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【本編完結済】Memory's Dogma - 記憶をデータ化できる2030年の日本で巻き起こる脳科学×異能サスペンス  作者: 高橋ワタル
CODE: 02 〈九重朱音 編〉

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終 優しい光の中で

「……ん……」


 瞼を開くと、白い天井が見えた。


「……ここは」


 体が重い。自分のものじゃないみたいだ。ここは……病院、だろうか?


「おっ、気が付いたか」


 傍らから、声がした。声の方を見ると、俺が寝ているベッドの、更に奥側のベッドの上に、寝そべる朱音の姿があった。彼女は、この前の夜の出来事が嘘のように、いつも通りの調子でそこに居た。


「どうだ? 五日ぶりに目覚めた感想はよ?」

「えっ……五日? 俺、そんなに眠ってたのか……うぐっ!?」


 起き上がろうとした直後、腹部に強い痛みが走り、思わず呻いた。


「おいおい、まさか記憶喪失なんて訳じゃねーよな?」


 呆れ気味に朱音にそう言われて、俺も思い出した。


「ああ、そうか、俺、銃で撃たれたんだっけ。はは……」

「はは、じゃねえよ! アタシがどんだけ心配したと思ってんだよ!」


 その剣幕は、冗談ではなく本気で心配してくれていたことの証だった。


「ああ……すまん。そして、ありがとな、朱音。ずっと看病してくれてたのか」

「看病っていうか……まあ、隣のベッドでずっと寝転がってただけだけどな」


 こういうことを言う時、朱音は照れ隠しをしているのだということを、俺はここ数日で学んでいる。


「おい、オマエ、なに笑ってんだよ」


 どうやら自然と笑みがこぼれていたらしい。


「いや、本当に、朱音が無事で嬉しいんだ。そういえば、俺たちが無事……ってことは、勝ったんだな? あいつらに」

「ヘヘっ、アタシが負ける訳ねーだろ?」


 そこで朱音は、勝ち気な笑顔から一転、悲しげな表情を見せた。


「……だが、エマは見つからなかった」

「そうか……」


 重い沈黙。彼女にとってその事実は、数日意識を失っていた俺なんかよりも、ずっと悲しいことだ。何か言おうと口を開いた時――


「おおっ、楠原氏!  目が覚めたのか!」


 病室の扉が開いて、秋月さんが入ってきたのだった。


「あ。秋月さん! 秋月さんも、無事だったんですね!」

「当然だろう? あそこは私の庭なんだぞ」


「ふ、悪運だけはつえーよな、おっさんは」と朱音が茶化す。


「いやいや、だから運じゃなくて、地の利を活かした私の戦略的勝利であってだな……」

「はいはい」


 この三人でまた、このやりとりが出来ること。それが俺には、すごく嬉しくて、同時に、すごく切ない気持ちになった。


   *


 秋月さんによると、その後、到着した警察たちによって、岩垣たちは逮捕された。


 それだけじゃない。朱音の父、英介さんが遺したMDRに保存されていた映像データが証拠となり、岩垣の警備会社は強制立ち入り捜査が行われ、そこで様々な違法行為を示す証拠が発見されたのだと言う。


 そして、芋づる式にJCOとの関与を示す証拠も発見された。


――岩垣は、失脚したのだ。


 それだけではない。コネクトセンターは無期の営業停止処分を受け、今の所、それが再開する目処は立っていない。


 俺たちは勝利したのだ。岩垣を倒し、コネクトセンターを閉鎖直前にまで追い込んだのだ。


 俺は朱音の方を見た。彼女は屈託の無い笑顔で、秋月と話している。


 それは、彼女が戦いに身を投じるなんてことをしなくても、手にして良かったはずの、平穏と、少女らしさ。


 そんな彼女の顔をみて、俺は――


「おいおい、何泣いてんだよ? ヒロキ」


 そうだ。彼女は手にして良かったんだ。平穏を。笑顔を。そして、未来を。考えれば考えるほど、涙が止まらなかった。


「ヒロキ」ふと気がつくと、朱音は俺のベッドの横に立ち、俺の手を優しく握ってくれていた。


「朱音……」俺は、その手を引き寄せて――「あっ……」朱音を抱きしめていた。


「ごめん。朱音」


――俺はどうして、彼女を守れなかったんだ。


「ふふ、変なやつ」


 そう言うと、朱音は俺を優しく抱き返してくれた。朱音の身体は、温かかった。


「これからも、アタシたちはずっと一緒だ。そうだろ?」


 その言葉に、俺は一瞬言葉を詰まらせた。


――なんて言葉をかけたらいい? 彼女を守ることの出来なかった、この俺に。


「ああ……そうだな……」


 そう言うのが、精一杯だった。俺はそのまま、長い時間、朱音を抱きしめ続けた。


 窓から差し込む光が、朱音の身体を、背後から優しく包んでいた。


【次回予告 - CODE: 03 〈エマ 編〉】※2026年11月より連載開始予定

朱音の父親が残した手紙の消印を頼りに、裕樹たちはとあるマンションへと辿り着く。部屋の中へと潜入する朱音を待つため、アジトで待機していたエマと楠原の前に、不思議な気配をまとった少女が現れる。〈ミウ〉と名乗るその少女との出会いは、やがてエマを「自身は何者なのか?」という問題へと突き動かしていく。

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