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内務省所属平和庁直属特務機関「転生局」  作者: 塚山 凍
三章 鏖殺人と証言集
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ある副局長へのインタビュー その二

白:話を続けるよ。……先代の局長は、僕のその質問に対して少し戸惑ったような反応をしていたな。そっくりそのまま、僕に対して聞き返してきたよ。


─まさか質問されると、思っていなかったんでしょうか?

白:だろうね。君は若いからよく分からないかもしれないけど、先代の局長が若い頃は、まだまだこの国でも異世界転生者の人口は多くてね。転生者主導で結成された、無視できないほど危険な反政府組織だっていくつかあったんだよ。……先代は一人でそれらの組織を潰していった凄腕だったからね。今の局長と同等に、いや、それ以上に恐れられていたんだ。


─現代で言うところの「人の翼」に当たるような組織でしょうか?

白:ああ、ナイト連邦で未だに頑張っているとかいう、転生者結社か……。そうだね、うん、そのぐらいの理解で良いと思う。


─言われてみれば、白縫副局長の前に現れたそのサーカス団員も、サーカスで芸を認められる程度の期間、この世界にいたわけですしね。

白:うん。門の発生頻度が、十年前は今以上だったからなあ。


─話を戻しましょう。取調室で質問してからのことです。

白:ああ、そこからか。質問の答えはすぐに帰ってきたよ。


─どのような答えでしょう?

白:ん、ンッ(喉を整えて)。「……違う。あれは、異世界に存在する技術だ。奴はマジシャンだったからな」、だったかな。


─マジシャン?

白:異世界で、奇術の類を見せることを専門にする人をそう呼ぶらしい。まあ、これは転生局に入ってから知ったことだけどね。……その後は生憎、すぐに家に帰されちゃったんだけどね。だけど、先代の局長がそう言ってくれたのは、僕にとっては人生の分岐点だったな。


─というのは?

白:んー、自慢みたいな話になるんだけど、僕はこれでも、小さい頃から結構成績が良くてね。大抵のことは教師の説明を聞けば理解できるし、何なら世の中に理解できないことなんてない、なんて言い出すくらいには、頭が良かったんだ。


─後に一級職員になられる子供ですものね。

白:そんな風な自信家だったから、僕は昔から、少しでも分からないことがあれば徹底的に調べるタチでね。


─となると、例の手品も?

白:うん。絶対にそのタネを明かしてやろう、なんなら、文化祭が終わったらサーカス団の元に出向いて、その団員から聞き出そう、とまで思っていたんだよ。


─しかし、異世界転生者が処分されてしまったから……。

白:そう、こちらとしては、その原理を聞く相手を失ったんだ。


白:ただね、最初はそこまで興味があるわけじゃなかったんだ。というのも、例の団員が異世界転生者だと聞いて、てっきりあの手品は魔法を使って行われたんだと思っていたからね。物質再生とかの魔法。


─まあ、その理解の方が普通ですよね。

白:いくら分からないことが存在する、というのが許せない子どもでも、さすがに魔法を理解しようとまでは思っていなかったんだよ。何しろ、あれは大戦前の学者がどれほど頭をひねっても、「門のエネルギーを利用している」以外のことが分からなかったとか言う代物だからね。もしあの手品が魔法によるものだったとしたら、自分に仕組みが分からなくても仕方ないか、と考えていたんだ。


─ところが、実際にはその手品は魔法によるものではなかった……?

白:そう、先代局長の言葉を信じるなら、そうなる。


─ということは、若き日の白縫副局長としては、その「手品」は、理解していないことが許せない対象になったんですか?

白:察しがいいね。その通りだよ。


─では、その手品のタネを調べるために、転生局への道を……?

白:そうだよ。


─……。

白:だって、悔しいじゃないか。魔法を使っていないということは、あの手品は、他のサーカス芸と同様に、練習さえすれば習得できる技術ということになるだろう?何としてでも、それを理解したかったんだ。


─しかし、ただタネを知るだけであれば、他の選択肢もあったのではないですか?

白:いや、なかったよ。一応その団員が所属していたピリオドサーカス団を訪ねてみたこともあるんだけど、その時には、そこは既に潰れていたんだ。


─やはり、団員に異世界転生者がいたために?

白:風評被害、というのは当時からあったからね。さっきも言ったけど、転生者による反政府活動がそこそこ活発だったこともあって、今よりもさらに転生者に対する風当たりはきつかったよ。


─そうだったんですか。

白:まあ、そもそもにして、その団員は、さすがに自分の持つ技術が、この世界にはないものだと気が付いていたらしくてね。親しい人間にもタネを漏らしていなかったらしいから、仮にサーカス団が存在していたとしても、満足のいく答えは得られなかっただろうけど。


─そのことから、気になる手品のタネを知るためには、転生局に入るしかない、となったんですね。

白:うん、異世界由来の技術に関する資料は、「禁忌技術」として転生局に押収されるからね。その団員の持っていた資料──要するにネタ帳を見れば答えを得られる。となれば、それを見るには入るしかないっていう思考回路。


─失礼ながら、歴代の転生局職員の中で、同様の理由で入局された方は、存在されるのでしょうか。

白:さすがにいないよ(笑)。入局した時には局長は代変わりして、今の局長になっていたんだけど、あの人すら面食らっていたんだから。

─鏖殺に、失礼、局長もさぞ驚かれたでしょうね。


─ちなみに、懸案の手品のタネについては、結局のところ分かったんですか?

白:ああ、理解できたよ。幸いにしてストレートに一等国家試験に受かったから、研修中に見せてもらったんだ。えーとね(自身のポケットをまさぐる)、ここに、君が会った時に渡してきた名刺がある。


─はい。

白:それを、こう……破る(実際に記者の目前でそれを引き裂く)。


─紙屑のようになりましたね。

白:じゃあ(指を鳴らす)、君の胸ポケットを見てごらん。


─え……。名刺が、ある!なんで?さっきまでなかったのに!?

白:まあ、こんな感じだよ。練習すれば君だってできる。


─すごいですね……。

白:もし何かの理由で転生局を首になったら、これを使ってマジシャンとして生きていこうかな(笑)。タネもセットで売り付けたら、ちょっとした金持ちになれるかもしれないし。


─……今の発言は編集で消しておきます。禁忌技術の内容を売ることを示唆するのは、さすがに……。

白:別に構わないと思うんだけどなあ。

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