ある副局長へのインタビュー その二
白:話を続けるよ。先代ティタンは、僕の質問に対して少し戸惑ったような反応をしていたな。そっくりそのまま、僕に対して聞き返してきたよ。
──まさか、質問されるとは思っていなかったんでしょうか?
白:だろうね。君は若いからよく分からないかもしれないけど、先代ティタンの時代では、まだまだこの国でも異世界転生者の人口は多くてね。転生者主導で結成された危険な反政府組織だって、いくつかあったんだよ。そして先代ティタンは、たった一人でそれらの組織を次々と潰していった凄腕だった。だから今の局長と同等に……いや、それ以上に恐れられていたんだ。
──現代で言うところの、「人の翼」に当たるような組織でしょうか?
白:ああ、ナイト連邦で未だに頑張っているらしい転生者結社か……そうだね、うん、そのぐらいの理解で良いと思う。
──言われてみれば、白縫副局長の前に現れたそのサーカス団員だって、サーカスで芸を認められる程度の間はこの世界にいた訳ですしね。そんなことが可能になる程度には、今よりも潜伏している異世界転生者が多かった。
白:うん。<門>の発生頻度が、十年前は今以上だったからなあ。
──話を戻しましょう。取調室で質問してからのことです。
白:ああ、そこからか。僕が手品について質問すると……その答えはすぐに帰ってきたよ。
──どのような答えでしょう?
白:ん、ンッ(喉を整えて)……「違う。あれは異世界に存在する技術だ。奴はマジシャンだったからな。魔法抜きでもああいった見世物が可能だったんだ」……こんな感じだったかな。
──マジシャン?
白:地球では、奇術の類を見せることを専門にする人のことをそう呼ぶらしい。まあ、これは転生局に入ってから知ったことだけどね……この解答を聞いてすぐ、僕は家に帰された。だけど、先代ティタンがそう言ってくれたのが、僕にとっては人生の分岐点だったな。
──というのは?
白:んー、自慢みたいな話になるんだけど、僕はこれでも、小さい頃から結構学校の成績が良くてね。大抵のことは教師の説明を聞けば理解できるし、何なら世の中に理解できないことなんてないと思っていたくらいだったんだ。自分のことを賢いと自覚していたというか。
──後に、一級職員になられる子どもですものね。
白:そんな風な自信家だったから、僕は昔から、少しでも分からないことがあれば徹底的に調べるタチでね。自分がそれを分からないという事実が許せないんだ。何としてでも仕組みを解き明かして、理解したいと思っちゃうんだよ。
──となると、例の手品も?
白:うん。手品を見た瞬間から、絶対にそのタネを明かしてやろうと決意していた。何なら、文化祭が終わったらすぐにサーカス団の元に出向いて、その団員から聞き出そうとまで思っていたんだよ。
──しかし、異世界転生者が処分されてしまったから……。
白:そう、こちらとしては、その原理を聞く相手を失ったんだ。
──機会を逃してしまった訳ですね。
白:うん。ただね、その団員が異世界転生者だと聞いた後は、一事が興味を失ったんだよ。てっきり、あの手品は魔法を使って行われたんだと思っていたからね。物質再生とかの魔法を使って、トランプを復元したんじゃないかって。
──まあ、その理解の方が普通ですよね。
白:いくら知識欲が旺盛な当時の僕でも、流石に魔法を理解しようとまでは思っていなかったんだよ。何しろあれは、大戦前の学者がどれほど頭をひねっても、「<門>のエネルギーを利用している」以外のことが分からなかった代物だからね。仮にあの手品が魔法によるものだったとしたら、自分に仕組みが分からなくても仕方ないか、と考えていたんだ。
──ところが、実際にはその手品は魔法によるものではなかった……?
白:そう、先代局長の言葉を信じるなら、そうなる。あくまでマジシャンとしての技術を使って行った、魔法抜きでもやれる手品だったんだから。
──ということは、若き日の白縫副局長としては、その「手品」のタネはやはり解き明かしたい対象になったんですね?魔法を使わずにあれができるというのなら、その仕組みを見てみたくなった。
白:察しがいいね。その通りだよ。
──では、その手品のタネを調べるために、転生局への道を……?
白:そうだよ。
──……。
白:だって、悔しいじゃないか。魔法を使っていないということは、あの手品は練習さえすれば習得できる技術であるはず。何としてでも、それを理解したかったんだ。
──しかし、ただタネを知るだけであれば、他の選択肢もあったのではないですか?他の団員に聞くだとか……。
白:いや、それは無理だったよ。一応その団員が所属していたピリオドサーカス団を訪ねてみたこともあるんだけど、もうその時には潰れてしまっていたから。
──それはやはり、団員に異世界転生者がいたために?
白:風評被害という物は当時からあったからね。転生者による反政府活動がそこそこ活発だったこともあって、今よりもさらに転生者に対する風当たりはきつかったんだよ。当然、異世界転生者が紛れ込んでいたサーカス団なんて、すぐに解散することとなった。お客が来ないからね。
──そうだったんですか。
白:まあその団員は、そもそも親しい人間にも手品のタネを漏らしていなかったらしいから……仮にサーカス団が存在していたとしても、満足のいく答えは得られなかっただろうけど。
──そのことから、気になる手品のタネを知るためには、転生局に入るしかないと思われたんですね。転生局が押収した異世界転生者の私物を見れば、タネが分かるかもしれないから……。
白:うん、異世界由来の技術に関する資料は、「禁忌技術」として転生局に押収される。その団員の持っていたはずの資料────マジックのネタ帳を見れば、答えを得られる。となれば、それを見るには入局するしかないっていう思考回路。
──失礼ながら、歴代の転生局職員の中で、同様の理由で入局された方は存在されるのでしょうか。
白:さすがにいないよ(笑)。入局した時には局長は代変わりして、今の局長になっていたんだけど、あの人すら面食らっていたんだから。
──鏖殺に、失礼、局長もさぞ驚かれたでしょうね……因みに、懸案の手品のタネについては、結局のところ分かったんですか?
白:ああ、理解できたよ。幸いにして一発で一等国家試験に受かったから、研修中に見せてもらったんだ。えーとね(自身のポケットをまさぐる)、ここに、君が会った時に渡してきた名刺がある。
──はい。
白:それを、こう……破る(実際に記者の目前でそれを引き裂く)。
──紙屑のようになりましたね。
白:じゃあ……(指を鳴らす)。はい、君の胸ポケットを見てごらん。
──え……名刺があります!なんで?さっきまでなかったのに!?
白:まあ、こんな感じだよ。練習すれば、君だってできる。
──すごいですね……。
白:もし何かの理由で転生局をクビになったら、これを使ってマジシャンとして生きていこうかな(笑)。タネもセットで売り付けたら、ちょっとした金持ちになれるかもしれないし。
──……今の発言は編集で消しておきます。禁忌技術の内容を売ることを示唆するのは、さすがに……。
白:別に構わないと思うんだけどなあ。




