々を明るく照らす。此処イタリアでは快晴であり、太陽の下で屋外スポーツをしている者にとっては良い天候に恵まれる。
芝生のグラウンドを走りボールを追いかける選手達に人々は声援を送る。ユースチーム同士によるサッカーの試合が行われて片方が攻め、片方が守り激しい攻防が行われていた。
「(抜けた!)」
中盤でボールキープしていて相手を引き付けた味方選手から強めの浮かせたボール、FWジージョはこれに反応していて、早くもダッシュを開始して浮き球に追いつこうとしている。DF達は対応が遅れているようでジージョへの対応が追いつかない状態だ。
このボールを受け取れば相手キーパーと1対1、1点取れるビッグチャンス。
ヒュッ
しかしジージョがこのパスを受け取る事は無かった。
何故ならその前に影が横切ったかと思えば、そのボールを蹴り出してクリアしたからだ。キーパーの飛び出しか。それは無い。ジージョはキーパーの位置を見ていた。あの位置から此処までいかに猛ダッシュしようが、動き出しの早かった自分が確実に早いはず。
だったら誰がボールをクリアしたのか。
「ふ~、危ない危ないっと」
軽くホコリを払う仕草を見せる両チームの中でも一際小柄な少年、170cmのジージョの下からその声は聞こえてきた。
短髪よりやや長めで黒髪、黒い瞳、身体が小さく身長は150cmあるのかすら怪しい。更に細身であり、このポジションにこんな奴が居るのかとジージョは信じられないと思っていた。
しかし今の決定的な1点ものと言っても過言ではない。ビッグチャンスを阻止したのは間違いなく小さな少年。それも周りがイタリア人という中で彼は違う。
日本人だ。
「(まぐれだ!あんなひ弱そうな日本人のチビが本場のカルチョについてこれるはずが無い!)」
ジージョは今のは自分が油断しただけだと言い聞かせる。自分はこのチームのエースで、将来はイタリア代表として国際試合のピッチに立つ事を目指す。
此処でこんな貧弱そうなチビに負けてる場合じゃない。今度こそゴールを決めてやろうとジージョはチャンスを待つ。
クリアされたボールから敵に自陣深く攻め込まれるが、DF陣のナイスディフェンスによってこのピンチを脱出するとジージョは気づく。
味方のボランチが攻撃に出ようと前線へスルスルと上がって行ってる。自分へのマークはあのチビではない別のDFが居た。
なら此処は自分は囮となって、ボランチの走り込むであろうスペースへとポストプレーでそこへと送る。やる事が決まればボールはジージョへと送られてきた。
相手DFは自分がこのままキープか強引に突破かシュートと読む。だが此処は囮。チームプレーに徹して勝利を狙う。
ジージョはボランチの為に走り込んで来るであろうコースを予測して、送られたパスをトラップ。その位置へとパスを返した。
これに誰かがこのパスを受け取る。ボランチがボールを取った。これでシュートチャンスだとジージョは確信する。
だが…。
「!?」
今ジージョは気づく。味方ボランチがボールを受け取ったかと思えば、その前にインターセプトされている。
「此処通したら不味いからね、っと!」
カットしたのはさっきビッグチャンスを阻止した日本人のチビ。またしても彼によってチャンスが潰され、日本人の彼はそのまま近くに居た味方へとパス。
「右甘いからそのまま行っちゃってー!」
そして彼は後ろから声を出して指示。
「(くそ!なんなんだ、何だよこのチビは!?)」
再三のチャンスを潰され続けてジージョの苛立ちは溜まるばかりだった。強靭なフィジカルとは全くの無縁に思えるDFに、これ以上好き勝手される訳にはいかない。
試合も後半戦を迎え、此処まで0-0のスコアレス。決定的なチャンスを潰され続けるも、味方も奮闘しゴールを許していない。1点でこの試合が決まる確率が時間経過につれて高まってきた。
そんな中ジージョへと再びボールが渡る。目の前に相手DFが居るもボールを股の間へと通してゴールへと迫っていく。
そこに立ち塞がるのは此処まで決定的なチャンスを潰してきた日本人。彼の姿を見てジージョはギラリと睨む。
「(ボール持ってりゃこっちのもんだ!抜き去ってやる!)」
テクニックには自信があった。屈強なDFを抜き去ってゴールを決めた事は何度も経験済みだ。この日本人も同じように躱して1点を取る。
重心を右へと傾かせ、それを見た日本人はそこへ行くと構えていた。
「(甘い、フェイクだ!)」
しかしこれは罠。
ジージョは右へ行くと見せかけて左へと動く。ボディバランスにも自信がある。この相手がショルダーチャージで止めに来ようが、体格差で弾き飛ばせる。
これで借りは返した。そう思った時……。
スライディングでジージョのボールをそのまま蹴り出してタッチラインを割った。
抜き去ったと思っていたジージョは呆然としていた。
「何でだ、何でこんな止められる!?まるで分かってたかのように……!」
相手は小柄な日本人。体格差はあって自分が有利のはず。それが何故かチャンスを潰され続け、止められてしまう。
訳がわからないと頭を抱えるジージョ。それを横目に小柄な日本人の少年は立ち上がる。
「(分かってたかのようにっていうか、分かってたからね。心の声しっかり聞こえてたし)」
まるで分かっていたかのような先回りしてのプレー。
しかし彼は本当に前もって分かっていた。
日本から来た天才DF神明寺弥一
この少年は本当に心が読めるサイキッカーなのだから。
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