幻影の一撃
雫姉さんが身内で人気で何よりです
「弘樹さぁーん♡」
と飛びかかってきたロキを俺は右手で払いのける。
ロキはそのまま地面に顔面ダイブした。
「ひっ、ひどーいです!なんで受け止めてくれないんですか!!」
「急に学校に転校してきて、しかも急に飛びついてくればそりゃあ払いのけるわな、バカなの?」
そうだ、そもそもこいつ…どうやって学校に入れたんだ。
神様だろ?戸籍とかないんじゃ……。
「ふっふっふ。分かりますよぉ〜弘樹さんが言いたいことが手に取るように分かります」
なんだ、こいつむかつくな。
なぜドヤ顔なんだほんと。
「言ってみろよ、ほれ」
「どうせ、『どうやって…学校に入れたんだ?』とか思ったんでしょ?」
悔しいが当たってた。
だがそのハスキーボイスは一体誰の真似だ。
もしも俺だというのなら、昨日の続きをしてやっても……。
「もぅー、そんなに睨まなくてと教えてあげますってぇ!」
別に教えて欲しくて睨んでたわけじゃないんだが……。
鋭いようで鈍いやつだな、ロキは。
「まぁ簡単に言うとですね……催眠術でみんなの記憶に私を挟み込んだんですよ。すごいでしょ!神様でしょ!」
さらっとやばい事言ったなこいつ。
俺は目の前の美少女、ロキという神のことを多少調べてきた。
いろんな諸説あったが、どちらかというと悪い神だ。
人を欺いたり、裏切ったり、そんなやつのことを信用していいものか。
というかこの学校は大丈夫なのか?まさかここにいる全員がロキに操られてるとか?
「心配しなくても大丈夫ですよ、彼らの記憶にあぁーそういえば転校生来るって言ってたなぁとかその程度のことしか突っ込んでないんで」
「別に操って利用しようだなんて考えてませんよ!」
「ふーん」
まっこと信じ難いが、疑えば限りがない。
まぁ親父が紹介したやつだし、悪いやつとは考えづらいな。
それより……。
「ホームルーム中にこんだけ喋ってて誰も突っ込まないな、これもお前の仕業か?」
現実にラノベでよくあるご都合空間は存在するはずがない。
だが明らかに反応がないのだ。
先生も何事もないように進めていく。
「えぇ……もちろん知られては困る話ですからね、そこら辺は聴覚カットですよ」
そういえば、感覚を操る魔剣を持っていたな。
何かと便利そうだ。
「……はぁ、なんか面倒なことになったなぁ」
「まぁまぁ楽しくやりましょうよ!」
でもこうしてみると彼女はただの女子だ。
髪も茶色になってるし、制服姿に違和感はない。
外見は俺と同い年なんだろうな。
実際の年齢は怖くて聞けたもんじゃない。
さて、これから三年間何事もなく平和に過ごせたらいいのだけど……そんなことはないだろうなーと俺はしみじみ思うのだった。
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時は少し過ぎ、昼休み開始のベルが鳴る。
「さて……」
俺は重い腰を上げて、教室を後にする。
朝の約束、昼休み屋上でね♡とのことだったので、とりあえず昼飯を片手に屋上へ向かう。
のだが、
「……いやなんでお前らが付いてくるんだよ」
ロキと唐沢が壁チラしていた。
尾行していたのがバレて焦るロキと違い、唐沢は変な笑いを上げている。
「いやぁほら、屋上といえばいろんなイベントが発生するでしょ?もしかしたら告白とか!」
「えっ!?それってマジですか!?唐沢さん!!」
「まじ☆やで」
唐沢がロキに変なことを吹き込んでいる。
とりあえず、顔面キックで最下層まで転がしてやった。
「あらぁ〜唐沢さんって人間のくせに丈夫なんですねぇ」
「きのせいだよ、とりあえずロキはこいよ」
雫と名乗る少女に聞く内容はフェンリル関連だ。
ロキがいれば、その情報の真偽が分かる。
しかし唐沢にいられるのは都合が悪い。
唐沢にはロキの正体を隠しておきたい。
なので退場してもらった。
「じゃあ行くぞ」
「はい!」
俺はギシギシと軋むドアを開け放った。
心地よい風が吹きこみ、青い空が広がる。
そこには小柄な人間が立っていた。
雫だ。
「おー早いじゃない。まぁそこら辺に座ってー座ってー」
相変わらず、髪もボサボサ、クマもひどい。
本当にこんなやつが情報持っているのだろうか。
俺はゆっくり雫のそばに腰掛ける。
ロキは俺のすぐ横に座った。
「さて、とりあえずご飯でも食べましょ〜。腹が減ってはどうちゃらこうちゃらですよ」
のんきに弁当を開く雫、もちろんそんな空気ではない。
「空気を読めよ、俺は早く情報が欲しいんだ」
苛立ちを覚えつつ、そう言った。
しかし、雫はそんな俺を見て笑顔でこう言い放った。
「知ってどうするんですかぁ?所詮ただの人間……むだ死にするだけですよっとぉ」
唐揚げを口に放り込む。
「……じゃあなんで俺に情報を渡すと言ったんだ?」
「なんでって?そんなの決まってる……諦めてもらうためですよ」
諦める……か。
「そんなたまに見えるか?俺が」
雫は俺の方しばらくじっと見て、
「まぁ融通が利かなさそうな顔はしてますねぇ」
「あぁ、そうだ。だから説得だなんて無駄なことはやめて、早く情報渡してくれ」
ガチャっと箸を弁当箱に置く雫、
そして体を細かく震えさせ……。
「ふふふ……ははははっ!!」
いきなり大声で笑い出した。
「どこで笑う要素が……」
苛立ちが限界に達し、立ち上がろうとしたその瞬間だった。
殺気のようなものを感じた。
それも鋭い刃のような突き刺す殺気だ。
俺は瞬間的に後ろに飛び退いた。
「お、おまえ……」
「一応、殺気の感知くらいはできるみたいだねぇ、褒めてあげるよ」
「で、そこの女の子は感知してたみたいだけど、回避行動は取らなかったね、なんでかなぁ?」
ロキはその場から一歩たりとも動いていなかった。
それどころか、のんきに弁当を食っていた。
「おい、ロキ。なんでそんなのんきに……」
「ん?だって避ける必要ないですし」
ひょうきんな返答だ。
元から頭のネジ外れてるようなやつだけど。
「そりゃあ神様からしたら私の殺気なんて、ペロペロキャンディー並に甘いでしょ〜。まぁそんなわけでこれが力の差だよ?弘樹くん♡」
「どうゆうことだよ……」
「えっ?まだわからないのかなぁー、君とロキの力の差は歴然ってのはわかったでしょ?そしてたかだか私の殺気でビビったあんたは私より弱いってこと〜」
雫の物言いにカチンときた。
「はぁ……昨日から勝手なこと言うやつばっかだな。女性に手を上げるのは流儀じゃないが、俺のことを舐めすぎだ、お前」
「じゃあ、どうするの?君は私に触れることすらできないよ?この距離でも……」
俺と雫の距離は二メートル半ほどだ。
俺の瞬発能力なら反応させず、触れられる。
「言ってくれるな、じゃあ触ってやるよ。その慎ましい胸をもんでやるよ!」
「誰がつつましいだぁ?半殺しにするぞぉ?」
無意識的に変態の手つきになっているが、気にするな。
俺は変態だ。
対する雫はさっきとは違い、おぞましい殺気を放っていた。
慎ましい胸が効いたようだ。
「……いくぞ」
一瞬……一瞬でいいのだ。
聖拳の力を足に集中させて、俺は超加速する。
そしてあの慎ましい胸に向かって手を伸ばす。
それだけでいい。
それだけで勝つのだ。
「……甘いね」
俺は倒れていた。
慎ましい胸も需要ありますよ!気にするな!




