第1話:『チェックメイトは、優雅な茶会の後で』
シャンデリアの冷たい光が、大理石の床を鏡のように照らしている。
卒業パーティー。本来なら祝祭の場であるはずのそこは今、一人の少女をなぶり殺すための「処刑場」と化していた。
「アルティナ・フォン・グラナード!貴様との婚約を破棄し、国外追放を命ずる!」
第一王子・カイルの怒声が広間に響き渡る。彼の傍らには、庇護欲をそそるような仕草で震える「真実の愛」の相手――男爵令嬢の姿があった。
「貴様のような冷酷な女は、我が国の王妃にふさわしくない。軍部を私物化し、あまつさえエレンを陥れようとした罪、万死に値する!」
周囲の貴族たちは、一斉にアルティナを蔑みの目で見つめる。
昨日まで彼女の軍略にすがり、国境の安寧を願っていた連中が、今は勝ち馬に乗ったつもりで嘲笑を浮かべていた。
だが。
「……ふぅ。ようやく、お話は終わりかしら?」
凛とした、鈴を転がすような声。
アルティナは、ドレスの裾を乱すこともなく、手にした鉄扇をゆっくりと閉じた。
その瞳に宿るのは、絶望でも悲しみでもない。
ただ、愚かな獲物を見下ろすような、底冷えするほどの「退屈」だった。
「アルティナ……貴様、この期に及んでその態度は何だ!」
「いいえ、殿下。あまりに予定調和な演説でしたので、つい。……で、私を追放なさるということは、私が管理していた『国境防御網』の維持管理権も剥奪する、ということでよろしいですね?」
「ふん、貴様の小細工など、宮廷魔導師たちが引き継げば済むことだ!」
アルティナの口角が、わずかに吊り上がる。
前世で巨大企業の腐敗を切り捨ててきた彼女にとって、この展開は「詰み」へ向かうための最短ルートに過ぎない。
「承知いたしました。では、今この瞬間をもって、私はこの国の『盾』であることを辞めさせていただきますわ」
彼女がパチンと指を鳴らした。
その瞬間。
王城全体を包んでいた目に見えない「圧」が霧散するように消える。
アルティナが独自の演算魔法で維持していた、国を守る絶対の結界が消失したのだ。
「あら。さっそく北の国境が騒がしくなってきたようですわね?……殿下、最後にご忠告を。私のいない盤面で、生き残れるとでもお思いかしら」
アルティナは優雅に一礼し、踵を返した。
その背中には、もう未練など一欠片もない。
「チェックメイトですわ。……せいぜい、私がいない静寂を楽しんでくださいな」
石畳を叩く靴音だけが、絶望の序曲のように響き渡っていた。
はじめまして。あるいは、前作から引き続きお越しいただいた皆様、ありがとうございます!
新連載となる本作は、**「圧倒的に強くて、最高に格好いい女性主人公を描きたい!」**という情熱からスタートしました。
ただ守られるだけの令嬢ではありません。
自分を裏切った国を、感情ではなく「論理」と「実力」で淡々と追い詰めていくアルティナの快進撃を、ぜひ最後まで見守っていただければ幸いです。
本作はしっかりとした章立て構成で、書籍化・コミカライズも視野に入れた重厚な(けれどスカッとする!)物語を目指していきます。
もし「アルティナ様、格好いい!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、下にある**【☆☆☆☆☆】**評価やブックマークで応援いただけると、執筆の大きな励みになります!
次回、第2話『国境の狂犬と、美しき軍神』。
追放された彼女を待ち受けていたのは、敵国の恐るべき「あの男」で――。
明日も同時刻に更新予定です。お楽しみに!




