魔法都市②
「そういえばお兄ちゃんこっち来るの早かったよね、前の学校は?」
「とりあえず手続きだけしてこっち来た」
「え、クラスメイトとかにお別れとかは……」
「しても悲しいだけだし良いよ。ちょっとした冬休み明けのサプライズだ」
「お兄ちゃんが良いんなら良いんだけど」
「ある意味一年生で助かった」
人混みを避けながら歩いていく。
小さい子供から大学生まで、とにかく若者が多い。
そういう場所なんだろうが……田舎者には珍しい光景だね。
《相野市に落とされた隕石は、あろうことか跳ね返るように宇宙へと帰っていき、なんとその跳ね返る瞬間には、地面に人影のような姿が》
「うわぁ」
都会あるあるの街中にあるでっかいスクリーンも完備。
チャンネル変えていいかな?
リモコンどこ?
「ははは、お兄ちゃん目逸らした」
「……」
「ちょっとしたトレンドだよこの映像」
「俺は何も知りません」
☆
アレから歩いて十数分。
辿り着いたは新たな住処。
妹に連れられるままに、厳重なロックを抜け、エレベーターを昇り……。
「はー着いたぁ」
「タワマンじゃねえか!」
純白のソファーにだだっ広いリビング。
家具も完備。
窓からの光景は民を見下す王の如く。
「落ち着かねー!!」
「羨ましいなぁ。私まだ寮なのに……」
「そっちのが俺は良かった」
田舎のボロマンションからコレってどうなの?
待遇の差が凄いんだけど。
「それじゃお話ししよっか。お兄ちゃん」
「……はい」
「そんな身構えなくても」
そしてブチ落とされるテンション。
こんな場所に居るのに。
俺の感情、急転直下。
「じゃ、単刀直入にいくよ」
「……」
俺達はソファーに座る。
静かに切り出す優奈。
そして――
「お兄ちゃんには、魔法学園……『星丘魔法学園』に入学してもらうって」
「……は?」
口を閉じるまで十秒ほどかかった。
思考が追い付かない。魔法系列の高校に入らされるなんて思っていなかった。
魔法都市でも、一応魔法を扱わない所もあると思っていたし。
しかもその高校が――優奈と同じ、『星丘魔法学園』だと?
「魔法が使えない俺がなんでそんな場所に行かなきゃならないんだ? というか普通に無理だろ」
それは魔法の道を進む者にとっては憧れの学び舎だ。
妹は魔法の才能が認められ……見事に星丘魔法学園へ入学を果たした。
そう――『魔法の才能』が無ければ、その門に入ることさえ許されない。
俺にはその才能が全く、欠片も無いのだ。
「……その、異能持ちって世間的に扱いが酷いよね」
「そりゃそうだろ」
「星丘は、近年から異能持ちの人たちを取り入れてるの」
「なんで?」
「話すと長くなるから略すけど、最近の魔法界隈は『異能』も魔法として扱うように……」
つらつらと話す優奈。
……まあ、これに関してはテレビで見た。
『異能持ち』の差別を反対する組織とかが居て、ソイツらは異能を魔法と同列に扱うよう世界に訴えかけている。
余計に酷くなるだけだと思うけどね。
「それで平等主義のご時世に配慮したのが、その学校ってことか優奈?」
「……ちょっと違うと思うけど。それでいいかな」
「んじゃ、俺がそこに行かなきゃいけない理由は?」
「お兄ちゃんって危なっかしいでしょ。だから私達の手が届く範囲に置いておきたいの」
「そんな危険物みたいに」
「事実だし」
「……」
「納得した?」
……納得しないと言っても駄目だろう。
そんな視線を彼女に送る。
「あと理由はもう一つ」
「?」
「お兄ちゃんには……もう一度だけ、この世界に足を踏み入れてほしいの」
神妙な顔で言う優奈。
「そしたらきっと『何か』が見つかると思う……ってお母さんが」
「何かってなんですか」
「そ、それは」
曖昧な言葉だった。
いたずらに俺は質問をする。
「昔のお兄ちゃんにとっての、『魔法』みたいな」
「……今もだよ」
「!」
「ずっと俺はそれに憧れ続けてる。当たり前だろうが」
母さんは日本で五本の指に入る魔法使いの一人。
父さんは魔法を駆使して治安を守る『魔法警察』の幹部。
こんな両親が居て、憧れない方がおかしいってもんだろ。
それに――その魔法という力にも。
物心着いた頃からずっと、俺は両親たちのような魔法を使うことが夢だったんだ。
それは今も変わらない。
ほんの少しでもその力が使えるのなら、こんな『異能』なんてすぐに投げ捨ててる。
捨てられるのなら。
これがいくら便利で強力なモノだったとしても。
「うぅ、ごめんね……」
「っ――」
彼女は悲し気な表情に変わる。
ああクソ。
これじゃまるで、妹に全て持っていかれた哀れな兄みたいになってるだろ。
違うんだよ。
彼女のことは応援してるし、恨みも嫉妬も抱いてない。
自分なんかよりも百倍価値のある人間だと思ってる。
それでも、俺の存在が家族全員を不幸にする。たった一人の出来損ないのせいで。
こんな風に。そして今までもずっと。
やっぱりあの時、隕石にそのまま潰されていたら良かったかもな。
「ごめんなさい、お母さん達にもう一度相談して――!」
「――良いよ。言う通り星丘に入る」
「で、でも」
「家族全員がそれを望んでるんだろ?」
「……うん」
「それなら入る。話はこれで終わりだ」
これ以上、妹の悲しい顔を見たくなかった。
そして――ほんの少しでも、母さんが言う『何か』に期待して。
先行きは見えない。
むしろ不安しかないが、一筋の希望はあるかもしれない。
自分のためにも家族のためにも。このままじゃ駄目なんてずっと思っていたことだ。
そういうわけで俺は、『星丘魔法学園』に入学を決めたのだった。
☆
「……じゃ! 入学なんだけど、その前に試験があって」
「は?」
「一週間後、筆記と実技試験があるから!」
「……」
「星丘って転入試験初めてらしいけど、多分お兄ちゃんなら大丈夫!」
「何が大丈夫なの……?」
ごめん母さん。
やっぱ俺、入学無理そう。
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