77,考えても意味のないことと会わずにいられないこととついに伸が言ったこと
だが、生野は言う。
「なんだよ。話したくないのか?」
「そういうわけじゃないけど……」
「じゃあ聞かせろよ。別にいいだろ?」
「いいけど……」
自分だったら、片思いの相手の恋愛話を聞くなんて絶対に嫌だと思うが、生野は、そうではないのだろうか。
有希は、コーラを一口飲んでから答える。
「去年、パークレストランのアルバイトに応募したんだよ。でも、面接のときに緊張して具合が悪くなって。
そのとき、伸くんが介抱してくれた。結局アルバイトはしなかったけど、それがきっかけ」
事実は、少し違うのだが、簡単に人に理解してもらえるようなことではないし、話せることでもないので、便宜上そういうことにして、母にも同じ説明をしたらしい。「らしい」というのは、有希は、そのときのことを覚えていないからだ。
「へぇ。そうなのか」
生野は、言ったままを信じてくれたようだ。
「じゃあ、しょうがないな。俺がお前のことが気になるようになったのって、三年になってからだし」
何気ないふうに言ってポテトを頬張っているが、生野の自分に対する思いが真剣なもので、今、なんとか吹っ切ろうとしているのかと思うと、胸が痛い。
「生野……」
生野が微笑んだ。
「そんな顔するなよ。俺の話、聞いてくれてありがとう」
「僕も。……ありがとう」
生野は、最後のフライドポテトを口に入れると、紙の容器を握りつぶした。そして、コーラを飲み干して言う。
「さて。帰るわ。明日また、学校でな」
ベンチの横のごみ箱に、空いたカップや包み紙を捨てると、生野は、ひらひらと片手を振って、ゲートに向かって歩いて行った。
有希は、黙って見送ることしか出来なかった。
なんだか、とても切ない。自分の愛する人は伸だけで、それは、この先もずっと変わらないが、もしも伸と出会っていなかったならば、どうしていただろう。
生野は、最初に自分が感じた印象よりも、本当は、ずっと繊細で真面目なのだと思う。もしも自分が一人だったならば、彼の気持ちに答えられただろうか。
そこまで考えて、有希はため息をつく。そんな仮定の話に意味はない。今までもこれからも、自分が愛する相手は、伸以外にはいないのだから。
有希は、スマートフォンを取り出して、伸にメッセージを送った。
――今、噴水の前のベンチにいます。待っているから、仕事が終わったら来てくれるとうれしいな。
生野は、ひとりぼっちで帰ったのに、自分だけ、ずるい。そう思いながらも、寂しくて悲しくて、このまま家に帰る気になれない。
どうしても、伸に会わずにはいられない。
「お待たせ」
声をかけられて顔を上げると、私服に着替えた伸が立っていた。いつもの優しい笑顔だ。
「伸くん。こんなところに来ちゃって、ごめん」
有希の顔を知っている沙也加や中本に、一緒にいるところを見られてはいけないのに。
「いいよ。何かあった?」
「うぅん」
有希は、首を横に振る。
「何もないけど、伸くんに会いたくなって」
「そう。うちに来るだろ?」
「うん」
有希は、ベンチから立ち上がった。
ゲートに向かってぶらぶら歩きながら、伸が言う。
「そう言えば、今日、ユウと同じ制服を着た子がレストランに来たよ。もしかして、友達?」
生野のことだ。有希は、内心、冷や汗が出る思いで答える。
「さぁ。知らないけど……」
「そう。あぁ、そうだ。今日はこれからスーパーに寄りたいんだ。ユウ、何が食べたい?」
話題が変わったことに、少しほっとする。
「えぇと、僕は……」
伸と一緒にスーパーに行くなんて、普段ならば、とても楽しいことのはずなのに、今日はそういう気分になれない。何を聞かれても、まともに答えることが出来ない有希を見て、伸も怪訝そうな顔をしている。
部屋に入っても、いつものように抱きついたり、キスを求めたりしない有希に、ついに伸が言った。
「やっぱり、何かあったんじゃない? よければ、話を聞くけど」




