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内務省所属平和庁直属特務機関「転生局」  作者: 塚山 凍
三章 鏖殺人と証言集
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ある副局長へのインタビュー その三

─それではいよいよ、転生局に入局してからのお話をお聞きしたいと思います。

白:仰々しいね(笑)。お手柔らかに頼むよ。


─はい。では、基礎的なことからお聞きします。現在、転生局では何人の方が、どのように働かれているんですか?

白:まず当然、局長と僕。それから、事務をやっている女の子……この子は一等職員だね。後、雑務の女性が一人。こっちは二等職員。


─そして?

白:そして?以上だよ。計四人。


─はい?……確か、八名までは入局できたはずでは?

白:そうは言っても、なりたがる人が少ないからね。創設以来、八人だった時期の方が少ないよ。


─……失礼ながら、その人数でご職務を全うできるのでしょうか。いえ、決して能力を疑うわけではないのですが……。

白:そのこと、最近は平和庁内でも結構言われるんだよ(笑)。皆不思議に思うんだね。


─転生者の排除、彼らの潜む場所の調査、禁忌技術の取り締まりと転生局の職務は多岐に渡ると聞いています。八名ですら足りないと思うのですが、とても四名では……。

白:んー、えっと、転生局が中央警士をある程度自由に動かせることは知ってるでしょ?


─はい。緊急時、人手が足らない時には、一時的に中央警士を部下にするんでしたよね。

白:うん。そんな仕組みだから、正直な話、転生局の仕事は中央警士に頼ってる部分が大きくてね。市民からの通報の処理も、疑わしい人物の捕縛も、実際には中央警士がかなりやってくれているんだ。


─恥ずかしながら、初耳です。

白:そう?




─実は、白縫副局長へのインタビューの前に、転生局について理解を深めるために、幾つか異世界転生者が現れた場所を取材したんです。その時に目撃者から聞いた限りでは、どのケースでも鏖殺、失礼、局長さんが現れたようでしたから。

白:そりゃあ、目撃証言の時点で、異世界転生者で間違いないってなったら出向くさ。魔法を使われたらことだしね。


─では、それ以外の時は?

白:ぶっちゃけるけど、全部中央警士がやってくれてる。凄い時には、「この人物はこれこれこういう理由で捕縛しましたが、然々の理由から異世界転生者で間違いないと思います。排除をお願いします」って言って囚人が送られてきて、局長がはあ、そうですかってことで処分したりする。


─つまり、転生局の人員が直接捜査することは、案外少ないということですね?

白:そうそう。それでも、最近は結構捜査に参加してる方だよ。転生局を取り巻く状況も多少変わったし、異世界転生者かどうかわからない、微妙なケースが多かったからね。


─では、以前はもっと中央警士に頼っていたんですか?

白:僕が入局するさらに前は、流れ作業みたいな仕事が多かったらしいよ。向こうが「こいつは異世界転生者で間違いない」って断言した人物を、ひたすら斬り続けるような。「ティタンの粛清劇」以降、一般市民が異世界転生者を私的に捕まえるのは違法になってるから、その分中央警士が張りきったしね。


─しかし、そうなると、世間で語られている転生局のイメージとはかなり異なりますね。

白:世間では確か、局長があらゆる異世界転生者をバッタバッタとなぎ倒していく、なんて言われてるんだっけ?……期待外れかな?


─いえいえ、そんな……。

白:まあ、以上のことが君の疑問に対する答えかな。


─四名でも事足りる、ということですね。

白:そう。大体のことは中央警士局がやってくれるし、自ら出張らなくてはならないような事件は、半年に一回でも多いくらいだからね。極端な話、局長だけになっても誰も困らないと思うよ。


─転生者法の施行細則で、人員が八名に限定されているのも、そこが理由でしょうか?八名でも十分足りる、と?

白:それもある。建前としては権力の乱用を防ぐ、なんてのもあるけど、局長の権力なんて転生者関連に限定されるんだから、そこは大した理由じゃないよ。ただ……。


─ただ?

白:これは僕の完全な推測になるんだけど、多分転生者法が制定された時期は、転生者を探す必要なんかなかったから、人員が少なくなったんだと思う。


─探さなくても見つかるくらい、ありふれた存在だったと?

白:それこそ「ティタンの粛清劇」の原因がそうだったけど、転生局が探さなくても、勝手に皆が探して連れてきてくれたんだろうね。一人でも多く異世界転生者を殺すために。一般市民の私的逮捕が禁じられてからも、警士を介して似たようなことをやる人はいたそうだし。


─……当時の人々の憎しみは、それほどだったと?

白:大戦直後は、本当に酷かったらしいからねえ。そう考えると、むしろ転生局の仕事としては、さっき言った流れ作業を担う処刑人の方が正しくて、今の局長みたいに、捜査までする方がおかしいとも言える。


─ちなみに、なぜそういった実態を持ちながら、転生局が現在語られているようなイメージになったのでしょうか?中央警士局が捕まえに来るぞ、ではなく、転生局が捕まえに来るぞ、と言われるように……。

白:転生者結社を潰していった歴代の局長の手腕が過大に評価されたのと、初代ティタンの功績……佐藤トシオ殺害成功というのが大きいんだと思う。転生局が出来てから五十年くらいは、大きな転生者結社やテロ組織は局長が潰し、他の潜伏している異世界転生者は中央警士局が狩り尽くすっていう流れだったんじゃないかな。


─となると、異世界転生者の殺害は転生局職員しかできませんから、転生局は大きな組織を潰す合間に、捕縛された異世界転生者を処刑していったと?

白:だろうね。歴代のティタンからすれば、良い息抜きだったんじゃない?

─……。


─しかし、そういった活動の果てに、現代では、もはや国内では異世界転生者がほとんど見つけられないほどになったんですね。

白:うん。だから、当時の人々──転生局に入ってもいない職員や、市民の執念が分かるよね。フルメンバーでも八人しかいない転生局が異世界転生者を殺し尽くしたんだから、周りがそれだけのお膳立てをしたと言うことになる。


─……。

白:国民全員が異世界転生者を殺すことに対して努力していたというか、草の根を掻き分けても、異世界転生者を見つけようとしていたんだと思う。「ティタンの粛清劇」で問題になったのは、冤罪で異世界転生者を捕まえたと主張する悪人たちのせいだけど……そんな目的もなく、ある種純粋な義憤で異世界転生者を捕まえまくった一般人もいたそうだからね。正直、理解しがたいよ。


─……大変失礼な話ですが、よろしいですか?

白:何?


─白縫副局長は、異世界転生者という存在に対して、どうお考えですか?

白:どうって?


─こう、絶対に殺さなくてはならない存在だ!とか、市民の安全のために!とか。

白:(笑)


─どうされました?

白:ないない、そんなこと、ろくに考えてないよ。


─そう、なんですか?

白:例えばさ、リンゴを作っている農家がいるとしてさ、その人が、「リンゴというのはこの世界に存在しても良い植物なのだろうか」とか、「リンゴを収穫することとは、この世界にとってどういう意味を持つのだろうか」とか、考えないでしょ?


─まあ、はい。

白:仕事だからリンゴ育てて、仕事だから収穫している。それだけだろう?僕も同じだよ。


─そうですか……。

白:元々、手品のタネが知りたくて入った人間だからね。異世界転生者自体には、大した意見はないよ。好きでもないし、嫌いでもない。まあ、手品みたいな面白いものを持ってきてくれるから、ある種の親しみはあるけどね。










─すいません、異世界転生者に対する過激な考えに、賛同されていないご様子だったので。

白:うん、まあ、良いんだけどね。……だから、まあ、これも僕の仕事になるのかな。それゆえに、やらなくちゃいけない。


─というと?

白:記者を装って転生局について調べている、「人の翼」構成員の捕縛だよ。


(記録はここで途絶えている)

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