表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
内務省所属平和庁直属特務機関「転生局」  作者: 塚山 凍
四章 鏖殺人と「人間」の少女
55/200

ある異世界転生者の家族に関する資料(転生局倉庫に保管されている記事より抜粋)

(王都日報より)


〈速報:アグラ市に再び異世界転生者出現〉


「転生局定例記者会見によって、先日アグラ市において移動型異世界転生者が現れ、転生局職員の手で殺処分されたことが分かった。アグラ市において異世界転生者が確認されたのは、今年度ではニ度目。


 転生局によると、本記事発行の三日前にアグラ市長から通報を受け、アグラ市内のとある民家へと緊急出動した。通報内容は、『異世界転生者が魔法を使用する姿を目撃した』というもの。


 会見に同席した転生局副局長の話では、発覚は通報の更に二日前。異世界転生者の潜伏先の近くで、偶然にも火事が起きたのが切っ掛けである。消防団の出動が遅れたことで大火事になりかけていた中、野次馬の中にいた男性が炎に手をかざすと、一瞬にして炎が消失したという。

 結果、その光景を目撃した人物が市長に相談。魔法の発動に間違いないと判断され、速やかに通報された。


 処分された異世界転生者は、播磨ダイキチ(地球の表記では大吉)と自称していた男性。

 年齢は三十歳前後と見られるが、戸籍は偽造品であったため、正確には不明である。

 転生局副局長の訪問に際して炎を操る魔法により反撃したものの、その場で処分された。


 転生局は、『この地域に潜む異世界転生者は一人ではないかもしれない』として、近隣住民に注意を呼び掛けている」






(グリス通信より)


〈アグラ市における異世界転生者 ──今日の社説──〉


「……今回の話題は、先週世間を賑わせた、アグラ市における異世界転生者の出現についてである。

 アグラ市はグリス王国南部に存在するが、比較的北部にも近い。

 北部に近い都市で長期間に渡って異世界転生者が潜んでいたと知り、恐怖に駆られた王都の読者も多いだろう。


 加えて今回の異世界転生者は、移動型の可能性が高いようだ。

 今年度始めにもアグラ市で異世界転生者は見つかっているが、これは再誕型であり、生まれてすぐに処分されたことで被害は出なかった。


 しかし、今回は移動型である。

 ご存じの方も多いだろうが、移動型は再誕型に比べて早期に強力な魔法を使えるようになり、危険度は高い。

 事実、この度処分された異世界転生者は、炎を操ることが出来る程の強力な魔法を有していたようだ……そんな存在がこの国に潜伏していたことを考えると、背筋が凍る思いである。


 本来なら衣服が奇妙であるために早期に発見しやすい移動型異世界転生者が、どうして長期間潜伏できたのか、早期に原因を究明することが重要だという意見は多く……」






(月刊グリグリパラダイスより)


〈我が社だけの独占スクープ!アグラ市の異世界転生者に協力者の影!?〉


「つい先月、世間を騒がせた異世界転生者のことは読者諸君もよく覚えているだろう。

 この度、我が社に属する記者が、この件についてとある驚きの証言を手にいれた。

 今回は、その証言について語ろうと思う。


 パタン……。

 うっ、今、読者の人たちがこの本を閉じる音が聞こえた気がするぞ。


 だが、待ってほしい!

 確かに本誌は、真面目な人なら一生に一度も買わないであろう三流実話雑誌だ。

 これまでもユニコーン発見だの、ドラゴン目撃だの、怪しい記事ばかり書いてきた。


 しかし今回だけは、珍しく確かな証言が手に入ったのだ。

 どうかお聞き願いたい。


 ……事件が起こったアグラ市に我が社の記者が潜り込んだのは、異世界転生者発見から二週間後のことだ。

 目的自体は、そう大きなものではなかった。

 そこそこ強力な魔法を扱える異世界転生者が現れたことが話題になったから、それに便乗しようとしただけ。

 我が社では日常茶飯事である。


 事件から時間が経っていたせいか、取材では大した成果は無かった。

 ただ、廃墟のようになった播磨ダイキチの家が見えただけだ。

 住民たちに話を聞いたが、どうも余所者に厳しい場所らしく、碌な話を聞けなかった。


 しかし諦めかけた記者に、とある形で幸運が舞い降りた。

 何と、事情通の魚屋に出会ったのである。


 アグラ市は内陸にあり、海がない。

 しかし魚屋の中には、そんな内陸部に魚を売りにいく者もいる。

 そこでアグラ市を出入りする魚屋に取材したところ、何とその魚屋は播磨ダイキチの家に魚を売ったことがあると言うのだ!


 魚屋によれば、播磨ダイキチは住民たちと交流することはなく、一人で農作業に精を出して暮らしていたらしい。

 アグラ市にいつ来たかはよく分かっていないが、魚屋が三年前に初めて魚を売りに来たときには、既に居住していたという。

 故に魚屋は彼を普通の住人だと思い、異世界転生者とは知らずに魚を売り続けていたそうだ。


 そして、この証言で重要になるのはここからだ。

 基本的に播磨ダイキチは、魚屋が村に来ると、自分から魚屋の元を訪れて魚を買っていた。

 しかしある日、毎回買いに来ていた播磨ダイキチが、買いに来ない日があった。


 少し心配になった魚屋は、他の住民に居場所を聞いて彼の家に向かった。

 そして、家の中に押し入った時────若い女性の姿を見たのだという。

 その家には、女性が住んでいたのだ。


 女性は播磨ダイキチの妻を名乗り、魚屋に『播磨ダイキチは病気だ』とだけ告げた。

 その背後では、五歳くらいの女の子が遊んでいる姿も見えたらしい。


 ……お分かりいただけただろうか。

 この証言の奇妙さに。


 今回の事件で、転生局は播磨ダイキチの処分しか発表していない。

 加えて、住民たちから僅かに聞き出した話によると、彼らは播磨ダイキチは一人暮らしだと思っていたらしい。

 播磨アイキチは周囲に『家族などいない』と述べており、殺される瞬間もそのように対応していた訳だ。


 では……魚屋が目撃した播磨ダイキチの妻、そして背後にいた子どもは何なのだろうか?


(中略)


 今回の事件では、不思議な点がある。

 移動型異世界転生者である播磨ダイキチが、結構な長期間アグラ市に潜伏出来た理由が、未だに分かっていないのだ。


 農家をやっていたらしいが、生活基盤はどうやって獲得したのか?

 火事の一件があるまで近隣住民は彼のことを怪しんでいなかったようだが、何故そこまでそつの無い対応が出来たのか?

 アグラ市では家を借りていたが、どうやって疑われずにそれを可能としたのか?


 これらの疑問は、ある発想をすれば容易に解決する。

 協力者がいた、と考えればどうだろうか。

 グリス王国の常識や生活の仕方を教える協力者が、彼の近くにいたのだ。


(中略)


 転生局が来る前に逃げ出したらしい彼女たちは、今でも尚、この国に潜んで異世界転生者に協力しているのかもしれない……」






(王都日報より ※当記事は別件で拘束された、赤羽レン容疑者の筆によるものであることを考慮されたし)


〈二月の特集:免罪符が与える権利〉


「……ここで、興味深い事例がある。

 アグラ市の異世界転生者と言えば、王都に住んでいる皆さんは思い浮かぶことがあるのでないだろうか。

 丁度二年前、炎の魔法を使える移動型異世界転生者がいたことで少し騒ぎになった場所だ。


 元々、アグラ市の住民は異世界転生者の捕縛に対して熱心だったそうだ。

 それが例の一件を契機として、情熱に火がついたらしい。

 最近では、異世界転生者を排除するために熱心に活動する人が増えているようで……。


(中略)


 その近くの地域に住む、ある家族の話をしよう。

 母一人、娘一人で力強く生きている二人だ。

 彼女たちは、過去にちょっとした事情──それがどんな事情なのかは、我々には語ってくれなかった──で『実は異世界転生者なんじゃないか』と疑われ、転生局の調査を受けたそうだ。


 結局疑いは晴れ、すぐに異世界転生者ではないことを示す証明書────所謂、免罪符が発行された。

 だが、彼女たちの苦労はそこで収まったわけではなかった。


(中略)


 母は仕事の度に横領を疑われ、まるで前科者のような扱い。

 娘は基礎教導院で酷いイジメを受けているのか、その肌に生傷が見え隠れする。


 いくら免罪符所有者の権利を守るように地方警士に動いてもらっても、この風潮は消えることがない。

 警士に発覚しない範囲で嫌がらせが続くだけだ。

 それどころか、どう考えても警士も一緒になってやっているような行為もいくつかあり……。


 結局はまともに暮らすことも難しくなり、免罪符の力で別の場所に引っ越す。

 しかし、またその場所でも噂になって……。


(中略)


 人々の無理解と偏見が免罪符の本来の役割を失わせてしまっているのは、嘆かわしい限りである。

 こう考えるのは、私だけだろうか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ