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内務省所属平和庁直属特務機関「転生局」  作者: 塚山 凍
四章 鏖殺人と「人間」の少女
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ある異世界転生者の家族に関する資料(転生局倉庫に保管されている新聞より抜粋)

(王都日報より)


〈速報:アグラ市に再び異世界転生者出現〉


「18日、転生局定例記者会見によって、15日にアグラ市において異世界転生者が現れ、転生局職員の手で殺処分されたことがわかった。アグラ市において異世界転生者が確認されたのは、今年度ではニ度目。


 転生局によると、15日の朝、アグラ市の市長から通報を受け、転生局がアグラ市のある民家へと緊急出動した。通報内容は、異世界転生者が魔法を使用する姿を目撃した、というもの。


 会見に同席した転生局副局長の話では、発覚は通報の三日前。転生者の潜伏先の家の近くで、火事が起きたのが切っ掛けである。連絡の混乱から、消防団の出動が遅れる中、野次馬の中にいた男性が炎に手をかざすと、一瞬にして炎が消失したという。


 偶然、その光景を目撃した人物が市長に相談。速やかに通報することに相成った。

 処分された異世界転生者は、播磨ダイキチ(異世界の表記では大吉)と自称していた男性。年齢は三十歳前後と見られるが、戸籍は偽造されていたため、正確には不明である。転生局副局長の訪問に際して、炎を操る魔法により攻撃、その場で処分された。


 転生局は、この地域に潜む異世界転生者は一人ではないかもしれないとして、近隣住民に注意を呼び掛けている。」




(グリス通信より)


〈アグラ市における異世界転生者─今日の社説─〉


「……今回の社説は、先週世間を賑わせた、アグラ市における異世界転生者の出現についてである。

 アグラ市はグリス王国南部に存在するが、比較的北部に近い。自分達のすぐ側に、長期間に渡って異世界転生者が潜んでいたと知り、恐怖に駆られた読者の方々も多いだろう。


(中略)


 加えて、今回の異世界転生者は、転生局の発表によれば移動型の可能性が高いようだ。今年度始めにもアグラ市で異世界転生者は見つかっているが、これは再誕型であり、生まれてすぐに処分されたため、被害はでなかった。


 しかし、今回は移動型である。読者の方々の中には、ご存じの方も多いだろうが、移動型は再誕型に比べて、早期に強力な魔法を使えるようになる。


 私がこの文章を書いているのは、王都の編集室だが、ここからアグラ市へ向かうとして、早馬を使えば三十分もかからない。そんな近くに、炎を操ることが出来るなどという、強力な魔法を有した異世界転生者が居たのだと思うと、背筋が凍る思いである。


 転生局では、なぜ転生直後に見つけやすい移動型異世界転生者が、アグラ市に潜伏できたのか、早期に原因を究明することが重要だと考え……」




(月刊グリグリパラダイスより)


〈我が社だけの独占スクープ!アグラ市の異世界転生者に協力者の影!?〉


「つい、先月世間を騒がせた異世界転生者のことは、読者諸君もよく覚えているだろう。この度、我が社に属する記者が、潜入取材の末に、ある驚きの証言を手にいれた。今回は、その証言について語ろう。


 パタン。うっ、今、読者の人たちがこの本を閉じる音が聞こえた気がするぞ。

 だが、待ってほしい。確かにこの雑誌は、真面目な人なら一生に一度も目にすることもないであろう、三流実話雑誌だ。今までも、ユニコーン発見だの、ドラゴン目撃だの、怪しい記事ばかり書いてきた。


 しかし、今回だけは、珍しく確かな証言が手に入ったのだ。どうかお聞き願いたい。


 ……事件が起こったアグラ市に、我が社の記者が潜り込んだのは、異世界転生者発見から二週間後のことだ。

 目的自体は、そう大きなものではなかった。久しぶりに、炎を操るなどという、そこそこ強力な魔法を扱える異世界転生者が現れたことが話題になったから、それに便乗しようとしただけだ。我が社では、日常茶飯事である。


 しかし、事件から時間が経っていたせいか、取材ではたいした成果はなかった。ただ、廃墟のようになった播磨ダイキチの家が見えただけだ。

 住民たちに話を聞いたが、どうも余所者に厳しい場所らしく、ろくな話を聞けなかった。


 しかし、諦めかけた記者に、とある形で幸運が舞い降りた。──魚屋に出会ったのである。

 アグラ市は内陸にあり、海がない。魚屋の中には、そう言った地域に魚を売りにいく者もいる。ダメで元々、と思って話を聞いたところ、なんとその魚屋は播磨ダイキチの家に魚を売ったことがあるという。


 魚屋によると、播磨ダイキチは住民たちとあまり交流することはなく、一人で農作業に精を出して暮らしていたらしい。アグラ市にいつ来たかはよくわかっていないが、魚屋が三年前にこの地域へ魚を売りに来たときには、既に居住していたという。


 重要なのは、ここからだ。

 ……基本的に、播磨ダイキチは魚屋が村に来た時、魚屋が訪問するのを待つのではなく、自分から家を出て、魚を買っていた。しかしある日、毎回と言っていい頻度で魚を買っていた播磨ダイキチが、買いに来ない日があった。


 少し気になった魚屋は、他の住民に居場所を聞いて、彼の家に向かった。

 そしてそこで見たのは────若い女性の姿だったという。その家には、女性が住んでいたのだ。


 その女性は播磨ダイキチの妻を名乗り、魚屋に播磨ダイキチは病気だ、とだけ告げた。その背後では、五歳くらいの女の子が遊んでいる姿も見えたらしい。


 ……おわかりいただけただろうか。

 今回の事件で、転生局は播磨ダイキチの処分しか発表していない。


 そしてまた、住民たちから僅かに聞き出した話によると、彼らは播磨ダイキチは一人暮らしだと思っていたらしい。

 では、この魚屋が目撃した、播磨ダイキチの妻と名乗る女性、そしてその背後にいた子どもは何なのだろうか?


(中略)


 今回の事件では、不思議な点がある。

 なぜ、移動型の異世界転生者の播磨ダイキチが、結構な長期間、アグラ市に潜伏できたのか、という点だ。


 農家をやっていたらしいが、生活基盤はどうやって獲得したのか?

 少なくとも近隣住人は、火事の一件があるまで彼のことを怪しんでいなかったらしいが、なぜそんな如才ない対応ができたのか?


 アグラ市にやって来て、家を借りていたが、どうやって疑われずにそれを可能としたのか?

 ……協力者がいた、と考えればどうだろうか。


 この世界の常識や、生活の仕方を教える、協力者が。


(中略)


 もしかすると、転生局の手を逃れた彼女たちは、今でもなお、異世界転生者に協力しているのかもしれない……。」





(王都日報より ※当記事は別件で拘束された、赤羽レン容疑者の筆によるものであることを考慮されたし)


〈二月の特集:免罪符が与える権利〉


「……ここで、興味深い事例がある。

 異世界転生者、そしてアグラ市、と言えば、王都に住んでいる皆さんは思い浮かぶことがあるのでないだろうか。ちょうど二年前、炎の魔法を使える移動型異世界転生者が居た、と少し騒ぎになった場所だ。


 元々、異世界転生者の捕縛に対して熱心だったアグラ市民だが、その一件を契機として、より一層、転生局の業務を助けたいと思ったらしい。


(中略)


 その近くの地域に住む、ある家庭の話だ。

 母一人、娘一人の家庭だが、ちょっとした事情──それがどんな事情かは、我々には語ってくれなかった──で異世界転生者だと疑われ、転生局の調査を受けた。


 結局疑いは晴れ、すぐに異世界転生者ではないことを示す証明書──すなわち、免罪符が発行されたが、彼女たちの苦労はそこで収まったわけではなかった。


(中略)


 母は仕事の度に横領を疑われ、まるで前科者のような扱い。

 娘は教導院で酷いいじめを受けているのか、その肌に生傷が見え隠れする。


 いくら免罪符で保証されているように、免罪符所有者の権利を守るように地方警士に動いてもらっても、風当たりが柔らかくなることはない。警士に発覚しない範囲で、嫌がらせが続くだけだ。

 それどころか、どう考えても警士も一緒になってやっているような行為もいくつか……。


(中略)


 結局、まともに暮らすことも難しくなり、免罪符の力で転生局の力を借りて、別の場所に引っ越す。しかし、またその場所でも噂になって……。


(中略)


 人々の無理解と偏見が、免罪符の本来の役割を失わせてしまっているのは、嘆かわしいとしか言えない。

 そう考えるのは、私だけだろうか。」

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